猫背で小声 season2 | 第3話 | 死んじゃだめ。
いつの時代も苦しいことはある。
ひきこもり時代のぼくは毎日なにかに悩んでいて、生きた心地がしない毎日を過ごしていた。希望の持てない中学時代や、みんなが普通に過ごした高校時代も、毎日病んで苦しかった。本来なら「思春期」という病に罹るはずだったが、ぼくはあかりさえ灯らない将来に悩んでいた。
まず「統合失調症」という病気。
薬を飲んで休養する、ということを繰り返していたけれど、ベッドに横になっている時も気持ちが悪く、こんな状態がいつまで続くんだろうと、狭い部屋の中で現実と未来を恨んだ。
普通の学生さんなら、好きな人ができて、部活もあって、受験もあって、苦しくてもそれなりに楽しいことはあるんじゃないかと(触れたことのない)「社会」に憧れを抱いていた。
そんな時に想っていたこと。
「このまま生きていてもしょうがない、死んでしまおう。」
もう一人のぼくはこう言っていた。
「いや、この先なにかいいことがあるはずだ。」
弱いぼくと強いぼくが、ケンカをしていた。
昔からオカンがよく言っていた「人間は簡単には死なないのよ」という言葉が妙に心に刺さった。実はそんなオカンも国指定の難病を抱えている。ぼくを産んでからその病気になったので、ぼくは、自分が生まれたのと引き換えに、その病気になったと思っていた。
だから人間いろいろあるけど、簡単に死んじゃだめだと、常日頃思っていた。家族を悲しませちゃいけないという気持ちだ。
33歳の時、社会生活でメンタルが病んでしまった人たちが集まる施設に通った。そこに自分と同じ30代で独身。実家住まいの自信の無さそうな男と出逢った。
多分、自信のなさそうな彼と僕は、その施設で同じ女性を好きになった。そのくらい共通点は多かった。
その施設を卒業して、彼は「特例子会社」という、障がいのある人が仕事をしやすい環境がある職場に勤めた。ぼくも特例子会社に勤めている。
その彼が、ある日、死んだ。
職場で倒れていた。
過労だったらしい。
あの彼が、だ。
なにも言えずに、なにも言わずに、この世から去っていった。
死んじゃだめ。死んじゃだめ、簡単に死んじゃだめ。
施設で遠慮しがちに、ぼくのあだ名「ぶーちゃん」と言ってくれることが嬉しかった。
「死んじゃだめ」
ぼくはそんな重みのある言葉に囲まれて生きていく。
次回もお楽しみに
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