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ストーンヘンジの現在地

私が学生時代、早稲田大学・大槻教授と共にミステリーサークル(※)調査に行ったイングランド南部。
 
なだらかな丘がどこまでも続く長閑な景色は、それが調査旅行であることを忘れさせるほど(実際には徹夜観測もありそれなりにハードでしたが)。
 
ストーンヘンジを作った古代の人々にも、生活の中でこの景色に癒される瞬間があったのだろうか。


文献なし伝聞なしの世界遺産

ストーンヘンジは、ソールズベリー平原の中にある巨石を円形に連ねた古代遺跡。
 
ユネスコ世界遺産にも指定されあまりにも有名、ですね。
 
巨石が30個ほど立てられた柱状環状構造。
 
その中にそれらよりは小ぶりな岩が環状に配置。
 
石を環状に並べた遺跡は世界中にありますが、規模の点では最大級と言ってよいでしょう。
 
5世紀、大陸側から渡ってきたアングロサクソンがこれを発見した時には、放棄されてかなりの年月が経っており、制作に関わった人々の集落もとっくに無くなったあと。
 
文字で残された記録もなく、1500年余の長きにわたって人類的な謎に包まれてきました。
 
パッと見目を引く、そびえたつ巨石の環状構造は、大きく分けて外側と内側の二列。
 
これらはサルセン石と呼ばれる砂岩であり最高6メートル、最大50トンのまさに巨石。
 
運んだだけでなく、長さ方向を縦に地面に巨石を立て、さらにその上に巨石を乗っけている。
 
一体どうやって?

余りに長大な運搬経路

もう一つの問題はこのサルセン石群の間に配置されているブルーストーン。
 
これはサルセン石とは素材が異なり玄武岩。

遠く直線で西方250㎞も離れた山地の産であることは以前より知られていました(※2)。
 
巨大なサルセン石より小さいとはいえ、これも最大1.8メートル、4トンほどもある巨石。

80個ほどあるこれらの石、果たして古代の人はどんな方法で何百キロも運んで来たのだろう?

天文学者の奇説

アメリカの天文学者・ホーキンズ(イギリス出身)は1963年、ストーンヘンジが天体観測所であったと指摘(※4)。
 
彼によれば、ストーンヘンジ中心部にあるオルターストーン(「祭壇の石」の意)と、そこから100mほど離れたヒールストーンを結ぶ直線上から、夏至の太陽が昇るのだ、と。
 
その他にも太陽や月に絡む天体配置との関連を指摘した上で彼は、ストーンヘンジは日食の予測にも使われたと主張。
 
もしそれが本当なら、紀元前2000年とかそれ以前の古代人がそこまでの知識を持っていたということになります。
 
これだけミステリアスな遺跡にあやかろうと、ネットショップではブルーストーンの欠片の販売サイトが山のように。
 
後述のように本格調査が入ったのが割と最近なことも、これら商売人には好都合かも知れませんね。

本格調査、ようやく

ストーンヘンジの調査が大きく進んだのは90年代、地元の博物館が本腰を入れそれまでの調査の再検討を行ってから。
 
まず、そびえたつ巨石の柱状環状構造。
 
これらサルセン石は、現場から25㎞くらいの森林地帯から運ばれた。
 
と、このことが判ったのはなんと2020年(※3)。
 
つい最近ですね。

ブルーストーンに比べれば距離は短い。

にしても数十トンの巨石、運搬に要するエネルギーは相当だったはず。
 
近年の調査によればストーンヘンジの建設は、永年に渡り段階を踏んで実施された。
 
最初は円形の土塁に始まり、それから1500年くらいかけて木製のサークル、そして石製へと変遷。
 
木製時代のサークルは、当然木そのものは残っていないがそれを入れていた穴の遺構はあり、現在観光客用に整備された駐車場にもそれがある、と。
 
気づかなかったか、残念!
 
ストーンヘンジ建設に携わったと思われる人々の集落遺跡が、すぐ近傍で2007年に発見されました(※5)。
 
この遺跡は紀元前2600年から2500年の頃のもので、ストーンヘンジ建設の時期と一致します。

運搬の謎はまだ残る

巨石をどうやって運んだのか、という最大のミステリー、実は今も研究者の間で意見は一致していません。
 
そのルートを含め、今後の課題でしょう。
 
しかしエジプトのピラミッドの例に見られるように、当初は動かすことが不可能と考えられていた巨石も、研究が進むにつれ時代なりのある程度の技術、そしてマンパワーがあれば運搬可能であることが判ったりします。
 
あの平原に多大な労力をかけて石のサークルを立てたいという、現代人にはないなんらかの欲求が、当時はとても強かったのでしょう。
 
ストーンヘンジ以外にもこの一帯に複数の石や木のサークルがあった痕跡からも、その欲求の強さが伺えます。
 
しかしてその欲求とはなんぞや。
 
おそらく宗教的なものではと多くの研究者が主張し私もそう思うのですが、コンセンサスは得られていません。
 
ただ、段階的な建設過程が明らかになってきた今、ホーキンズが主張するような日食云々というのはほぼ否定されています。
 
もちろん何らかの天体観測を行う場所であった可能性は残ります。
 
発生期宗教の多くが太陽信仰を共通項としている事実を見ると、やはり呪術とか葬儀とか、あたりじゃないのかな。
 
今後の発掘に注目ですね。
 
 
(※)これは大槻の命名で、世界的にはCrop Circle
(※2)「なぜ巨石を運んだのか」、NATIONAL GEOGRAPHIC、2008年6月号
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0806/feature01/_04.shtml
最終確認日:2024年1月21日
(※3)「ストーンヘンジの巨石、どこから来たのか謎が解明」、BBC NEWS JAPAN
https://www.bbc.com/japanese/53598523
最終更新日:2020年7月31日
最終確認日:2024年1月21日
(※4)HAWKINS, G. Stonehenge Decoded. Nature 200, 306–308 (1963).
https://doi.org/10.1038/200306a0
(※5)「ストーンヘンジに繋がる集落跡を発見」、NATIONAL GEOGRAPHIC
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/36/
最終更新日:2007年1月30日
最終確認日:2024年1月21日
 

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