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「専門家」発のエセ科学

※學士會総合情報誌「NU7」2021年9月号「会員の声」欄に掲載された投稿

水に「ありがとう」と書いた紙を見せて凍らせるときれいな結晶ができ、「ばかやろう」を見せると崩れた結晶ができるなどという言説が巷間をにぎわしたのが20年前。ここには1)実験結果の見せ方に潜む恣意性、2)水分子に言葉を理解し記憶する機能がなくそもそも紙を見せた水分子が結晶化に関与していない、メカニズムの問題、3)審美の問題を道徳に結びつける教育上の問題(差別の助長等)など、多くの問題点が挙げられる。

今年に入って横浜市のある産科医が、コロナウィルスに関する動画をアップした。コロナウィルスを入れた水を凍らせると、「愛」と書いた紙ではきれいな結晶ができ、「恐怖」と書いた紙では結晶が汚かった、と。そこから氏の導き出した結論は、「コロナの影響は人の想念でどうにでもなる。『コロナちゃ~ん』と呼んでお友達になれば、悪さはしない」。

気の持ちようで感染症は予防できるという考えは、適切な予防策の妨げとなり多くの人命を危険にさらす可能性も否定できない。

昨年3月には比較的著名な理論物理学者が都内で講演し、「携帯の5G電波は波長が短く、コロナウィルスのヒゲがちょうど共鳴しアンテナの役目を果たす。5G電波でコロナが活性化・増殖した」、と。コロナウィルスの「ヒゲ」の長さは10nm程度。それに対し5G電波の波長は数㎝。オーダが違い過ぎて共鳴などするはずもない。

大規模災害などで社会が不安に包まれた時、得てして不正確な情報が蔓延する。ネット社会ではなおさらだ。個々人が科学リテラシーを高め、安易に情報に流されずまた自分がデマを発信する側にならない知識をつけると同時に、アカデミズムの側でも、誤った情報を専門家の強い立場で発信してしまうことのないよう、専門分野を越えた社会全体の動きに注意を払い、問題があったら指摘し合う等情報交換の風通しを良くしていく意識の醸成が必要なのではないか。

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