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issue 04 「トリップできるカレー。 いざ、妄想インドへ旅立とう」 by ivy

中央線は、カレーの色をしている。
先にいっておこう、本気だ。快速のオレンジはガラムマサラ、各駅のイエローはターメリックの色といえる。少なくとも、私の中では。

カレーは日本の国民食、なんていう人もいるし、食べられるカレーのバリエーションでいえば、下手したら本場インドに匹敵するんじゃないかとすら思える。ただ、それにしてもここまでカレー激戦区が集まり、カレー好きたちを運搬する路線はほかにない。カレーに愛され、カレーを愛する者たちの脚が中央線なのだ。

で、中央線屈指のカレータウン、高円寺にカレーを通して異世界へ跳べる扉がある。心配いらないよ、一度だけ試してみなよ、こっちの世界ではみんなやってるよ。カレーが好きなら行かなきゃ、ダメ、ゼッタイ。

カレーとひと口にいっても、一筋縄にはいかないもので、インド、タイ、欧風、家カレー風、色々とある。カレーに関してはジャンル分けがないとなかなか好みの一皿を見つけるのは大変だから、ありがたいといえばありがたいのだけれど、今回話すカレーはおそらくここにしかない、且つ非常に的確なカテゴライズだ。

その名も「妄想インドカレー ネグラ」。


入口にはド派手なピンクの提灯、店内はサイケデリックな原色壁画、加えて店名…… 既視感はカレー屋さんというよりアレだ、クーラ・シェイカーのアルバム "K" みたいな、非インド人、インドに住んでいない人が勝手な想像で創り上げた、パラレルインド。

メニューを見てこれまた強烈。
古代大根のアチャール、砂肝のマリネ、シラスの山椒和え…… 妄想でもインドで登場しなそうなラインナップがずらり。

結論としては、旨い。それも、めちゃくちゃ旨い。病みつきになるほど。
ただ、お喋りサブカルクソヒゲメガネを自称する私でも、言葉に詰まるほど、説明がつかない味だ。敢えていうなら、何がなんだか全くわからないけれど、旨い。よくわからないけど旨い。何を食べているのかすらわからないときがあるけれど、旨い。こんな感じか。素材の味は完璧に活かしていて、メニューを見ながらスプーンを進めると確かに腑に落ちる。ただ、絶対にそれだけに終わらないのが「ネグラ」のカレーの恐ろしさ(?)。脳の情報処理、頭の中の味覚のアーカイブに明らかにエラーが起きるような、未知の感覚を味わえる。

そんな未知の快楽に身を任せ、プレートを平らげる。食後のチャイで一息つきながら、気がついた頃には、「ネグラ」が繰り広げる妄想インドが、間違いなく自らの身体で体験した現実のものとなっている。
非現実、妄想、幻覚は、自らが体験していないから得体の知れないもので、身体で触れた途端、それは自らもその目撃者となり、現実となる。未知が既知になる。その瞬間はまさに、トリップだ。別世界への入り口をくぐり抜けている。

不思議なもので、お会計を済ませて店を出たら、的確な説明が浮かばなくなるのだから、きっと現実世界に引き戻されているんだ。快楽は身体が覚えているから、高円寺の駅のチャイムを聞いたら早くもあのピンクの提灯が恋しくなる。金曜日じゃなくたって、関係ない。

今日もまた、あの扉を開けよう。


ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。
創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。
日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside​

イラスト:あんずひつじ
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