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issue 54 「つきたての餅、最後にいつ食べた?」 by ivy

「1月2日に餅つきやるんで来てくださいよ」

なんて素敵な誘いだろう。その一報が、大した予定もなく、朝から暴飲暴食で仕事初めを待つしか脳がない私を、その凡庸な正月から救い出してくれた。

この連載でも何度か触れているけれど、私は会社員でもある。会社には全く馴染めていないけれど、一部の物好きな人は興味を示してくれて、同僚というより友人のような付き合いをする人がいる。

今回、この連絡をくれたKくん(仮)もその一人。会社の後輩にあたるけれど、会社で顔を合わせたことはないし、関係性としては友人に近い(と、私は思っている)。

さて、間借りカレーを出店したり、家では気の利いた手料理でもてなしてくれる彼は、とにかく「美味しい」「旨い」という体験への意識が高い。肉、酒、米…この世にあるものを「旨く」することに探究心が向いていて、一種の狂気すら感じるくらい。

今回の餅つきも、行くまではちょっと趣向を変えた初詣くらいの気持ちでいた。まあ、餅はそりゃ旨いだろうけれど。みんなで集まってわいわいしよう、くらいのものかなあ、と。

ところが、約束の代々木公園に来たらびっくり。炊きたてのもち米を立派な木臼でついて、ホクホクと湯気が上がる。こんな本格的なの⁉

つき上がりの餅にきな粉をつけて頬張ると、米の甘みが広がる。つきたて特有のねっとりしたテクスチャと相まって、飲み込んだあとも上品な後味が残る。これはつきたての餅、という「旨さ」を寒空の下、年始の高揚感で味わう体験イベントだったんだ。

ひとクラス分はいるかと思われる若者たちが餅をついたり食べたり、米を仕込んだり…。このご時世、旨いものにありつけるのは簡単かもしれないけれど、旨さの出来上がる過程まで目にできる場はそう多くない。

西でも東でもない東京の真ん中、代々木公園でこんな体験ができるなんて、あまりに贅沢だ。後に別の約束があり、途中でお暇したけれど、来年もやるなら誘って欲しい。

気が早いけど、この記事を読んで気になった人は、ご一緒しようか。

イラスト:あんずひつじ

ivy(アイビー)
会社員で物書き、サブカルクソメガネ。
自己満 ZINE 製作や某 WEB メディアでのライターとしても活動。創り手と語り手、受け手の壁をなくし、ご近所付き合いのように交流するイベント「NEIGHBORS」主催。日々出会ったヒト・モノ・コトが持つ意味やその物語を勝手に紐解いて、タラタラと書いています。日常の中の非日常、私にとっての非常識が常識の世界、そんな出会いが溢れる毎日に、乾杯ッ!
https://www.instagram.com/ivy.bayside

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