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COLLECTIVE レビュー #44 白湯 『グリンピースにマウスピースあなたのハートにダブルピース』(宮城県)

山形の片田舎で、“何者かになりたかった” 高校生のころ、ぼくはひたすら映画とテレビを見て、ラジオを聴きながら音楽を聞いて、バイト代で買った雑誌の数々と図書館から借りてきた舞台の戯曲を交互に読み漁っていた。まったく勉強もせず、学校では寝るか本を読むか。
相当鬱屈していたのだと思う。夏の暑い夜は、自転車で汗だくになりながら、遠い街までこいだ。雪の積もった冬の夜は、近くの美術系の大学の屋上に忍び込んで月と交信していた。当時山形では珍しかった「無印良品」のリングノートに詩を書き始めた。タイトルは「どうしようもないぼくのどうしようもない詩集」。気分は中原中也。もしくはエドガー・アラン・ポー。自身の思ったことと、好きな音楽の歌詞や映画のセリフを殴り書きしたノートだった。いや、実際ノートを殴っていたと思う。こじらせていた。

ZINE という感覚ではなかったけれど、時々それをコンビニでコピーして壁に貼ったりホチキスに止めたりしていた。そんなことでは「なにものにはなれない」のはわかっていたけれど、やらなくてはいけないことだったのだ。
 
COLLECTIVE ZINE REVIEW #44
白湯 『グリンピースにマウスピースあなたのハートにダブルピース』
 
加藤が青春をこじらせた山形の隣町、宮城から届いた12ページほどの短い ZINE「グリンピースにマウスピース あなたのハートにダブルピース」を見て、当時の詩集を思い出した。作者は「白湯」(さゆと読む)。肩書きこそないが、大学を卒業したばかりの会社員だという白湯さん。新型コロナウイルスの影響で、明確な境界線もないまま社会人になり、目標をもって取り組むことも、自分で何かを作り上げることもなく、ただただ毎日「家」と「会社」を往復する毎日にピリオドを打つために ZINE 制作に向き合ったという。ちなみにタイトルは、ずっとおまじないのように唱えていた言葉らしく、声にしてみると確かに語呂が気持ちがいい。
 
ZINE のテーマは「〇〇がない人生なんて」。

個性派に憧れるけれど、自信がなさすぎて根暗だという白湯さんの「好き」が思い切り詰まった1冊だ。派手なデザイン、コンテンツではないけれど、この「好き」に対する衒いのないまっすぐな思いと、どんな球でも打ってみせるというフルスイングな姿勢が ZINE らしいし、読んでいて気持ちがいい。個性派に憧れるけれど、自信がなさすぎて根暗なひとはこの世の中にはたくさんいるので、きっと共感できるコンテンツだと思う。そして、見る人が見れば少し不器用に感じるかもしれないけれど、少しさらけだすには恥ずかしいなって思うことを、ZINE というクリエイティブなメディアに込めて世の中に出すという行為を、このクオリティ、この純度でできるひとは、きっとこの先、なんでもできるし、大丈夫だと思う。もちろん落ち込むこともあると思うけれど、いつだって自分の人生の編集長だし、前を向いて生きるためのディレクターでいられると思う。

そう明言できるのは、実際、個性派に憧れるけれど、自信がなさすぎて根暗だったぼくがそうだったからとも言える。こじらせながらも「どうしようもないぼくのどうしようもない詩集」を書ききったぼくは、きょうまで、好きなことをやって生きてきた。
 
だから、白湯さんもきっと大丈夫だと思います。思い切り悩んで、思い切り楽しんで、思い切り好きを爆発させてほしいなと思います。そのエネルギーで次の ZINE にもまた取り組んでもらえたら、またきっと道は開けると思います。
 
クリエイティブの初心に返れる一冊。ぜひ。

レビュー by 加藤 淳也


---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----

【 ZINE について 】
この ZINE を制作し、発表した理由は2つあります。1つは、今の環境を変えたいからです。大学卒業とコロナウイルスが重なり、1つの節目をハッキリと実感しないままの卒業をしてから約2年が経ちます。社会人になってから、目標をもって取り組むことも自分で何かを作り上げることもなくただただ毎日家と会社の往復です。このまま定年まで同じスタイルなんてまっぴらだと思い、学生の頃まで行かなくとも、1つ目標をもって達成できるまで取り組み、今の環境から少し苦しくとも華やかな時間を過ごしたいと思ったからです。もう1つは、おこがましすぎるかもしれないけど、自己満足で心の中にある言葉や想像していることを見える化して、モヤモヤしている気持ちを落ち着かせたいからです。自分の気持ちをうまく伝えるのが苦手で、最近は周りから「受け身」な人間にみられがちな現状を受け入れながらも、まずは自分ができそうなところで自分らしさを出しながら苦手を克服していきたいと思ったからです。

白湯『グリンピースにマウスピースあなたのハートにダブルピース』
価格:¥550(税込)
ページ数:12P
サイズ:A5

作家名:白湯(宮城県美里町)
タイトルはずっとおまじないのように唱えていたワードを使用! 第一弾は、〇〇〇がない人生なんてをテーマに好んでいる音楽、映画を直感的感覚的にくうううっとココロが惹きつけられたのを表現しています。100%白湯産で製作しました。
https://www.instagram.com/hi_gopdo

【 街の魅力 】
旧町名が、読み方にクセがある。例えば … 小牛田町(こごた)

【 街のオススメ 】
山神社 … 四季折々の植物を堪能できること。



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