見出し画像

高校生使ってデマたれ流すSpringX「超学校」

ナレッジキャピタルは大阪駅に近接し、企業人、研究者、クリエイターらが交流できる、カンファレンスルームやオフィスなどを備えた施設。

そこで開催される「超学校」は、ナレッジキャピタル内のSpringXをはじめとしたスペース、そしてオンラインでも提供される講演プログラム。

科学者などの文化人、経営者などが登壇し、月3~5回のペースで開催されているようです。

2024年7月、三上丈晴がこの超学校で講演、その様子は動画サイトで配信されました。

三上と言えば、オカルトや超常現象ネタを扱う、ビリーバー御用達の雑誌、学研・月刊「ムー」の編集長。


期待は早々に失望へと

このセミナーは基礎から応用まで多岐にわたる科学の分野の専門家がちょくちょく登場し、概要から最先端の研究まで紹介してくれるもの。
 
私も時折視聴しており、科学の広範なトピックについて学べる良い機会になるなと思っていました、この時までは。
 
件のセミナー、タイトルは「ムー編集長が語る、UFO最先端」。
 
彼の講演も著作も全く目にしたことのない私は、オカルト雑誌とは言え編集長でありそれなりの著名人、しかも信頼してるこのセミナーに登壇するのだからそれなりにまともな(科学的視点に沿った)文脈でしゃべってくれるのだろう、と。
 
そんな淡い期待は開始早々に打ち砕かれるのでした。

講演風景。下段が三上、上段左はファシリテータ、右は高校生(一部加工)

UFOの定義、それどこから?

講演はファシリテータに加え、視聴者代表という形で高校生も一人参加。

この高校生、UFOやUMA(未確認動物)に興味があるとのこと。

視聴者代表としての参加も、その流れでしょう。

開始早々、三上はUFOの定義を熱弁。
 
曰く、「それは米軍の軍事用語であり、文字通りの意味(Unidentified Flying Object=未確認飛行物体)の意味ではもはやない」と。
 
その根拠として、「軍人を教育する教官のガイドラインではそれは地球外知的生命体が操縦する飛翔体という意味となっており、地球外知的生命体が存在することを前提でこの語を使用しないといけない。」
 
近年UAP(未確認航空現象もしくは未確認異常現象)という言葉が使われるようになったのも、「UFOが宇宙人の乗り物を指し示す軍事用語となり使えなくなったから」。

米軍の定義は一貫している

UFOに対する米軍の公式な定義は明確にされています。
 
しかしそれは、彼の言うようなものではありません。
 
「未確認飛行物体(UFOB)は、その性能、空力特性、または異常な特徴によって、現在知られているいかなる航空機やミサイルのタイプにも一致せず、またはよく知られた物体として明確に識別することができないすべての空中物体に関連する。よく知られた物体とは、気球、天体、鳥などを含む(AI訳、以下同様)。」
AIR FORCE REGULATION No. 200-2におけるUFOの定義)(※)

1954年発表のこの文書は古いのでしょうか?
 
そうではありません。
 
以下に見るようにUFOの定義に関しては現代も変更はないようです。

UAPという用語の登場、その背景

「未確認飛行物体(UFO、Unidentified Flying Object)は、観察者がその原因を容易にまたは即座に特定できないすべての空中現象を指す一般的な用語である。
 
1952年にアメリカ空軍がこの用語を初めて使用し、当初は専門家による調査の後も未確認のままである物体を指していたが、現在では調査の有無にかかわらず、識別できない目撃情報を指すことが一般的である。
 
(中略)一部の調査者は現在、UFOに付随する混乱や推測を避けるために、『未確認航空現象(UAP)』というより広範な用語を使用している。」
UFOS - Air Force Declassification Office)(※2)
 
 
ここではUFOの定義に加え、UAPという用語が使われるようになったいきさつも書かれています。

Wikipediaにも同様の記載

米空軍や国防総省のUFOに関する定義についてはWIKIPEDIA ”Unidentified flying object”にも記載があります。
 
原文は非常に長いですが、”Terminology”項の要約(それでも長い!)を示します(※3)。

メリアム・ウェブスターによると、「UAP(未確認航空現象)」という用語は1960年代後半に初めて登場し、「UFO(未確認飛行物体)」は1947年から使われている。オックスフォード英語辞典はUFOを「未確認飛行物体、『飛行円盤』」と定義する。最初にこの言葉を使用した本はドナルド・E・キーホーによって著された。1953年、アメリカ空軍(USAF)は「UFO」または「UFOB」という用語を標準として採用し、すべての関連報告を一括して扱うための用語とした。当初の定義では、USAFは「UFOB」を「性能、空力特性、または異常な特徴により、既知の航空機やミサイルのタイプに一致せず、または既知の物体として肯定的に識別できないすべての空中物体」としていた。したがって、この用語は当初、調査後も未確認のままであるケースの一部に限定されていた。USAFは国家安全保障上の理由や技術的側面に関心を持っていた(空軍規則200-2参照)。
 
UFOという用語は1950年代に広く普及し、最初は技術文献で、後に一般的に使用されるようになった。冷戦時代には国家安全保障への関心が高まり、最近では2010年代にも未解明の理由でUFOが注目を集めた。しかし、さまざまな研究はこの現象が脅威を示していないこと、また科学的な追求に値するものではないと結論付けている(例:1951年のFlying Saucer Working Party、1953年のCIA Robertson Panel、USAF Project Blue Book、Condon Committee)。
 
「UFO」という頭字語は、プロジェクト・ブルーブックの責任者であったエドワード・J・ルペルト大尉によって造られた。彼は「明らかに『飛行円盤』という用語は、あらゆる形状と性能の物体に適用するには誤解を招くため、軍はより一般的でカラフルではないが『未確認飛行物体(UFO)』という名称を好む」と述べた。他にも「飛行フラップジャック」、「飛行ディスク」、「説明のつかない飛行ディスク」、「識別不可能な物体」などのフレーズが公式に使用されたが、これらはUFOという頭字語よりも前に使われていた。
 
一般的な使用法では、UFOは異星人の宇宙船を指すようになった。テーマに関連する公衆やメディアの嘲笑を避けるため、一部のUFO研究者や調査者は「未確認航空現象(UAP)」や「異常現象」といった用語を好んで使用する。軍事航空の文脈では、「異常航空機(AAV)」や「未確認航空システム(UAS)」という用語も使用される。
 
最近では、アメリカ政府関係者は「未確認航空現象(UAP)」という用語を採用しており、時には「未確認異常現象」として拡張される。この用語は、UFOに関連する文化的な重荷を避けるために使用される。UFOは異星人との関連が何十年にもわたり、文化、ポピュラーエンターテイメント、陰謀論、宗教運動の多くの領域で結びついてきた。「未確認航空現象(UAP)」は理論上、異星人の宇宙船を含む可能性があるが、両者は同義ではありません。
 
2023年度の国防権限法(2022年12月23日に法律として署名)は、「未確認異常現象」を「空中物体」だけでなく「潜水物体や装置」および「移動物体や装置」も含むものと定義しています。2023年、NASAのUAPIST研究チームはその名称の「A」の意味を「航空」から「異常」に変更し、新しい任務として「全異常」タスクフォースを反映しました。
 
 
技術的には、UFOは未確認飛行物体を指しますが、現代のポピュラー文化において、この用語は一般的に異星人の宇宙船と同義語になっています。しかし、ETV(extra-terrestrial vehicle、地球外乗り物)という用語は、完全に地球上の説明からUFOのこの解釈を分けるために時折使用されます。これには、暗隠生命体仮説(cryptoterrestrial hypothesis)や、次元間仮説(interdimensional hypothesis)、タイムトラベラー仮説(time-traveler hypothesis)、心理社会的仮説(psychosocial hypothesis)などの他の現象の解釈も含まれます。

"Unidentified flying object" (Wikipedia)

ここにもUFOの意味に加え、近年UAPが使われるようになったいきさつが書かれており、その内容は先述の米空軍公式見解と一致します。
 
※なおこれに対応する日本語版サイト(「未確認飛行物体」(ウィキペディア))には、2020年河野太郎防衛大臣(当時)が記者会見で、超常現象の意味でUFOという用語を誤用していることが言及されています。

以上に見られるように、UFOの語意は現在も原義通りであり、原因を特定できない空中現象を指します。
 
UAP(未確認航空現象もしくは未確認異常現象)という用語が使用されたいきさつは、UFOが本来の意味を離れ宇宙から飛来した異星人の乗り物と同義で使用されることが「ポピュラー文化」において慣用化したことから、それと識別するため用いられるようになった、とのこと。
 
これは例えば日本におけるバラエティ番組で超常現象信奉者や「UFO研究家」なる者が「UFO=宇宙人の乗った宇宙船」という図式で論を展開している状況とも一致します。

陰謀論しぐさ全開、ああやっぱりね

三上氏は「UFOの問題は軍事でありなまの情報は表に出ない」とも言います。
 
おそらく公開されている情報とは別に、隠された真の情報があると言いたいのでしょう。
 
もしそうだとするなら、未確認飛行物体としての原義のあるUFOを従来通りの意味とし、宇宙人の乗り物としての別の言葉を機密用語として新たに作って軍内で使用するのが自然なのでは?
 
教官向けガイドラインが機密だとすると、なぜその機密情報を三上氏は知ることができたのか、またそれをインターネットで勝手に公開することに道義的問題はないのか?
 
また、教官向けガイドラインが機密でないとすると、教官ガイドラインと米空軍の公式見解という、双方とも公開されているものどうしが矛盾していること自体が矛盾です。
 
そして、「軍事だから本当のことは表に出てこない(自分だけが知っている)」、これは典型的な陰謀論者の論法。
 
実際には上で示した通り、UFOには未確認の飛行物体以上の意味はない。
 
UAPという言葉が使われるようになったのも、UFOが軍事用語で宇宙人の乗り物を示すために使えなくなったからなどと言う、彼が言うような理由ではなく米軍文書にある通り、まさに三上氏のような宇宙人信奉者が誤用を広めたことに起因するのであり、それは誤解を避けるためだったのです。

あとさ、高校生を便利に使うなよ

簡単に調べればわかる事でも、分かりやすい論法に人は騙されやすい。
 
少しの手間を面倒がらず、多面的に情報を集め総合する、そういう知性が、誤情報から自らを守る力になります。
 
看過できなかったのは、このイベントでは視聴者代表として高校生を参加させていたこと。
 
理科や数学を通じて初歩的な自然科学の知識を習得し論理的な思考過程を形成しつつある高校生に対し偏った知識を授けることは、知識・思考法形成過程の初期設定を誤らせることになりかねません。
 
当人曰くUFOやUMAに興味あるとのことですが、であるならなおさら情報は多面的に捉えることを学ばせるべきです。

本当の情報を出していないと称する当の米軍からオカルト扱いされているUFO論を一方的に伝授する異常性。

加えてその方向で高校生の疑問を「解消」し、それをファシリテータがほほえましいことのように受け流す情景。

さすがに見るに堪えなかった。

学生・生徒を使い論調を一方向へ誘導、これをインハラ(Intellectual Harassment:知的暴力)とでも呼ぶことにしよう。

インハラ反対!

(※)
https://en.wikisource.org/wiki/Air_Force_Regulation_200-2,_Unidentified_Flying_Objects_Reporting
 
(※2)
https://www.secretsdeclassified.af.mil/Top-Flight-Documents/Unidentified-Flying-Objects/
 
(※3)
https://en.wikipedia.org/wiki/Unidentified_flying_object
 

#探究学習がすき

○新刊 脳は心を創らない ー左脳で理解する「あの世」ー
(つむぎ書房、2023年)
心の源は脳にあらずとする心身二元論と唯物論を統合する新説、「PF理論」のやさしい解説。テレパシーやミクロ念力などの超心理現象も物理学の範疇に。実証性を重視し、科学思考とは何か、その重要性をトコトン追求しつつ超心理現象に挑む、未だかつてない試み。「波動を整えれば病気は治る。」こんな「量子力学」に納得しちゃう人、この本を読んだ方が良いかも!?あなたの時間・お金・命を奪うエセ科学の魔の手から自分を救うクリティカルシンキング七ヶ条。本書により科学力も鍛えられちゃう。(概要より)

○ Youtubeチャンネル「見えない世界の科学研究会」
身近な科学ネタを優しく紐解く‥
ネコ動画ほど癒されずEテレほど勉強にもならない「お茶菓子動画」


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?