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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー (54) せのー 『SHORT SCENE』(東京都)

COLLECTIVE に集まってる ZINE の特徴に、『日常のなにげない瞬間』をすくいあげるように取り上げてる作品に出会います。絵、写真、詩。ZINE という特性が、日常のことを取り上げやすいというのはもちろんだけれど、以前はもっと日常では伝えられないというか、日常の中に潜む非日常、人になかなか言えずにいること、生きづらさみたいなものが多かったように思います。日常なんて作品になるか。小津安二郎じゃあるまいし、という時代だったような。

東日本大震災以降、ある日、突然、地震や津波で、人の『暮らし』というのはいともかんたんに奪われてしまうのだ、ということを知ったぼくらは、日々の些細なことにもしっかりと目を向けるようになったと思います。少なくとも僕は。食生活を見直し、仕事を見直し、体のことを考えるようになりました。クリエイティブの業界も、徐々に東京集中型じゃなく、地方の資源を新たに見直すようになったし、ハレとケでいうところのハレの観光だけではなく、ケの部分、つまり『日常』こそ、美しく、その街の資源であるという価値観が醸成されました。そういう一連の時代の流れが、『日常』へとクリエイティブを向かわせたのかなと。それははからずとも個の表現にも現れるんじゃないかなと、深読みしてます。ヒーローが大活躍して、起承転結する時代はもう終わったのかと。ZINE も然り。

今日紹介する ZINE『SHORT SCENE』も、日常を切り取った1冊。鮮やかな色使いの表紙が、会場でひときわ輝いています。作者は東京を拠点に活動するイラストレーターのせのーさん。とある『誰か』の日常を風景写真のように、時にファンタジックに、色鉛筆を使って描いています。ありそうな世界とちょっと不思議な世界がギリギリのラインでせめぎ合ってるのが印象的。絵に対する情報や物語の説明は一切ないのだけれど、1枚1枚の絵からなんだか賑やかな声や音が聞こえてくる感じがします。

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行楽を楽しむ観光客の楽しそうなにぎわい、仲良く遊ぶ青年、颯爽とギターを引く人。風景の中の蝉(描かれてない)の声さえ聞こえてきそうです。なんでだろう。不思議。『瞬間』を切り取っているから、それがそのまま生きているのかな。ストップモーション感が、見る人の脳内で拡張されて聞こえるのかも。

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色鉛筆のぬくもりのある発色も、思わずクスッとなりそうなモチーフも、全体的にめちゃくちゃバランス(センス)がよい。もう少し絵のタッチを極端に絞れると完璧、頭ひとつ抜けて人気が出そうな感じがしました。と、偉そうに言ってしまってますが、次世代のイラストレーション業界を盛り上げてくれそうな才能のある人と出会えた!って感じがしてます。

ぜひパークで展示をしてほしいな。どうぞよろしくお願いします。

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レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:せのー(東京都)
1996年生まれ。東京を拠点に活動にする。
【 主な活動 】
「東下」出展 / rusu
「CLOUDS FINE ARTS COMPETITION 2020」出展
「HILLS ZINE MARKET2020」出展 / 六本木ヒルズA / Dギャラリー
https://senoowork.tumblr.com
【 街のオススメ 】
喫茶 マカボイ  ... 元々演劇活動をしていた店主が経営している喫茶店。
メニューが美味しいのは勿論のこと、店主の趣味であるレコードや書籍がお洒落。趣味の延長を仕事にしているところが個人的にとても魅力です。
https://www.instagram.com/mcavoy_takaido


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