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issue 52 「ああ、いとしのシャギードッグ。」 by ivy

シャギードッグ。

改めて口にしたくなるくらい、可愛らしい名前だ。お気に入りの服に気の利いた愛称があるのは、好きな子の名前が可愛いのと同じくらい素敵なこと。

昔、アメリカのコメディドラマでも同名のものがあったらしいけど、今回はセーターの話。たまに服屋に行くと見かけない?全体的にモフモフしていて、わんこの毛みたいになったニットが。

それこそが今回の主役、「シャギードッグセーター」。元々はスコットランド北部の漁師たちが北海の寒さを凌ぐために考えだしたものだという。なんせ、着ていたセーターをアザミの花のトゲでわざと糸を起毛させたんだとか。表面がフワフワモフモフしているから、波飛沫や風から身を守る、暖かい空気の層ができるんだ。

今ではさすがに工場生産だけど、未だに故郷、スコットランドで作られ続けているとのこと。

着ていると見た目以上に暖かいし、見た目も可愛らしいから、冬になると着たくなる。

欠点をあげたら毛玉ができやすいし、起毛しているから毛玉をブラッシングするとだんだんスカスカになってきちゃう。だから、いつかは別物になってしまう。それでも、愛おしいの。

昔、好きな服屋の親父さんが長年使い込んでスカスカになったシャギードッグセーターを着ているのを見た。革靴は履く度に磨くし、寸分の油断もないダンディな洒落者だけど、シャギードッグだけは隙だらけ。

「ここまで着てこそ、服が喜んでくれるよ」

灼けた声で豪快に笑った親父さんのシャギードッグは、私のやつに比べて随分痩せ細っていたけれど、渋い顔つきをしていたなあ…。

いつまでも着られる服は素敵だけど、持ち主とともに年を取る服もいいじゃない?

遠いスコットランド、東京よりも遥かに寒い12月の漁村に思いを馳せて、今年の冬もやつを箪笥から引っ張り出した。ブラッシングしてみたら、まだまだモフモフしているけれど、随分育ってきたように思う。

今年もよろしく、冬が始まるね。


イラスト:あんずひつじ

ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside


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