『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | # 21 『カスハガの世界』 みうらじゅん
#21
2024年3月21日の1冊
「カスハガの世界」みうらじゅん 著(講談社)
あなたは「カスハガ」というものをご存知だろうか。
著者曰く、いわゆる ”THE 観光地” とされる土地には発生しない。
どこで発生するかというと、名所と言われる場所が2~3箇所しかない土地。せめて10枚はないとお土産絵ハガキとしては売ることができない。だったら、こんな場所でもいいから入れておくか~!と無理して作られたハガキ。カスなハガキ。それが「カスハガ」だ。
あくまでカスハガ探しに重点を置いた旅<カスハガ旅行>を一人で続けてきた著者だが「モーニング」誌上で発表したことで、全国の読者から大量のカスハガが集まった。それを厳選、そして写っている風景の前後の事象を妄想の末に漫画にし、カスな1枚に奥行きを与えている。絵ハガキ本史上の最高傑作である。
私が「カスハガ」に魅了され始めて約1年(短っ)。敬愛するみうらじゅん氏による『カスハガの世界』の存在を知りながらも、売り物として扱われる本書を右から左へ流すことを優先してきたので、なかなか自分の懐に入れられずに月日が流れていた。
しかしついに出会った、出会ってしまった。元々、春が苦手な性分なのでその訪れを感じてなのか BAD 入っていた日だった。最寄りの新刊書店の一角に設置された古本コーナー。ふらっと訪れてはたまにチェックするのだが、その日は紛れもなく、運命の日だった。幻想文学やサブカル本の狭間にサクッと差し込まれた本書の背表紙が目に飛び込んできた瞬間、私のスプリングブルーは豪快に吹き飛ばされた。
「なんでこんなシーンをハガキにしてしまったのだ‥?!」そんな疑問を抱くのは序章に過ぎない。そしてもはや “THE 観光地” な絵ハガキよりも、その土地の魅力を(別次元の角度から)存分に味わうことができる。それは言うまでもない。
問題は、そんなハガキたちをみうら氏のもとへ送る読者のセンスと、大量な中からそれらを選出し前後の想像を膨らませるみうら氏のパワー。そして、「カスの細道」と称して「カスハガの現場に立ちたい」という長年の夢を、カスハガールを連れて実現させてしまう情熱(カスハガールと旅行したいだけとも取れる)。
ツッコミどころはそこかしこに散りばめられており、気がついたら一周も二周もして『カスハガの世界』にどっぷり浸かってはたまらない快感に陥ってしまっている自分がいる。
なんだかもう、いろいろなことがどうでもよくなってくる。細かいことでくよくよしなくなる。そういう雑念が吹き飛ばされて馬鹿馬鹿しくなる。別にみうらじゅん先生は、我々の BAD を吹き飛ばすためにこの本をつくったわけでは決してないだろう。けれども、『カスハガの世界』を教えてくれて本当にありがとう、と無性に感謝を伝えたくなる。
旅本として、漫画本として、ギャグ本として?‥総合して最高傑作だと私は思っているのだが、まずは、この表紙に抜擢された堂々たる「カスハガスター」をどう受け入れ、何を感じるかを己に問うてみてほしい。
ちなみに、この「カスハガスター」が仕込まれている「出雲巡り」絵ハガキセットは、私の家宝である。
PARK GALLERY 木曜スタッフ・秋光つぐみ
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