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『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #13 『パリの恋人たち』 北ヨシアキ

# 13
2024年1月11日の1冊
「パリの恋人たち」北ヨシアキ 著(東方出版)

本日は写真集をピックアップ。パリの街角で、まるでその一瞬が会話の一部であるかのようにキスを交わし、愛を育む恋人たちのスナップ集です。

撮影者は北ヨシアキ氏。私はこの写真集を手に取るまで北氏のお名前を存じ上げず、正直いまも人物についての情報があまりなく、深掘りするには至っておりません。それはさておいてもこの写真集は大好き。

所謂、短絡的な言い方をすれば、パリの恋人たちの“路チュー“ 写真なのですが、これらに嫌らしさや恥ずかしさのようなものは一切感じられない、あまりに美しくチャーミングな「アート作品」として撮り納められています。

コンコルド、チュイルリー、セーヌ川、ルーブル、オペラ座、サンジェルマン、モンパルナス、リュクサンブールなど‥世界でも最高峰の芸術的景観を持つパリの美しい街の中で、日常を生きて、出会い、恋をし、愛し合う2人のショットは、詩的であり、ドラマティックに観るものを惚れ惚れとさせます。

本書のあとがきで作家本人が語る言葉の中に

恋人たちの「愛の光景」の美しさに、私はいつも見惚れてきました。頬の寄せかた、首の傾けかた、足の組みかた、手のおきどころetc…。それらの配置の見事さとバランスの良さにはほとほと感心してしまいます。

とあります。私はこの言葉に本当に深く頷き、何度もページをめくって見返したくなるのですが、同時に撮影者自身が「パリの恋人たち」に恋して、彼らの美しさに心を満たしながら、パリの街で歩みを進め、撮り続けたことを想像することができ、だからこそその愛が鑑賞者にも伝わるのだということを実感します。愛の連鎖がもたらす幸福感に満ちた写真集です。

さらに言えば、私はスナップを観るのも、撮るのも好きなのですが、その理由は「被写体との距離感」がキーワードとなります。街角で見つけた人々を、ありのままに、何の飾り気もなく自然な姿として写すのは、至難の技です。少しでも遠慮したり、怯んだりしては瞬間を逃してしまうし、ストリートで生まれる光景を、風が吹くかのように如何に自然に撮り納めるかということは精神的にも前のめりに挑む必要があると思います。

「パリの恋人たち」を撮影するにあたってどんな背景があったのか事実はわかりませんが、これほどまでに瞬間的な決定力を持つ、一瞬にして絵画のような1枚を切り取ることができるのは、撮影者自身の被写体に対するコミュニケーション力であったり、パリという街の芸術への寛容さなども作用するのではないかと考えます。

ただ美しく、見惚れて、幸せな気持ちになることができる。それだけではなく、街ゆく人々の人生模様や、国境を超えて感じる愛の美しさ・温かさ、世界の文化や習慣、暮らしと芸術が混在することの豊かさ、芸術家として作品に向き合う姿勢、作品を通して何かを「伝えたい」という気持ちなど、様々な側面を感じることができることも、この1冊の面白さなのだと思います。

まあ、そんな難しいこと考えなくても、とにかく顔の筋肉がとろけて、心をほぐしてくれるような写真ばかりで、ただただ美しい写真たちなのです。

これまでつれづれ読書録で紹介した本、そしてこれから紹介する本もすべて、つぐみの私物です。もし、気になる、読みたい、見たいなどのご要望があれば、パーク出勤日の木曜にお持ちするのでお気軽にメッセージください。本についての楽しいお話はどんどんシェアして、豊かな読書生活をそれぞれに、たまにみんなで、育んでいきましょう~。

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【 わたしのつれづれ読書録 】
古本屋兼ギャラリーの創設を目指し、パークギャラリーと並行して古本屋でも修行中の秋光つぐみ。
『わたしのつれづれ読書録』はパークスタッフのつぐみが出勤日(主に木曜日)に「今日の1冊」を紹介するコーナーです。
パークで開催中の展示テーマに寄せた本、季節や世間のムーブに即した本、つぐみ自身のモードを表す本、人生に影響を与えた本、趣味嗜好まるだしの本など‥日々積読が増えていく「つぐみの本棚」からピックアップした本をお届け。
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PARK GALLERY
木曜スタッフ・秋光つぐみ

グラフィックデザイナー。長崎県出身、東京都在住。
30歳になるとともに人生の目標が【ギャラリー空間のある古本屋】を営むことに確定。2022年夏から、PARK GALLERY にジョイン。加えて、秋から古本屋・東京くりから堂に本格的に弟子入りし、古本・ギャラリー・デザインの仕事を行ったり来たりしながら日々奔走中。
Instagram https://instagram.com/tsugumiakimitsu


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