和田毅は何故プロテクトリスト28名の中に居なかったのか~人的補償騒動を振り返る~


 衝撃の第一報が流れたのは11日の早朝。報じたのは日刊スポーツ。その内容は「山川穂高の人的補償に和田毅指名へ」。

 まず、和田毅について軽く紹介をしたい。昨季21試合に登板し8勝6敗をマーク、100投球回を消化したベテラン左腕である。

 昨年の11月25日の時点で、小久保裕紀新監督からも「開幕ローテーション入り」が名言されている。来季の戦力としてカウントされている側の選手だ。普通に考えて、プロテクト阻止の中にいるべき選手だ。

 しかし、プロテクトリスト28名の中に居なかった。それは一体なぜなのか?

 まず、昨シーズンの和田毅の成績を振り返りたい。

昨シーズンの和田毅(投手成績)

 20先発は石川 柊太に次いでチーム2位の成績。42歳という年齢もあり完投と完封こそ0だが、100投球回はチーム4位。和田よりイニングを投げた3人は石川 柊太(125.2投球回)、有原 航平(120.2投球回)、大関 友久(104.2投球回)である。かつては最多勝受賞経験もある東浜巨は99.2投球回で、消化イニング数は和田毅より下だった。

 ローテーションを若い投手に譲るほどの衰えは、今年の成績からは読み取ることができなかった。

  実際に投げているボールはどうだろうか。22年に自己最速の149キロをマークし、23年は最速147キロ。

 そして驚くべきはストレートの平均球速。23年の平均球速は142.6キロ。これは和田毅が日本球界に復帰した2016年以降で最速である。昔の格言で「左ピッチャーは体感速度5キロ増し」というものがあったが、それをそのまま当てはめると和田毅の平均球速は147.6キロ相当ということになる。昨シーズンで例を挙げると、種市 篤暉(ロッテ)の平均球速が147.6キロだった。42歳のベテランが25歳の本格派ピッチャーに劣らないボールを投げていることになる

 ちなみに和田と種市のストレートで比較すると被打率・空振り率は和田毅に軍配が上がるので、左の5キロ増しは案外眉唾でもないのかもしれない。信じるか信じないかはあなた次第。



 ここまで成績面と投げてるボールから、プロテクトリスト漏れの可能性を探ってきたが、どちらの可能性も低いことがわかった。

 では、和田毅がプロテクトリストから漏れた理由は何なのか?ここからは、表に出ている事情から紐解くことになる。要は憶測だ。ご容赦願います。

可能性① 複数年契約の選手が多すぎてプロテクトリストから漏れた説

 上のツイートは私が予想した「複数年契約中の選手を全てプロテクトした」プロテクトリスト28名である。あくまでホークスフロントの心理状況等を鑑み予想したものであり、自分ならプロテクトする選手が一部漏れている。和田もそのうちの一人だ。

 ホークスは12球団で最も複数年契約中の選手を抱えており、その数はなんと9名。
 貢献度の高い柳田・近藤・有原がいる一方で、隔年傾向のある東浜とケガが多い武田など貢献度の低い選手も混在する。これがあだになった可能性がある。

 NPBの現行制度において、複数年契約中の選手を人的補償で指名してはいけないというルールが存在しなければ、複数年契約中の選手をプロテクトリストに組み込む義務も、もちろん存在しない。ただ、球団には体裁というものがある。

 もし、複数年契約中の選手をプロテクトせずに人的補償として流出した場合に、他球団の選手から見たらどう映るか?「ああ、あの球団と複数年契約を結んでもいざという時に守ってくれないんだな」となる危険性が生じる。要は今後のFA交渉に悪影響を及ぼす可能性があるわけだ。

 いくら嶺井がFA戦士としては物足りない成績だからといって、4年契約の1年が終わった段階でリリースするようなことは避けたかったはずだ。

可能性② 球団批判と取れる発言に対して、フロントが一時の感情でプロテクトリストから外した

 上の発言が出たのは25日の契約更改後だった。和田にしては珍しい形の苦言の呈し方だった。それほどにチームに対して危機感を感じていたからこその発言だったと思うが。

 ソフトバンクは将来的にメジャーリーグに参入する構想を表明したのが2015年のことだった。それ故にMLB流をどの球団より色濃く取り入れようという動きが強い。MLBの下部組織を標榜したNPB初の四軍制はフロント肝煎りの計画のはずだった。だが、アメリカでのプレー経験がある和田の眼には、紛い物にしか映らなかったのだろう。

 マイナーリーガーのような死に物狂いの執念を、自チームの育成選手たちからは感じなかった。その違和感を腹に収めずに発言したのも、チームを思う故の行為だったはずだ。だが、それがフロントの逆鱗に触れた可能性がある。

 ホークス育成選手の黄金時代は2010年のドラフトまで遡る。千賀滉大
・牧原大成・甲斐拓也の3名を同年の育成ドラフトで指名。チームの黄金時代を支える主戦力となった。
 その後も石川柊太・周東佑京・大竹耕太郎・大関友久などの選手を輩出。ホークスにとっては、育成選手なくして黄金時代なしとも言える存在だった。
 そして四軍制は、その成功体験の最終形態とも呼べるような代物だ。しかしそれはチームの顔と呼べる選手に否定されるような代物だった。そのことがたまらなく許せなかった可能性がある。信じたくはないが、成績面から見れば外す理由がないので、こんなことが可能性の一つとして浮上してしまった。

可能性③ ライオンズが左腕のプロスペクトをかき集めていることを失念していた可能性

 可能性を考察していくうえで、そもそもなぜライオンズが人的補償で和田毅を指名したのか。その理由についても触れておきたい。

 結論から言えば、和田毅は内海哲也と同じく「そこに居るだけで無形の力を発揮する選手だから」である。

 ライオンズは21年のドラフトで隅田知一郎・佐藤隼輔・羽田慎之介を、23年のドラフトで武内夏暉を指名した。この4人が今のライオンズのプロスペクトとも呼べる選手だが、4人全員サウスポーである。そこに経験豊富なレジェンド・和田毅を引っ張ってきたらどうなるかという話だ。ハッキリ言って、どえらいことになる。

 そもそもライオンズは過去の人的補償で、内海哲也を指名している。ベテランだろうが高年俸選手だろうが、評価した選手なら全力で取りに行く球団だ。和田は年俸2億だから人的補償で指名されることはないだろう……と高を括ったのだろうか。もしそうだとしたらホークスフロントの考えは甘すぎた。

対案らしきもの ホークスフロントはどうすればよかったのか

 つらつらと書いてきたが、私の結論としては「和田毅をプロテクトしていなかったのは大不正解」だ。

 戦力面で見ても、実績あるベテランが背中で見せる効果を考えても、なぜプロテクトしなかったのかと首を傾げるばかりだ。

 と、ホークスフロントの批判に終始してしまったが、じゃあどうすればよかったんだよと言われそうな気がしてきたので、私なりの回答を用意した。パターンとして3種類だ。回答は、私が予想したプロテクトリストが正解だったという前提から話す。

パターン① 野村勇をプロテクトリストから外す

 1年目に球団新人最多記録タイの10本塁打をマークしたマルチプレーヤー。定位置確保と行きたかった2年目にジンクスのように打撃不振に陥り打率1割6分、3ホーマーと首脳陣の期待を大きく裏切る成績になった。

 大卒社会人入団なので来季28歳という年齢を考えると最初からプロテクトリストから外れていてもおかしくないが、1年目の数字を考えると後ろ髪を引かれる思い。ただ、和田毅を失うことに比べればまだ……という気がしないでもない。

パターン② 板東湧梧をプロテクトリストから外す

 21年には中継ぎとして44試合に登板し防御率2.52をマーク。22年にはシーズン途中から先発投手としての可能性を見出した甘いマスクのパワーアーム。23年は高橋礼との開幕ローテーション争いに敗れたが、前年より先発登板の回数を増やすことには成功。来年こそ開幕ローテーション奪取が期待される立場だ。

 プロテクトリストに確実に入る側とは断言できないが、如何せん女性ファンが多いので思い切って外すということはしづらい。だが、和田毅が外れていたパターンに比べればライオンズの食指は動きづらい可能性が高い。

パターン③ 武田翔太をプロテクトリストから外す(半分禁じ手)

 通算217試合登板、通算防御率3.34の実績豊富なピッチャー。かつては日本代表に召集された実績もあるが、ここ数年は故障などの影響もあり稼働率の悪さが目立つ。

 ただし、武田翔太は現在複数年契約の最中である。先にも触れたが、複数年契約の選手の扱いは非常に厄介極まりない。ではなぜ武田なのか?それは武田がホークスにドラフト入団した選手で、仮に流出しても一番少ないダメージで済む選手だからである。

 来季31歳という年齢、度重なる故障歴。ここから武田がキャリアハイの成績を叩き出す可能性はかなり低いように思える(もし叩き出したら土下座して謝ります)。

 それに加えて1億5千万プラス出来高(推定)の複数年契約がついてくる。いくら高コストの選手でも取りに行くライオンズとはいえ、和田よりは妙味が少ないと言わざるを得ない。

 ただし、絶対にライオンズが指名しないとは言い切れないので、万が一流出した場合は……頑張ってアフターフォローしてください。


おわりに

 たった一人の選手をプロテクトリストから外したがために起きてしまった今回の騒動。そのたった一人が、絶対に外してはいけない一人だったがために起きてしまった(代償として獲得した選手がいわくつきのアレだったのも大きそうだが)。

 最後に私から一言言わせてほしい。

 指名されないだろうと高を括ってチームの顔とも呼べる選手をプロテクトリストから外すのはやめませんか?

 ホークスフロントが死ぬほど痛い目にあったのを最後に、今後こういうことが起こらないことを祈ります。

 


 


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