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野菜ジュースと暴言とアンコール

※以前ブログで書いた記事をそのまま貼っています※

どうも、パッピーです。

いきなりですが、「コールセンター」と聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか?

・精神を病む
・クレームばっかり
・時給高め

恐らくこんな感じの印象だと思います。
でですね、某家電量販店のコールセンターのバイトを約2年程やっている僕から言わせてもらうと、上に挙げた奴は全部正しいです笑

いや笑い事じゃないよ。

本当に精神を病んでしまう人も沢山いるし、理不尽なクレームを浴びせられてキツイにも関わらず、時給が高いから辞められない・・・

というまるでアリ地獄のような場所です。

で・す・が、そんなコールセンターも、楽しくは無いですが辛い事ばかりじゃないのです。
実を言うと僕の部署の場合、電話をかけてくるほとんどは普通のお客さんです。
なのでクレームはそんなに多くありません。

こちらが丁寧に対応すると、電話を切る直前に「色々調べてもらって本当にありがとう」とか言われる事もあって、その時は本当に嬉しいんですよね。

まぁこれはどの仕事でも言えると思いますが笑

やっぱり感謝って大事です。

話を戻して、まぁ基本的に電話対応はあんまり楽しくない事ばかりなんですけど、たまにですね、いるんですよ。

何がって?

超頭がおかしい人が。

この超頭がおかしいスーパーレアの方々の電話対応をするのは、メチャクチャ楽しいです。
何故かというと、普通じゃないから。

日常に退屈している所に、ドッカーン!!とどでかい大爆発が起きたような錯覚を与えてくれるのです。

ディズニーランドとかUSJみたいなテーマパークって楽しいじゃないですか?
あれって「非日常」を体験する事が出来るからですよね。

それと同じなんです。
超頭がおかしい人は、言葉一つ一つがもうスプラッシュマウンテン並のアトラクションです。

そんな最高のアトラクションを、特に移動することも無く、長蛇の列で待つこともなく味わえるんですよ。

最高じゃないですか。
つまりは、超頭がおかしい人からの電話は、宅配型のテーマパークなのです。

なので僕は、超頭がおかしい人達の事を親しみを込めて「ディズニー」って呼んでます。

というわけで前書きが長くなり過ぎましたが、今回は僕が実際に対応した、超頭がおかしい人(ディズニー)の1人を皆さんとシェアさせて頂こうと思います。

題して、

「野菜ジュースと暴言とアンコール」

では、どうぞ笑

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バイトが始める午後18時頃。
いつも働いている部署に向かうと、当たり前のようにあちこちから

「プルルルルル」

という着信音や、

「お電話ありがとうございます、〇〇〇電機コールセンターの△△がお受け致します」

といった音が永遠と聞こえてくる。

今日もかなり鳴ってるなぁ・・・
はぁ、と思わずため息が出た。

その日もかなり忙しくなる事は確実だったからだ。

あ、そうだ、僕の仕事内容がどんな感じか紹介しておくと、いわゆる「総合受付」である。

問い合わせの内容は、在庫の確認、商品に対しての質問、配送商品の日にち変更、購入前の相談などなどとても豊富なラインナップだ。

在庫の確認などは立ち上げているシステムで出来るので僕らが行い、売り場でしか出来ない案件は売り場に内線をかけ引き継ぐ、という感じで、お客さんと売り場の板挟みになっている状態である。

それゆえに立場が非常に弱い。

問い合わせ内容は全ジャンルのため様々な事を覚えてないといけないし、全員とは言わないが売り場の人はコールセンターの人を下に見ている傾向が強いので、結構横柄な態度を取られたりする。

最初の研修の時に渡された対応マニュアルの分厚さを見て、「あれ?大学受験かな?」と錯覚した位に覚える事は多い。

しかも、必死にマニュアルを覚えたとしてもそれが実践ではほとんど役に立たない。
実践しつつ自分で言い回しを覚えていく、という事が一番必要になってくる。


とまぁそんな部署だ。

で、その日も普通に必要なシステムを立ち上げて電話を取る準備を終わらる。
何か変わった事、覚えておくべき事を伝える朝礼を済まし、いざ戦場へ。

PCの画面右上にある、「受付可」のボタンを押した瞬間に、第一号のお客さんからの電話が入ってくる。
毎度このボタンを押すのが辛い。

電話を取るたびに精神をすり減らす事は分かっているので、それを自らの意志でやらないといけないのは中々に気が滅入るのだ。

なので、僕はこの受付可ボタンを押すことを、「切腹」と呼んでいる。

そして今日も無事に切腹を完了し、本格的に戦場へと参加した。

電話が鳴るたびに、画面上にお客さんの電話番号や、問い合わせ先の店舗だったりが表示されるので、その情報をコピペしてシステムに入力する。
するとその電話番号のお客さんが過去にどんな問い合わせをしているのかがすぐに分かるのだ。

電話の第一声は毎度決まっており、もう何万回繰り返したが分からないが

「お電話ありがとうございます。〇〇〇電機コールセンターミヤがお受け致します」

というもの。
このセリフがあまりに染みつきすぎて、この前自宅の固定電話が鳴った時、「もしもし」ではなく「お電話ありがとうございま・・・」と言ってしまった僕はもう重症だと思う。

話を戻し、その日も色々な案件を次々とこなす。

当然だがお客さんはこちらが全てを知っているという前提で話してくるので、かなり怖い。
僕らは各商品のスペシャリストではないので、急に「冷蔵庫の〇〇と△△ってどう違うの?」とか聞かれても答える事が出来ないのだ。

そんな風に毎回どんな問い合わせかわからないくじ引き的な感覚で問い合わせを受けていると、その時が来た。

1等の大当たりである、ディズニーの登場だ。

いつもと同じように電話が鳴り、画面上に表示される情報をシステムにコピペ、お決まりのオープニングトーク、

「お電話ありがとうございます。〇〇〇電機コールセンターミヤがお受け致します」

をバッチリ決める。

僕の初手は完璧に決まると、次は相手の番。
普通のお客さんなら、

「もしもし・・・」
「そちらで冷蔵庫を購入させて頂いた〇〇と申しますが・・・」
「お忙しい所すみません・・・」

等のセリフから入るが、それはあくまで一般の善良な方の場合。
ディズニーは第一声から違うのだ。

僕のオープニングトークを聞き終えた瞬間、電話口の向こうにいるその人は、

「野菜ジュース作りてぇんだけどよぉぉぉ!!!」

というセリフを吐いた。
この瞬間、僕はディズニーが来たことを察する。

久しぶりのお祭りじゃあ。
僕の心の中は歓喜の声で満たされる。
しかも第一声から全く持って意味が分からないんだから、これはかなりの大物!
今日はパーティーや!!

等といった心の中の興奮を出さないように意識し、僕は冷静に尋ねる。

「お客様、恐れいりますがもう一度仰って頂いてもよろしいでしょうか?」

と。

無論聞こえなかった訳ではない。
ハッキリと聞こえたのだ。

だがあまりにもハッキリと聞こえたが故に、逆に自分の耳を疑った。
もしかすると、不満が溜まりまくっている僕は、とうとう自分の中で理想のお客さんを作ってそいつが喋ったと思い込んでいるだけではないか?

と思ったからだ。
普通に考えて、第一声が「野菜ジュース作りたいんだけどよぉ!」から始まるなんてまぁありえない。

そんな可能性は恐らく宝くじ1等とほぼ変わらない確率だろう。

電話の向こうにいるのはディズニーではなく、ただの普通のお客さんではないか?
僕は夢を見ているのではないか?本当の夢の国に行こうとしているのではないか?

そんな疑問を解消し、一旦自分のペースを取り戻すために僕は尋ねた。

そして僕のその質問を受けた電話口の向こうのお客さんは、

「だから野菜ジュース作りてぇって言ってんだろーがぁぁぁ!!」

と1度目よりハッキリとした口調で、意味のわからない事を叫んだ。

気のせいではなかった。
ディズニー確定。
1等大当たりである。

よし、相手がディズニーであるとわかった以上は、こちらもいつも通りの状態では危ない。
何の心構えもなくディズニーに対抗するなど、ペットボトルでライオンを倒そうとしているようなものだ。

そんな無茶をしてはいけない。
興奮のだんじり祭りが開催されている心を一旦落ち着け、臨戦態勢に入る。
一瞬で心を落ち着けた僕は、お客様に対しこう返答した。

「えぇと・・・野菜ジュースでございますか?」

ディズニーは答える。

「そう!野菜ジュースが健康に良いって聞いてな!それを飲みてぇんだよなぁ!!」

なぜこの人はここまで無駄に元気があるのか?と感心しつつ、僕は更に意味が分からなくなった。

野菜ジュースが健康に良い事は知ってる。
それを飲みたいという事もわかる。

で、それを聞かされて僕は一体何をすればいいのだろうか?

ここは家電量販店であって、スーパーじゃない。
そもそも野菜ジュースなんて売ってない。

そもそもそんなに元気なら野菜ジュースを飲む必要なんてないんじゃないか?
とも思ったが勿論そんな事は言えない。

う~ん、こんなに堂々と野菜ジュースが飲みたい!と宣言するコイツは一体何者だ?

あ、ディズニーか、なんていう自問自答を繰り返しながら深く長考する。
しかしどれだけ考えても僕が何をすればいいのかが見えてこなかったので、ディズニーに尋ねる。

「あの・・・お客様・・私は何をすればよろしいのでしょうか?」

こういうタイプの客は、変にわかっている振りを一番嫌う事を経験上知っていたので、僕は素直に、何をすればいいのかが全くわからないという事を伝えた。
この返答で間違い無いはず・・・

そう思っていたら、

「あぁ!?なんでお前そんな事も分かんねーんだよ!野菜ジュースを作るパナソニックのミキサーが欲しいって意味だろうがよ!」

・・・僕の経験は全く役に立たなかった。
ディズニーの言動全てが意味不明でわけわかめである。

野菜ジュースが飲みたい→ミキサーが欲しい

なんてわかるはずがない。
多分これは僕の国語力が劣っているのではないはず。
恐らく東進ハイスクールの林修先生だってこれは読み解けないだろう。

ミキサーが欲しいのであれば、せめて「野菜ジュースが飲みたい」ではなく「野菜ジュースを作りたい」と言うべきだろう。
なぜ過程をすっ飛ばして最後の結論だけ言うのだろうか?

そんなもん、タイタニックってどんな映画って聞かれて

「船が沈む映画」

って答えるようなもんだ。
いや、この例えは微妙かもしれないけど、違うじゃん。

結果どうなったのか?が知りたいのではなく、その過程がどうか?って事だろう。
ジャックとローズの甘い恋模様を言うべきなはずなのに、あろう事かこのディズニーは最後の結論しか言わない。

そして一番驚くべき点が、メーカーを指定している事だ。

「パナソニック」

限定なのである。

百歩譲って、いや千歩、万歩譲って、聖徳太子とか孔子とか孟子のようなステージの高い人間ならば、

野菜ジュース飲みたい→ミキサーが欲しい

という所までは理解出来るかもしれない。
だがどうやったらメーカーまで指定出来るのだろうか?
恐らく聖徳太子も耳を疑うだろう。
この謎はコナンでも解けるはずがない。

ここまでで分かった事は、このディズニーは僕の想像を遥かに超える程イカレているという事だ。
このままだとマズイと直感した僕は、イカレ野郎対策モードへと移行する。

「・・・かしこまりましたお客様。それでは、ミキサーの購入前相談という事ですね。何か型番等の指定はございますか?」

動揺を見せずに、淡々と必要な情報を聞こうとする僕。
するとディズニーは、

「あぁ、そんなの知らねぇよ!パナソニックのミキサーって言ってるじゃねぇか!!要領悪いなお前!」

・・・コールセンターのバイトを開始した当初の僕であれば間違いなくブチ切れていたが、もう僕も立派に何万件と対応してきたプロだ。


この程度の暴言なら、石を噛み砕けるんじゃないか?という位に歯を食いしばり、リンゴ程度なら潰せるんじゃないか?という位手を握りしめ、おでこに数か所血管が浮き出る程度で済ます事が出来た。

我ながら成長したものである。

・・・ふぅ、だがこのディズニーにも困ったものだ。
パナソニックのミキサーが1種類しか無いとでも思っているのだろうか?
それはパナソニックを舐め過ぎだろう。
まぁでも指定が無いならしょうがない、という事で僕は一旦売り場の担当者へ繋ぐべく、ディズニーに

「それでは売り場の担当者にお繋ぎ致しますので、1~2分程お待ちいただけますか?」

と尋ね、

「おう!」

と了承を得たので保留ボタンをポチっと押す。
何気にディズニーとまともな会話が出来た事が嬉しかった。
獣と心が通じ合うような感覚だった。

あぁそうだ、余韻に浸ってなんていられない。急いで売り場へと内線をかける。

プルルルルルルというコール音が5回なった後に、ガチャッと売り場の人が出た。

「はい3Fの〇〇で~す」

「お疲れ様です、コールセンターのミヤです。今パナソニックのミキサーの購入前相談がしたいというお客様から入電中なんですけど、対応出来る方いますか?」

とディズニーをバトンパスする相手を探す。
しかし、

「いや~、すみません。今ミキサーに詳しい人が全員対応中でして、折り返しにしてもらえますか?」

と呆気なく断られてしまう。
という事でまたもやディズニーと濃厚なやり取りを交わす事が確定した所で、保留を解除。

「お客様、お待たせして申し訳ありません。ただいまミキサーに詳しい者は全員他のお客様の対応に入っておりまして、対応が終了次第担当者より折り返しご連絡をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

と自己採点では100点の案内をする。
普通のお客さんなら100%納得してくれるのだが、相手は非日常の代名詞である「ディズニー」。当然納得する筈もなく、

「あぁ、何でだよ!今聞きたいから電話してんだろうが!俺も暇じゃねぇんだからな!!担当者がいないならお前が案内しろ!!!」

と、またも僕の想像の上を行く返答を返してきた。
恐れていたことが起きた。
先ほども書いたが、僕は総合受付でしかないので、商品について詳しい知識を持っていはいない。


ましてやミキサーだなんて、恥ずかしながら僕は人生で一度も使った事がない。
ここでディズニーの勢いに負けて、「はい、ご案内します」と言ったとしても、その後のセリフは白銀の世界のように真っ白になるのは確定している。

カオナシのような、「あ・・・あ・・」すら言えない。
ただずっと「・・・・・・・」という無言な世界が無限に広がる事は分かっていた。

なので僕は誤魔化すことなく素直に、

「お客様、申し訳ありません。私は総合受付でございまして、あまりミキサーについて詳しくありません。なのでお客様にご案内が出来かねてしまうのですが・・・」

と言うと、

「じゃあ詳しい担当者を出してくれ!!」

と一言。

・・・この人はバカなのだろうか?

担当者は全員対応中だと、僕はほんの10秒前に言った。
にも関わらず担当者を出せ!と言うディズニー。

担当者が対応中のため折り返し→お前が案内しろ→詳しくないので無理→じゃあ担当者を出せ

??????

今この瞬間、円周率と同じ位無限に広がる流れが誕生したのである。
そして、もう正直この時点で僕が1日に摂取できるイカレ量のキャパを超えている。
どれだけ美味しい食事も、超満腹時に見たら吐き気がするのと一緒で、僕はもうお腹いっぱいだった。

このディズニーにウンザリしながらも、当然邪険に扱う事も出来ないため、

「あ、お客様、申し訳ありません。担当者が全員対応中のため、案内出来るものが今いない状況でございます。なので折り返しご連絡でも・・・」

「じゃあお前が今勉強して俺に案内しろ!!」

と僕のセリフを遮ってとんでも無い事を言い出した。

・・・僕のミキサーに関する知識レベルは、ディズニーと変わらない。
いや、パナソニックのミキサーは1種類だけではない事を知っている時点で、多少はディズニーより上なのかもしれないけど、そんなの目くそ鼻くそだ。


今の時点でその程度の知識しかない僕が、何の資料も無い中でディズニーの相手をしつつ知識を頭に入れる、なんてことは無理である。

ミッションインポッシブルだ。

それを突きつけてくるディズニー。
お前なら行けるはずだ!
限界を超えろ!

とでも言いたいのだろうか。
確かに、今は無理だと思っていてももやってみたら意外と出来る、という事は結構ある。
だから自分には無理だ、と決めつけずに何でもチャレンジすべき、という心構えは凄く大事だとは思う。

だけどこれは無理。

どう頑張っても、ジャンプして月に行けないのと一緒で、無理なものは無理である。

そう自分に言い聞かせ、ディズニーに

「申し訳ありませんお客様。今手元にミキサーに関する資料が無く、元々持っている知識もほとんど無いためお客様に満足頂ける案内が出来かねてしまいます」

とジャムおじさん並の真心を込めて伝える。
心を込めれば伝わるはずだ!

そう信じディズニーの返答を待った。

「何だお前!!諦めるなよ!!案内しろ!!」

・・・無事にジャムおじさん撃沈。
そしてこのセリフだけ見ると、真矢ミキよりも説得力のある「諦めるな」を発しているディズニー。

スポ根漫画であれば感動的なシーンなんだろうけど、残念ながらそれとは全く状況が違う。

はぁ・・・
思わずため息が漏れてしまいそうだが、出来ないものは出来ないので、その後も何度も出来ない理由を説明する僕。諦めないディズニー。

どれ位時間が経ったのだろうか・・・

永遠と諦めないディズニーと、永遠と折り返しを提案する僕。
本来ならば、お客さんがどうしても納得しない場合、一旦保留にして上司に相談する、というルールがあるのだが、僕はそれを無視した。

どうしてもコイツだけはサシで決着を付けたい!!

いつのまにか僕はディズニーに対しライバル心みたいなものを抱いていた。

本来なら正解は上司に相談する事だし、僕のわがままな行動で更なるトラブルに発展する可能性だってある。

でもコイツだけは僕の手で!!
という思いが強く、僕は規則を破った。

いや、普通にダメな事だけどね笑

そして僕の方もかなり口調が荒くなってきた所でディズニーがブチ切れた。

「お前jdkgはwhなlがぁあlgじゃうbjはた!!!!!」

と凄い剣幕で怒っている。
怒っているのは分かるがあまりにボリュームが大きすぎて何と言っているのかが分からなかったので、僕は冷静に

「すみません、もう一度仰ってもらってもよろしいですか?」

と尋ねた。

おちょくっている訳ではない。
本当に何を言っているのかが分からないため、そのまま聞こえているフリをして対応する方がマズいだろうな、と思った上での判断だ。

すると今度はハッキリとした口調で、

「お前の名前はなんだ!!!!???」

と言った。


なんだ、名前を聞いていたのか。
英語で言ったらwhat your name?ね。

この人の日本語より多分外国人の英語の方が聞き取れるな、うん。

まぁ確かにこれだけ戦った相手なら名前位は覚えておきたいよな、うん。

という事で、長い間争ったディズニーに敬意を表し、僕は

「はい、私はミヤと申します」

と冷静に答えた。

するとディズニーは、

「そうか、ミヤか・・・」

と、その日2度目となるまともな会話に成功した。
純粋に嬉しかった。
多分子供に初めて「パパ」と呼んでもらった時の感動ってこんな感じなんだろうなぁ~と一人で喜びに浸る。

うんうんうん、人は成長する生き物だ。
最初は「!」がないと会話が出来なくなったディズニーも、今や落ち着いた会話が出来るようになった。
立派になったもんだ。
あ、多分不良少年を更生させた先生の気持ちってこんな感じか。

ルーキーズの川藤先生にでもなった気分だなぁ、とか考えていたら、どうやらディズニーのターンはまだ終わってはいなかったらしく、

「スーーッッ」とこっちまで聞こえてくるようなボリュームで息を吸い込んだかと思えば、次の瞬間!

「このgしゃfじょがおぉぉぉぉ!!!!!」

今日イチのビックリマークを含ませた言葉を僕に浴びせてきた。
僕の鼓膜がキンキンと鳴っている。

・・・だが残念ながらまた聞き取れない。

ここまで聞き取れないと、最早ナメック語である。

まぁ会話の流れ的に多分何か暴言を言っているんだろうなぁ、という事は分かったが、いかんせん何と言ったかが分からない。

今聞こえた音を頭の中で再現するも、どうも日本語にならない。

このまま聞こえたフリをしようと思った僕は、ふとある事を思い出した。

・・・それは数日前の事。
バイト中急に上司に呼び出され、かなり褒められたのだ。

何を褒められたかと言うと、僕がお客様との対応中、「聞き取れなかった事を聞き返している事」だった。
その上司曰く、ほとんどの人は、聞き取れなくても聞き取れたフリをして誤魔化すという。しかし僕は聞きとれなかったことは何回でも聞き直していたので、「君は素晴らしい!その調子で頼むぞ!」

と言われていたのだ。

場面を戻して、ディズニーに再度聞き返すかどうか迷っていた僕は、その褒められたことを思い出した。

そうだ、僕の長所は、どんな状況でも聞こえなかった所を聞き返す事だ。
その長所を生かさないなんて、もったいない。

よしやるぞ、と意気込み、0.3秒前に最大級の力を込めて暴言を放ったディズニーに対し、

「もう一度仰って頂いてもよろしいですか?」

と尋ねた。

すると電話口にいる疲れ果てたディズニーは、少し驚いた様子を見せながら再び「スゥ~~~~~ッ」と思い切り息を吸い込み、今度はハッキリとした口調で、

「このクッ・ソッ・ヤッロォォォォォ!!!!!」

と言い放った。

・・・そう、あのナメック語の答えは、「クソヤロー」だったのだ。

確かに今答えを言われてみれば、まぁ聞こえなくはないなぁ、という感じである。
ふぅ、スッキリした。

今ここで答えを聞いてなかったら、多分僕はその日寝るまで「あれは何と言っていたのだろうか?」を永遠と考える事となっただろう。

スッキリしたから今日は快眠だなぁ。なんて事を思う

まぁ僕はスッキリしたけど、ディズニーはビックリしただろう。

だって、トドメの捨て台詞を全力で言い放ったのに、まさかのアンコールが来るんだから。

必殺技の元気玉を放ち決着はついたと思ったら、相手はピンピンしていてしかも「もういっちょこいやぁぁ」となぜか熱血高校球児のように積極的なんだもの。

そりゃぁビビッて動揺するよ。
心が折れても仕方がない。
でもディズニーは諦めずに立ち上がった。
でもディズニーは限界を超えた。

今度は僕の番だ。
僕もディズニー程ではないにしろ、かなり息を吸い込んで、何か言おうとしたその瞬間、

耳に

「ペッ!ピチャッ」

という音が鳴り響き、その直後に電話は切れた。

何が起きたのか一瞬分からなかったが、少し考えてその答えが分かった。

・・・・さすがディズニー、最後まで魅せてくれる。

なんと彼は、最後の最後に自分の電話にツバを吐き捨てるという行為をしてきたのだ。

よく漫画で、悪役が捨て台詞を言いながら地面にツバを吐くシーンがあるけど、あれをまさか現実でやるヤツがいるとは思わなった。

いや、漫画よりもヒドイ。

だって自分の電話機に吐いているんだから。

思わず笑ってしまった。

え?そんな事をされてイライラしないのか?って

そんなのするわけがない。

だって、ディズニーは僕との電話終了後、手にはツバが掛かった電話機を握りしめてるんだよ?

ふと我に返って慌ててティッシュで電話機を拭く姿を想像したら、笑いしか出てこなくてとても怒る気になんてなれない。

途中までは凄くイライラしたけど、最後の最後でスッキリさせてもらって最高のお客だった。彼とはまた話したい。

そう思いながら僕はまだ見ぬディズニーを追い求め次の電話を取るのであった。

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いかがだってでしょうか?

やっぱりディズニーは最高ですね笑

正直ここまで長く書く気は無かったのですが、書いているうちに当時の感情をどんどん思い出しちゃって、結果的にかなりボリュームのある記事になっちゃいました。

こんな人が実際にいるんですからねぇ。
世の中広いです。

あ、一応もう一度念のため言っておくと、今回のような人の対応をするのは稀です。
基本的に電話してくるのは普通の問い合わせのお客様ばかりですので、もしコールセンターで働きたい!と思う方がいればご安心ください笑

こんな人めったにいませんから。

まぁでもたまに掛かってくるから面白いんですよね。
普段質素な生活をして、たまにいい焼肉を食べるとメチャメチャ美味しく感じるのと一緒です。

こんな脂身たっぷりの人を毎日相手していたらどう考えても身が持ちません笑

一応僕が思うコールセンターで働くのに向いている人は、

・あんまり落ち込まない
・感情のコントロールが出来る
・ストレスの発散方法がある

みたいな感じだと思います。
もし興味がある人は是非やってみてください。

メンタルが鍛えられます。(オススメはしないです笑)

はい、という事でまだまだコールセンターネタはあるので、気が向いたら書いていこうかなと思います。

ではこんなに長い記事を読んで頂き、ありがとうございました!

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