『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #12 『わたしのまっしろときんいろ』 カネコアヤノ
#12
2023年12月21日の1冊
「わたしのまっしろときんいろ」カネコアヤノ 著(株式会社1994)
年の瀬。この時期はこの1年の自分の身に起きた出来事を振り返って、良かった、悪かった、ああだった、こうだったなどつい、ぐるぐると考えてしまう。そういう節目の時期の当たり前の現象を客観的に感じながら、今年も年末を生きてるんだなあと思う。色々複雑に考えたりもするけれど、とにかく今年も1年、生きられた。ご飯が食べられた。いろんなところに行くことができた。充分がんばったじゃないか、と自分を褒めて労って、優しく抱きしめてあげたい。少なくとも私の身の回りの人にも、自分自身にそうであってほしいと願います。
今回は、シンガーソングライター・カネコアヤノさんによる『わたしのまっしろときんいろ』。彼女の楽曲にのせられた歌詞をまとめた、詩集です。
現在の私の人生の核の一つ、テーマともなっているこの言葉。これはカネコアヤノさんの『燦々』という楽曲の歌詞です。
自分が日々寝食を繰り返す、住まう家。それを守ってくれる屋根、家の顔にもなる屋根の色、その彩りは自分自身が選び、決める。
人生の道標をどう進むか、誰についていくか、何者になるのか、全ては自分自身の心の声に委ね、妥協をしない。
そして決めたのであれば、決めたのは自分なのだから、何があっても言い訳しない。
そんな確固たる決意、意志を表現しているのだと受け取り、この言葉を胸に生きていこうと決心した2019年。当時の私を強くしてくれた詩です。
カネコアヤノさんの書く詩を、私は文学だと思って読み、聴いています。
上の詩が歌われた楽曲と同タイトルの『燦々』というフルアルバムが発売された当時、人生の帰路に立ち、己の中の揺らぎを誤魔化しようもなくなっていた私は、そんな最中で出会った彼女の数々の詩に、深く心を揺さぶられました。そう、ただでさえ揺れてグラグラしているところ、心臓をグサリと貫くように揺さぶったのです。揺れてるのに、さらに揺さぶられて大変です。でも、揺さぶられたことによる衝撃で、芯が形成された。もう揺れなくなったことを感じました。
それくらいに彼女の綴る言葉は、人間の、敢えて言うと女性の、心の奥深くに生まれる小さな感情を見逃さず、言い当ててくる。それは鋭くタフで強いのだけれど、あたたかい体温も帯びている。やさしいのです。
想像の容易い直接的な言葉よりも、身の回りの現象をモチーフに淡々と言い紡がれる言葉に導かれて、聴く者・読む者の想像を掻き立てる。だからその言葉たちは人それぞれの経験と重なり合い、やさしく撫でてくれているような感覚を覚えるのかもしれません。これはまさに文学。
印象に残り、心に刻まれる詩は挙げればキリがなく、読む時・聴く時の自分の状況によっても見える景色が変わりそうで、好きな詩はどんどん増えていきそう。そんなふうにカネコアヤノさんの詩と共に自分も育っているような気がします。
2023年もお疲れさまでした。とにかく生きた、今日まで生きた私、あなた、皆、えらい。来年も、とにかく生きましょう。
『つれづれ読書録』を読んでくれている皆さま、気にかけてくれている皆さま、ありがとうございます。来年もつれづれなるままに、記録してゆきます。
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【 わたしのつれづれ読書録 】
古本屋兼ギャラリーの創設を目指し、パークギャラリーと並行して古本屋でも修行中の秋光つぐみ。
『わたしのつれづれ読書録』はパークスタッフのつぐみが出勤日(主に木曜日)に「今日の1冊」を紹介するコーナーです。
パークで開催中の展示テーマに寄せた本、季節や世間のムーブに即した本、つぐみ自身のモードを表す本、人生に影響を与えた本、趣味嗜好まるだしの本など‥日々積読が増えていく「つぐみの本棚」からピックアップした本をお届け。
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PARK GALLERY
木曜スタッフ・秋光つぐみ
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