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人の心理を読む植物?

クリーヴ・バクスターは、20世紀のアメリカのポリグラフ(ウソ発見器)の技師であり、1960年代に植物にポリグラフを接続した実験を行い、その結果を発表しました。

彼の最も有名な実験は、植物が人間の思考や感情に反応するという結論を引き出したものです。(※)

ドラセナという観葉植物の葉に熱いコーヒーをこぼしてもポリグラフに目立った反応はなかったが、「葉を焼いてしまおう」と思った瞬間、ポリグラフは強い反応を示した、ということです。

これを本稿では「バクスター効果」と呼ぶことにします。

葉を燃やすそぶりを見せただけでは反応は起きなかったことから、植物は人間の本気と見せかけを見抜く力を持ち、本当の危機に反応している、と主張されました。

これは一部からは「植物の意識」や「植物の感情」として解釈されました。

これらの結果は広範な議論を引き起こし、一部からは強い支持を得ました。

バクスター効果は本当か?

一方一部の科学者からは、当然ながら疑問視する声も。

バクスターの実験手法は厳密な科学的手法を欠いており、結果の再現性や実験の制御、統計的な妥当性にも問題が指摘されました。

彼の結論は、植物生理学の既存の理解とは明らかに接続しない。

である以上、それ相応のしっかりした根拠を示すことが求められるのは当然でしょう。

問題点1:具体的なエビデンスの欠落

バクスター効果に関する一つの大きな問題は、その証明となる定量的なエビデンスの不足。

仮説が一定程度正しいと認知されるためには、その理論を支持する明確なエビデンスが必要です。

そのためには、充分なデータが集められ、それに基づいて統計的に有意な結果が導かれることは必要条件と言えるでしょう。

彼に対する批判の一つは、彼の主張がこの基準を満たしていない点に向けられました。

バクスター効果の内容は彼自身の観察と解釈に大きく依存している一方、肝心の実験の詳細な手順やデータ収集の方法、分析手法が明らかにされていません。

これにより、彼の結果がどの程度信頼性があるのか、また、他の研究者が同様の実験を行った場合に同じ結果が得られるのかという疑問が生じます。

また、彼の実験におけるデータの解釈にも問題があります。

彼は植物が人間の感情や意図に反応すると主張しましたが、これはポリグラフのデータを非常に主観的に解釈した結果です。

つまり彼が得たデータをもってして、なにか特定の結論を導くエビデンスとすることはできない、ということ。

バクスター効果の主張を裏付けるためには、より厳格な実験設計、明確なデータ収集と分析手法、そしてそれらを繰り返すことにより得られる信頼性の高い結果が必要です。

問題点2:再現性と一貫性の欠如

バクスター効果の問題点としては、その再現性と一貫性の欠如も挙げられます。

科学的な研究や実験結果は、一貫性と再現性を持つべきであり、これが科学的手法の基本的な原則とされています。

しかし、バクスター効果はこの原則を満たしていないという問題があります。

再現性とは、同じ実験条件下で実験を再度行ったときに、誤差の範囲内で同じ結果が得られることを指します。

バクスターの実験は彼自身によって何度も行われ、植物が人間の感情や意図に反応するという結果が報告されました。

しかし、他の研究者が彼の実験を再現しようとしたとき、同じ結果が得られないことがしばしば報告されています。

これは、再現性の欠落を意味します。

一貫性とは、同じ実験条件下で行われた実験が、常に同じ結果をもたらすことを意味します。

バクスター自身の実験でも、同じような設定や条件下で行われたにもかかわらず、その結果が一貫していない報告があります。

例えば、ある植物が一度人間の意図に反応したとしても、その後同じ条件で反応しないことがあります。

これは、バクスター効果が一貫した現象でないことを示唆しています。

これらの問題は、この効果の科学的な信頼性と妥当性に疑問をもたらしています。

再現性と一貫性は、科学的な証明の基礎であり、それらが欠けるということは、理論や仮説の信頼性にとっては致命的です。

バクスター効果の実在を主張するのであれば、再現性と一貫性のある厳密な追試が求められます。

問題点3:操作定義のあいまいさ

バクスター効果の批判のもう一つの重要な側面は、操作定義の曖昧さです。

操作定義とは、研究や実験で使用する概念や変数を具体的、測定可能な形で定義することです。

これにより、他の研究者が同じ実験を再現しやすくなり、結果の比較が可能になります。

バクスター効果研究における操作定義の不明確さは、その結果の解釈と再現性に問題をもたらしています。

まず、バクスターが植物が「感じる」または「反応する」と主張する方法が明確に定義されていません。

彼はポリグラフを使用して植物の「感情」を測定しましたが、具体的に何を測定しているのか、それがどのように植物の「感情」を反映しているのかについては、明確な説明が欠けています。

このことは、他の研究者が彼の実験を再現しようとする時点で、何を測定すべきか、どのように解釈すべきかという、結果を左右する重要な因子にあいまいさをもたらします。

次に、バクスターの研究は、人間の「意図」が植物に影響を及ぼすと主張していますが、この「意図」の操作定義も明確ではありません。

彼の実験において、何が「意図」を形成し、それがどのように植物に伝えられ、どの程度の「意図」が植物の反応を引き起こすのか、といった問いに対する明確な答えがありません。

またバクスターの研究では、植物がどの程度の「ストレス」を感じたときに反応するのか、という基準も設定されていません。

どの程度の刺激が必要で、その刺激がどのように与えられるべきなのか、という操作定義の不在は、実験結果の一貫性と再現性を損なう可能性があります。

何を見ているのか、を問う

そもそも植物に「葉を焼かれそうでヤバい」といった感情があるのか?

EEGマシン(脳波計)を用いた別の実験では何の反応も現れなかった。

つまり、当たり前のようですが、バクスターの実験結果はポリグラフ由来である可能性が高い。

ポリグラフは一般にはウソ発見器として知られているが、実際には記憶検査の一種。

被験者が実際に罪を犯したかどうかを判定するのではなく、罪を犯したと思っているかどうかを判断する装置に過ぎないのです。(※2)

ごまかして記憶と異なる発言をする(嘘をつく)などし緊張すると、心拍数の上昇や発汗などの生理現象が起こる。

微弱な電気で皮膚の電気抵抗の変化を観測するのがポリグラフ。

嘘発見器という呼称が人の心を見抜く冷淡で厳格な機械という印象を与えるが、この印象も手伝って生じる心理的威圧感を利用した生理現象測定器、というのが実態。

捜査現場でも単体でその信ぴょう性が絶対視されることはなく、日本でも裁判で提出される際はその他の証拠と併せて慎重に扱われています。

ポリグラフ自体の信頼性があやふやな中で、バクスターののたまう実験結果をことさら誇大に取り上げるのは、合理性のある態度とは言えないでしょう。

それは、「ありがとう」という言葉できれいな氷の結晶ができ、「ばかやろう」で結晶が汚くなるという例の「水の記憶」にもつながる、疑似科学の系譜を感じさせます(水の記憶については拙ブログ「水は言葉を理解する?」参照)。

私自身の経験として、高校生時代、統一教会のビデオセンターに連れられて行って、見せられたビデオの内容がこのバクスター効果(を好意的に取り上げたもの)だったことも付言しておきます(拙ブログ「古くて新しい霊感商法問題」参照)。

根拠のない、科学面したエセ科学がそこかしこにエサをばらまきわなを仕掛けている、そんな世の中なのですよ。

(※)「植物は気づいている」(クリーヴ・バクスター、穂積由利子訳、日本教文社、2005)

(※2)「嘘発見器よ永遠なれ」(ケン・オールダー、青木創訳、早川書房、2008)

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○新刊 脳は心を創らない ー左脳で理解する「あの世」ー
(つむぎ書房、2023年)
心の源は脳にあらずとする心身二元論と唯物論を統合する新説、「PF理論」のやさしい解説。テレパシーやミクロ念力などの超心理現象も物理学の範疇に。実証性を重視し、科学思考とは何か、その重要性をトコトン追求しつつ超心理現象に挑む、未だかつてない試み。「波動を整えれば病気は治る。」こんな「量子力学」に納得しちゃう人、この本を読んだ方が良いかも!?あなたの時間・お金・命を奪うエセ科学の魔の手から自分を救うクリティカルシンキング七ヶ条。本書により科学力も鍛えられちゃう。(概要より)

○ Youtubeチャンネル「見えない世界の科学研究会」
身近な科学ネタを優しく紐解く‥
ネコ動画ほど癒されずEテレほど勉強にもならない「お茶菓子動画」


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