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【MTG】その灯火が阻まれぬ域にて【昔話】 第一話

 鹿児島でマジックザギャザリングができるお店として長年愛されてきた「トレカのお店」が去年2019年の4月に閉店しました。正確に言うと、移転なのですが、移転先にはデュエルスペースがありません。合掌。
 ※最近デュエルスペースが数席復活したそうです。木曜日にパイオニアしています。みんなも新・トレカのお店に遊びに来てね(ダイマ)

 実をいうと、このnote自体は2018の秋に高橋優太の有料記事を読むために登録していました。そのまま放置していましたが、婚約やら引っ越しやらでライフサイクルの変化の中、MTGへの向き合い方に少しずつ変化があり、自分の気持ちや考え、歴史などを拙くとも記録に残したいと考えるようになりました。

 今回は鹿児島という都会にはちょっとだけ遠く、そんな日本の隅っこ暮らしをするMTGプレイヤーの独り言というか回想録をします。


ミレニアム・プレインズウォーカーの端くれ


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 僕の事を簡単に話します。MTG歴は高校生になってからです。時は1999年。元々ゲーマー気質な僕は「ゲームぎゃざ」の表紙に一本釣りされて、ウルザス・サーガのスターターセットとクラシック(第六版)のブースターパックを買ってきて、弟と遊んでいました。

暗黒の雛

稲妻のドラゴン

 初めてのレアは暗黒の雛稲妻のドラゴンでした。僕のドラゴン好きの原因は大体これ。

 当時の情報源は雑誌(ゲームぎゃざ)が中心でしたが、インターネットの黎明期でもありました。夜11時になり、母親が聖書を読んでいる横で当時は20万円以上したノートパソコンを引っ張り出し、アナログ回線に繋ぎ変えて「ハルマゲドンの図」とか「ASUKA.NET」とか「Magic Square(森慶太さんが運営)」とか後なんか月に1、2回ぐらいのペースで更新されるMTG漫画系のポータルサイトとかあったような・・・そんな感じでMTGに沢山触れるのが好きな、どこにでもいる高校生でした。当時の憧れは斎藤友晴、同じぐらいの年齢の子が優勝していて超カッコいいと思っていました。今はその人のお店でfoilカードを買い漁るなんてねぇ(白目)

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当時のゲームぎゃざの記事。斎藤友晴(トモハッピー)に並ぶ錚錚たる日本MTG界のレジェンド達 

 さて、当時僕の住んでいた地方都市(人口約70000人)で唯一MTGが遊べたのは、デュエルスペース長机2個分(8席)の「わんぱく小僧」だけでした。RPGツクール4という稀代の糞ソフトを定価で買いながらも、そのお店に笑顔で遊びに行けたのはそこにMTGが売っていたからです。そこにいけば、なんか知らないお兄さんたちに「初心者は緑と赤よ!」とストレージに入ってる野生の犬や怨恨(1枚10円)を4枚ドバーと押しつけてくれる、そんな幸せな空間でした。僕はトレードして組んだ補充デッキで彼らを半年後にフルボッコにして店舗大会を優勝しました。控えめにいって糞ガキです。

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当時使用していた補充デッキは今でも大切に残しています。

 そんな感じで若きハルタカ少年の内にも確かにプレインズウォーカーの灯が宿っていたはずなのですが、結構あっさり消えます。インベイジョン・ブロックで。ライジングウォーターから対立されて弟と取っ組み合いになったから? とか、ユートピアの木の暴落でお年玉が吹き飛んだから? とか、そんな遠因がなくもないですが、一番の理由は「遊んでいたお店がなくなったから」です。

シャッター街

 地元の商店街はシャッター街になりました。遊んでいたお店はこの写真の真ん中ぐらいのガラス張りのテナントにありました。 写真は東洋経済オンラインさんから引用。

 カードが買える場所、遊べる場所、みんなが集まれる場所――その空間がなくなったとき、僕の遊び相手はいなくなりました。

 当時携帯電話はPHSとの切り替わりの過渡期にあり、ピッチも携帯もポケベルももっていない僕は、お兄さんたちとの連絡手段を持ち合わせていませんでした。弟は遊戯王へ旅立っていきました。

 突然の孤独。しかしマジックへのリビドーはむしろ上がり続けました。当たり前のものがいなくなる喪失感はライフステージにおいて何度も訪れるイベントではあります。人はそれを乗り越えていく、桜が咲けば、葉桜になり、毛虫が湧く。枯れ木を過ぎれば、再び蕾をつける。そんな当たり前のことではありました。
 しかし高校生の僕にそんな理屈は関係ありません。マジックしてえよォ!お薬モットちょーだい!!当時のブースターパックはインクの匂いが独特で一人の少年を虜にするのは十分すぎる刺激だったのです。はてさて。

 勇気を振り絞って鹿児島市までデッキ(件の補充デッキ)をもって遊びに行ったものの、知らない同世代の子たちに声をかける勇気もなく、僕は後ろでニコニコして眺めていたら誰かが声をかけてくれるのではないか?と過ごしていたのですが、大会中なのでスペースを開けてくださいと押しやられて、なんだよ片道910円払ってきたんだぞと思いながら、パックを買ってトボトボ帰る。そんな少年でした。へへっインクのにおい大好き。しかし現実問題としてのしかかる往復1820円、ミシュラのらせん1枚分の遠征費用を高校生が毎回捻出できるわけもなく、僕のプレインズウォーカーとしての灯はそこで潰えます。テフェリーのように(フェイズ・アウト)

フェイズ・インはネオンと共に

 フェイズアウトした灯火は約10年後再燃します。

闇の隆盛

 闇の隆盛。当時6000円したあの神ソリンが入っている超絶エキスパンション(嘘は言っていない)

 僕は地元のおもちゃ屋で何となくそのパックを買いました。パックの匂いは当時の記憶よりマイルドな気がしましたが、嗅神経を通じて大脳辺縁系へと辿り着き、快のフラッシュバックを想起するには十分すぎました。 あ、MTGしたくなっちゃった・・・ 出てきたカードをシャカパチしながら、僕はMTGが遊びたい気持ちが抑えきれず、しばらくもやもやした気分で過ごします。

 なぜこのタイミングで復帰したくなったのか。社会人になって、あぶく銭があったから。実家暮らしだったから。車があったから、片道910円払わなくてもいいから(ガソリン代かかるけど)
 だけど、もっと根本的な理由として、やめた後もMTGが好きだったからです。MTGwikiを読んでみたり、MWSを少し弄っては物足りずにやめたりとか、本当にその程度には灯火を失ったときですら、マジックザギャザリングというゲームを追いかけていた。石田格が亡くなったと聞いたときは割と落ち込みました。俺たちの憧れ、トモハルはなぜか出場停止になっていました。森さんは公式の人になっていました。タルモゴイフはとりあえず高いカードだと知りました。
 マジックのことを調べれば調べるほどに欲求を抑えらず、テフェリーの如く、時代旅行から取り残された人のようになった僕は、ついに様変わりしたMTGの世界を再訪したのです。

 何はともあれ、今はインターネットで検索するところから全て始まります。鹿児島でMTGが遊べる店はどこだろうな・・・鹿児島市の『メディアランド アーク・トレカの店』、ここしかないのか・・・。道に迷いながらも、何とかお店を発見。入るのに躊躇しながらも、男は度胸、飛び込んでみろってもんだ。誘蛾灯の如く怪しく光るネオンのお店に僕は吸い込まれて行ったのです。

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画像は2018年春頃の写真。


 入口から手前は中古ゲームソフトが並んでいて、奥にカードやサプライのショーケースと20席程度の対戦スペース。シングルカードはあんまり売ってないけど、カウンターの奥にMTGらしきブースターの箱が多数並んでいる。店員は常連と話をしていて、多分複数のアニメとコラボしている国産TCGの話で盛り上がっている。かつての遊び場「わんぱく小僧」に重ねてしまうが、あのときより人はずっと多い。年齢層も自分と同じぐらいの20代が多い印象。もっと上もいそう。

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 そして肝心のデュエルスペースは・・・常連が多い。怖い。あの人なんかめっちゃ身体大きい。そしてめっちゃ笑ってる。笑っているね・・・。ふと眼鏡の人が僕の方を見るけど、すぐに試合に視線を戻した。フラッシュバックするハルタカ少年の片道910円の渋い記憶。20代後半の僕よ。あの時の僕とは違うはずだろ? 違うはずだったんだけどなぁー

 ・・・誰にも声をかけることもなく、お店に売っていた300円のカード詰め合わせと新たなるファイレクシアのブースターパックを数個買って帰りました。これが僕にとって初めてのトレカのお店の記憶です。

 パックからはなんと当時のトップレアである戦争と平和の剣が。詰め合わせには・・・控えめに言ってゴミしかなかったのですが、ウルザブロック時代から考えたら高スペックすぎるコモンのゴブリンたちが多数入っていたので、僕の初デッキはこの子たちに5000円の剣を装備させるというアグロデッキが完成したのです。

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 当時のデッキの再現。古い人間なのでゴブリンウィニーとか呼んでました。当時のお気に入りは磁器の軍団兵。

 さて、デッキができるとやっぱり回したくなるものです。トレカのお店に遊びに行きたい。あのときの0回戦敗退の悔しさを胸に、今度はキチンと秘策がありました。

はじめてのフライデーナイトマジック

 まず、インターネットで「鹿児島 MTG」で検索します。当時のMTGコミュニティーはブログサイトであるdiarynoteというサイトが中心で、多くのプレイヤーが対戦日記や考察をつけていました。僕もこのサイトに登録し、同じく鹿児島でブログをしていたTKWKさんに声をかけてみました。快く返事をしてくださった彼を頼りに、私は「はじめてのひと」を装って遊びにいくという姑息なアイデアでFNM(フライデー・ナイト・マジック)に参加しようという作戦でした。

陰キャすぎるー

 今回は作戦通り行き、お店に入ってすぐ「TKWKさんって人いますか?」と自信をもって店員さんに声をかけると、自分より少し年下だと思う彼に初遭遇。今では同じ業種同氏である彼とは僕がやや先輩なのもあり、打ち解けた関係で話していますが、当時は初対面だし彼の職種だって知る由もなく、ぎこちなく挨拶をし、プチオフ会っぽい感じでMTGの話で打ち解けていると、「あー、大会に参加しますか?」声をかけてくる青年にドキッとします。

その青年こそ、あの時僕を一瞥した眼鏡の男。
僕の0回戦敗退を知っているかもしれない男。
その正体はMRTさん。鹿児島MTGプレイヤーならだれもが知るレベル1ジャッジ、その人だったのです。

ウィダルケン

鹿児島MTGの顔 MRTさん(ヴィダルケンに似てる)

 僕は内心(やべえ、この人がこの界隈のBOSSだったのか)と怯えながらも、どうか僕の事忘れていてください・・・と願いながら「はい、初心者ですがよろしくお願いします」とFNMに参加することに無事成功しました。

DCIナンバーはありますか? ではこれを書いてください。今日はこのカードの番号で大丈夫です、・・・はい。ありがとうございます。では試合になったら呼ぶので待っててください・・・。あ、参加費ください。はいどうも。

 そんな感じでいろいろな人の名前を白紙に書きながら、MRTさんは慌ただしく店の奥へと引っ込んでいきました。最初は店の人かと思いましたが、ジャッジという概念の人で、MTGの大会はMRTさんがすべて主催しており、店も一任していることを当時の僕は知る由もありませんでした。

 こうして初めてのFNMが始まりました。

 今でも対戦相手は覚えています。

 一回戦は陽キャっぽい大学生の男の子。うむ、年下やな、メンタルイニシアチブ我にあり! ・・・出産の殻? 適者生存の劣化版だけどシルバーバレットかー。おしゃれなデッキやなー。酸のスライムとかいう超エグい忍び寄るカビに早速5000円札を叩き割られ、もじもじする自分を尻目に起動された適者生存の劣化版は、彼の盤面に現代マジックのインフレの象徴たるタイタンシリーズの黒いのを現出させました。ろくろくせっしに・・・はぁ!? にーにーとーくん2こ?殴ったらもーいっかい? 無理やんこんなん・・・
 サイドボードからアーティファクト破壊を入れる。さすがにテンポ勝ちで勝ったなガハハ・・・相手の手札から現れる白きファイレクシアの執政官。あ、これは知ってる。ネットショップで一目見た時からカッコいいと思ったカードだったからね・・・

エリシュノーン

白い悪魔は小鬼どもを薙ぎ払う

 二回戦はコントロール使いの社会人。同い年ぐらいか、気さくな人やな。赤単ウィニー対青白コントロールとか昔から変わってないマッチアップだから少しほっこり・・・したのもつかの間、10年前とは違う展開が待っていた。ギデオン・ジュラ。なにこれ・・・ずっとこいつに攻撃しろ?ギデオン兄貴の胸板めっちゃ硬いっすね・・・

ギデオン

昔と違ってコントロールはフルパーミッションではないことを死して学ぶ。

 ダブル★黒星★ときて三回戦はTKWKさん。TKWKさんは黒単吸血鬼デッキです。彼が採用する四肢切断という環境最強の除去が僕にとってはライフレースを優位に進めるメリットになりました。攻防一体、こうして三戦目までもつれ込み、巨大な吸血鬼を前に僕は絶体絶命、だが、今日はちょっとだけ彼より僕に運気があったようでした。この店の300円詰め合わせに入っていた、たった一枚しかない切り札を使ったのです。

攻撃的な行動

 その吸血鬼、僕に貸してください!!

 ブロッカーを排除し、彼の強靭な吸血鬼が僕の下に馳せ参じ、見事ライフレースを逆転することに成功して初勝利となったのです。

 ああ、こういうMTGがしたかったんだよ。
 10年以上の「MTG飢え」から解放され、僕は至極満足のいく結果となったのです。試合後、TKWKさんとそのお友達から僕のゴブリンデッキを机に広げて強化案を出し合い、コントロールとの戦い方が下手すぎるとか突っ込まれながら、色々アドバイスを貰ったり、彼らが使わないカードを押し付けられたりして楽しい時間を過ごしました。

 だけど夢の時間はまだ続くのです。

 いや、夢というか・・・むしろここからがある意味僕のMTG沼の始まりでした。

 先ほどまでジャッジとして大会運営に携わっていたMRTさんが、MTGで遊んでいました。横目で見ると、そこには子供の頃、憧れだったカードがいたのです。

闇の天使セレニア

誤植が有名すぎる人

「闇の天使セレニア?」

 MRTさんがふと僕を見て言いました。

「EDHって知っていますか?」

(次回に続く)


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