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スタンドカラーのジャンプスーツ

ツナギ、もといジャンプスーツまたはコンビネゾン(私の親しいフランス人たちはこう呼ぶ)が何度目かの流行を迎えて、もう5-6年になるだろうか。

かつて美術大学の彫刻課程にいた私の、人生初のツナギ購入は18歳。ただし、私服の上から着たいと考えて(動きにくいのになんでだろう?若さゆえのこだわりが不思議...)、だいぶ大きめのサイズを選んだ。色は白、なんとも消極的な選択。

サイズが大きいので常に裾は幾重にも巻き上げ、胴の長さも余るから上半身を着ずに腰に巻きつけていた。もはやどこが作業着なのか、身体の何を危険から守れるのか、よくわからない着方だ。

同級生たちはそれぞれにツナギのクールなスタイリングを追求していて、それをまぶしい気分で眺めていた。そういえば、彼らの聴いている音楽や職人仕事のシルバーアクセサリーの話も、ちんぷんかんぷんだったな。私の人生にはそういう華やいだ要素はぜんぶ遅れてやってきた、なので今が一番楽しいと言える。

...おっと、ずいぶん脱線してしまった。

一代目ツナギは本当に単なる作業着だったので、塗料や樹脂や土埃にまみれ、ところどころ破れ、卒業時にはたいした愛着もなく捨ててしまった。

そのあとツナギファッションの小流行があったような気がするのだが、まったく興味が湧かなかった。雑誌でモデルが着ているのは素敵だけど、実際の街着にはならない服という認識。第一にトイレが不便ではないか(私はトイレがめっちゃ近いのだ)。あと、もともと長くもない脚がさらに短く見える。

ツナギを好きになったのはずっとあと。もちろんフランスに来てからで、それも3-4年前くらいからかな。

飛行機が好きで航空ショーに通うようになり、空軍パイロットのツナギ姿をカッコいいと思うようになったのが最初のきっかけ。そして、ヴィンテージ服ディーラーである友人がツナギをサラッと着こなしているのを見て、ますます着てみたい熱が高まった。

その友人ディーラーがある日、オリーブグリーンのジャンプスーツを売りに出していた。1980年代のフランス空軍パイロット用(おそらく地上での作業用)の、本物である。

今回こそはジャストサイズで着たい。

軍物の良い点は、各サイズに長さのバリエーションがあること。売りに出されていたのは胸囲S(男女共通)のショート丈で、私が着るとくるぶしにやっと届くか届かないか。友人は自分用に買ったらしいが、丈が足りなさすぎるので売るのだと言う。 そりゃそうだろう、彼女は身長178cmだ。脚だけが私よりも15cm長い身なのだ。

このジャンプスーツを私はたいそう気に入ったのだが、理由はサイズだけでなく、襟元のデザインにあると気づいた。ジッパーのスタンドカラーなのだ。学生の頃のツナギが似合わなかったのは、シャツ襟だったせいではないかな... お店にそれしかなかった気もするが。スタンドカラーになるだけで、ずいぶんと着やすくなるものだね。

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