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猫背で小声 season2 by 近藤学

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猫背で小声がちょうどいい、会社員・近藤学による人気エッセイのシーズン2。人生の半分を『自分磨き』(ひきこもり)に費やした青年が、社会の窓を開いて外に出るまでの小さな物語をシーズン…
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#最近の話編

猫背で小声 season2 | 第24話 | 汚れた朝

朝起きて「会社に行きたくない」。 そんな日が誰だってある。 これはぼくの朝の物語。 この日は朝目覚めると、いわゆる「会社に行きたくない日」で、自分でも原因は分からず「会社に行きたくなーい」と奇声をあげてベッドから身体を起こした。 こんな朝は自分のご機嫌を取ることにも苦労するので、身体を起こしたはいいけれど、全世界の「会社へ行きたくないひと代表」になったかのような気分。重たい足取りで台所へと向かう。 調子の良い日、普通の日、会社に行きたくない日。どんな時でも1杯の水を飲む

猫背で小声 season2 | 第23話 | 想いびと、春

2023年、春。考えることはいっぱい、思うこともいっぱいある季節を迎えた。この日は金曜日。珍しく有休の取れた日にぼくは普段あまり行くことのない『新橋』へと足を運んだ。 『新橋』へ来た目的。それはおいしいプリンがある純喫茶に行くためだ。 時刻は9時30分。 東東京出身、在住のぼくだが、新橋には疎い。ビルが建ち並ぶ景色に多少疲れを覚え、ぷらぷらする余裕なんてなく、とにかく目的地の純喫茶へと足を運んだが、まだオープンはしていない。けど、店前にたくさんの行列ができていた。 行

猫背で小声 season2 | 第22話 | 幸と悲

どっこいしょ。 こんな風に腰をかけて安らげる場所を、みんなは持っているだろうか。 実はぼくにはある。 東京の東の下町にある、心から安堵できるカフェ。この店の椅子に座るたび、日頃の疲れがドッと出るのがわかる。自然と「ふうぅ」という息づかいをしてしまうのだ。 息づかいというより「生きづかい」。明日も「生きる」ために日常での疲れを癒す場所。しかしこのカフェを知ったのは最近。 パークギャラリーがきっかけとなってできたイラストレーターの友人がいるのだけれど、その友人がこのカフ

猫背で小声 season2 | 第21話 | 生きづらい脳味噌

生きてりゃつらいことは必ずと言っていい程ある。 つらいよ、つらいよ、と言いながら生きてくのが人間なんだろうと思う。 ぼくはよくひとから「生きづらさを感じませんか?と」聞かれることがある。もちろん無い訳ではないが、健常者に比べると、生きづらさという「事故物件」に住み続けていることになる。 まずこれまで生きてきて統合失調症という病気から逃れられることはなかった。中学生の時に発症して、生きること自体に違和感を感じながら生きてきた。今日も明日も昨日もその昔も統合失調症。 次に

猫背で小声 season2 | 第19話 | 揺れて、いる

「祭は好きか?」 そんな問いに答えが出るような出来事があった。 今年の5月。 東京・末広町のパークギャラリーの近く、神田明神はちょっと騒がしかった。 なぜなら4年ぶりに「神田祭」が開かれることになったからだ。 この神田祭。日本三大祭りのひとつに挙げられていて、それがどのような賑わいになるのかは全く想像できない。 今日は土曜日。 ぼくはカメラを首に掛け、神田明神へと足を運んだ。 神田明神に近づくと、なにやら賑わっている。 縁日という感じで出店がこれでもかという

猫背で小声 season2 | 第18話 | 例の礼

今年1月。 季節は寒く、気持ちは冷めてゆくけれど感受性が高まる日々を過ごしていた。ぼくはいつものように仕事をしている。いつからか仕事をさせてもらえている立場にもなった。 仕事が終わり、家へと帰るため電車に乗る。 いつも乗る電車は同じで、いつも同じ車両に乗る。 疾病からくる几帳面な横顔が車内全体に拡がっている。 車内に入ると時刻はまだ 17:40 。 隙を見て車内に座る。 毎度毎度仕事で疲れているので目を瞑(つむ)るひととき。 現実を忘れるためには必要な時間。 少し息を吐く

猫背で小声 season2 | 第16話 | 星となるひと

誰かを好きになると、なにかが起きる。 いや、「起こる」のが、ぼくだ。 ぼくは以前あるひとのことが好きになった。 「あるひと」もぼくと同じ “界隈” のひと。 でもそのひとはめちゃくちゃ頭がよくて、かなりいい意味で頭の切れる「頭切れ子さん」だった。 その切れ子さんとの関係はずいぶんと前に終わったのだけれど、でも切れ子さんはぼくにとって常に「いいこと」をもたらしてくれるひとで、切れ子さんの存在を知人に話したら、桑田佳祐が歌う『LADY LUCK』のような ひとだと言われた。

猫背で小声 season2 | 第15話 | ヨがあける

2023年2月の話 有益な関係がそばにある。 そんな関係がぼくの「そば」にいた。 ウチのオトンには妹がいる。 その妹がとついだのが新宿区歌舞伎町のあるおうちだった。 その妹はぼくにとっては「叔母さん」なのだが、その叔母さんがとついだ歌舞伎町のおうちとぼくの家族は幼い頃から仲が良かった。 その歌舞伎町のおうちには『カズヤおじちゃん』という叔母さんの旦那さんがいるのだが、そのカズヤおじちゃんが幼心にもパンチのある人だなと感じていた。 まず会社の社長なのである。しかも歌舞

猫背で小声 season2 | 第12話 | コメディ No.1 (上)

ある日こう思った。 20年間引きこもった人間が人生を逆算した時、何をしたら楽しくなるか。 そして驚かれるか。 2023年。今年は奇しくも引きこもりから社会復帰し、10年目を迎える。いわゆる10周年だ。 10年前 NHK 朝の連続ドラマ『あまちゃん』で無邪気な笑顔を見せていた能年玲奈も、今では『のん』に名前を変え、紆余曲折ありながらも『さかなクン』を演じ、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を獲った。 過去、引きこもりながら能年玲奈のごとく笑顔を見せていた『ぼく』に、こんな

猫背で小声 season2 | 第11話 | 人生は、コメディである。

急に来たのである。 急に着たのである。 雪国のひとがドテラを着ているかのようなあたたかい幸せな気持ちが。 ある日、勤めている会社から依頼されてとあるネーミング案を提出することになった。名前を考えてほしいという依頼だ。 今までもこの会社で5件ほどコピーやネーミングを提案した実績があったけど、自分の色を出せたり、納得のいく結果にはつながっていなかった。真面目な会社だからか、いつも誰かが考えたおとなしい感じの文言が選ばれていた経緯がある。 これまたある夜、とある忘年会に参加

猫背で小声 season2 | 第9話 | 黒か光か

嫌なことがあった。 嫌なこととはまるで墨のようだ。 一滴の墨を水に垂らすと、一瞬にして透明な水に拡がっていく。 一瞬にして黒く冷たい気持ちになっていく。 仕事がつらい。ストレスは溜まる。ストレスが溜まるとうまく唾が飲み込めない症状が出てくる。 この症状はひきこもっていた時に顕著に出ていたが、 また出た。 『限界』という言葉は使いたくないが、もう休んでしまいたい。 投げやりに仕事を放り投げて逃げるように休むのではなく、段階を踏んで、ちゃんと休みたい。それは会社と

猫背で小声 season2 | 第8話 | 膜張さん

隠しているわけではないけれど、ぼくにはいま「離人症」という症状がある。 メンタルの病気なのだが、かんたんに言うと「生きている現実感がない」。 自分の見ている風景に膜が張られたようで、現実の世界に自分がいなくなってしまったような症状に悩まされている。 通称「膜張(まくはり)さん」 自分の中ではそう呼んでいる。 わかってはもらえないだろうけれど、知恵を絞って目一杯わかりやすく言うなら、「録画した荒い画質の世界」で生活しているような感じ。 まず視界がクリアじゃない。

猫背で小声 season2 | 第6話 | ある日、病気になりまして

ここでタイムリーな話題を。 このあいだ、3ヶ月の間に3つの病気を宣告された。 まず「白内障」。 次に「躁うつ」疑い。 最後に「メニエール病」。 ちなみに後厄ではあるが、病気の3年保証みたいな無料サービスはいらないのである。 「白内障」は初期なので治療の必要はないが、夜になると明かりが少し滲んで見える。 「躁うつ」は気分の波が激しいという症状をメンタルクリニックの主治医に話したところ、薬を処方された。 「メニエール病」は、会社で耳がこもって聞こえるな、めまいもあるな

猫背で小声 season2 | 第4話 | すきをともに

あなたの趣味は?と聞かれたらなんと答えますか。 強いて挙げるなら、ぼくの趣味は文章を書くことである。しかもカフェで昭和歌謡を聴きながらという条件付き。 これはそんな昭和と令和を行き来する男の「趣味」の話。 2019年の秋頃、なんとか仕事についたぼくだったが、会社の人間関係で悩みに悩み、ついに辞めようかと考えていた。この決心は固く、どうやったら会社とトラブルを起こさずに、静かに辞められるかを考えていた。そんなある日、facebook のメッセージでスマホがぶるると震えた。