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妄想小説「海の魔物」その3

身体を起こして前を見ると海の魔物がいる。いかにも魔物だ。ただの魚じゃなくてなんかほ乳類も混ざっているような見た目。俺が想像してた魔物らしい魔物。想像よりちょっとかわいい。丸顔で、カラフルな胴体、腹に小さい人間の女の子みたいなのを抱えていて、なぜか手が二本ある。足はなくてかわりに裸体の人魚みたいなのの上に接着してる感じ?
移動は人魚が担ってる。足があるのかは不明。ついでに鼻から花が2本生えている。人間を意識したギャグなのか?
ついでに人魚の鼻からは常に水しぶきが出てて水しぶきからこれまた人間好きしそうな水の精みたいなやつらが飛び出してる。出てくる度にヒョエーとかいいながら。
「海の魔物を探していると聞いたが。本当かな?」
海の魔物が問いかける。普通に言葉が通じる。
「そうですけど、よくご存知ですね。」
「だって、大きい声で海の魔物に会いに行くって言ってるの、聞こえたから。で、俺のこと海の魔物って思う?」
ちょっと馴れ馴れしくなる海の魔物。
「うーん、想像よりもちょっとかわいらしいかなっていうのはありますけど、海の魔物っぽいですよね。うん、海の魔物です。」
「あっそう。まあ君がそう思うならいいけど。ちなみに俺の本名はケッセーラセラ84世だから。あだ名はケッセーラ。できればそう呼んでほしいな。」
「ケッセーラっすか。84世ってことは、84代目ってこと?」試しにタメ語を少し入れてみる。
「いや、そういう訳じゃないけど。ただ84っていう数字が好きなだけ。大体俺みたいなのごろごろいるよ。だって君だって魚の産卵とかの様子みたことあるでしょ、大量に卵が産まれるやつ。基本僕は魚類だからさ、似たような奴ら、っていうかまあ兄弟姉妹か、沢山いる訳。別にケッセーラセラ84世っていう名前は親とかがつけたんじゃなくて俺が物心ついて勝手に自分で名乗っただけ。」
「そっか。確かに魚の産卵って一気にすげー産まれるもんな。そっから成長するやつはごくわずかだけど。ケッセーラの親戚もこの辺に住んでたりするの?』
「いやいや、ずっと離れてるよ。俺が離れたっていうか。生存競争厳しいからさ、あんまり俺と同じもの食べる奴がいないところを探してひたすらさまよって。やっと数年前かな、この辺に落ち着いた。俺の足代わりになってくれてるのが女房のパッパラ。噴水から吹き出してるのがパッパラの連れ子のピーとポー。あとは俺の代わりに獲物とってくれるバチータ。案内係の三方良し。色んな奴らに会ってきたけど今はこいつらと一緒にこの辺で暮らしてるよ。」
「へえなんか地味に安定してる感じだね。地に足ついてるっていうか。地面もないけど。海の魔物っぽい活動とかしてない訳?」
「まあたまにサメの大群が来たときとか、潜水艦が来たりとか、理由は色々だけどこの辺の環境が脅かされそうになったら周りの奴ら集めて、追い払ったり、あとはコミュニティの維持っていうのかな、普段から不測の事態に備えてご近所さんと万が一のときの話し合いしたりとか、親睦普段から深めたりとか、そういうのの取りまとめみたいなのやってるかな。」
「まあこの地域のドンみたいな感じだね。」
「そうそう、そんな感じ。この地域の維持とこの暮らしを守るってとこかな。ケッセーラセラ84世の活動をまとめると。」
「なんかさ、野望とかない訳?落ち着いてて幸せそうだけどさ。満足?」
「野望ねえ。野望ってそもそもなんだろうねえ。海全域を俺の指示に従わせたいとか?」
「まあそんなもんかな。」
「従わせてもねえ。てか従わないだろう。色んな奴住んでるし。てか海自体を従わすことはできねえ。」
「まあ海全域を従わせるっていうのは大げさだけどさ、刺激とか欲しくないの?」
「刺激ねえ。君が言ってるのはわかりやすい刺激だよね。ジェットコースターみたいな。パッパラと違う女性と恋に落ちるとかそういうのでしょ。」
「そうそう。まあそういうの。」
「まあなあ。そういうときもあったけど、それも飽きるだろ。最初は大きい刺激だってどんどん小さくなってく訳だから。小さい刺激をみつけると結構あるからな。周りに。別に刺激探さなくても。」
「確かにな。まあ確かにそうだ。俺もそう思うよ。」
「ま、君時間だけは沢山あるみたいだししばらくこの辺で過ごしてみたら。あ、パッパラなんか嫌な顔してる。世話が面倒くさいって?まあ大丈夫だよ、人一人ぐらいなんとでもなるでしょ。」
「結構きれい好きなんでなんとかなると思いますよ。」別にそこまで懇願してまで一緒に過ごしたいとも思わないが、取りあえず、しかめっ面の海の魔物のの妻、パッパラのご機嫌を取る。
というか別にここにいようがどこにいこうがどこでもいいが、海の魔物に会ってしまった以上当初の目的は達成されてしまった訳で、ていうか海の魔物っていうのも色々いるみたいだが、別にここにいなくてもまたどこか行く訳だし、あてもなくね、だったらここにしばらくいても変わらないかなっていうそういう消去法的な観点から、俺は海の魔物の申し出に賛成しているわけですよ!わかります!?って誰も興味ねーだろ。
「別に嫌な顔している訳じゃなくて、元々こんな顔ですけど。そうやって勝手に人が怒っていると決めつけて、不機嫌なやつみたいなレッテル貼られると嫌になる。
あなたのそういう決めつけが私を不機嫌にするの。私は今不機嫌、でもそれはこのフルーツまみれの彼、なんて言ったいいのかしら、まあいいわ、このフルーツ氏がここにしばらくいることに対しての怒りではなく、怒っていないのに勝手に怒っているとレッテルを貼られたことに対する怒り、結局怒ったことによってあなたのもくろみ通り怒ってしまって、結果不機嫌な奴、と思われることに対する悔しさ、による不機嫌さなの。
とにかく、フルーツ氏、どうぞ、Yo-koso!!ここに滞在してちょうだい!でも私あなたが泊まることに不機嫌でも怒りっぽい人間でもないから、そこだけはちゃんと認識してちょうだいね。あなたもそういうデリカシー、そろそろ身につけてくれないと本当に怒るわよ。」
海の魔物に対する不快感をあらわにしながら、パッパラも俺の滞在を了承した。
俺はパッパラのなんか外堀勝手に固められて身動き出来なくなる的な不快感よくわかるが海の魔物はピンと来ないらしい。これはまあパッパラもストレス溜まるわ、っていうかこういうどっちかが心の機微に対してめっちゃ繊細で、どっちかが鈍感の場合ってどうやったらうまくいくんだろ。
でも繊細すぎる同士でも余計あいつ分かってるくせに全部こっちに押し付けてくるとかで疑心暗鬼になるし、やっぱ繊細すぎるやつには鈍感なほうがいいのかね。
で、鈍感な奴はこっちのこういう細やかな心の動きなんてまったく気にしてないっていって納得させて、変にいらいらを増殖させないっていうのがいいんだろうな。
「まあ、じゃあこの辺でゆっくりしてて。てか別に俺らが君がここにいていいとかいちゃだめとかいう権利もないんだけどね。この辺の土地も勝手に俺らが住み着いてるだけだから。海からの許可とかないしね。ハッハーハハハ!」海の魔物はそういうとパッパラの乳首を触ってくるっと進行方向を替え、砂山みたいなところに向かっていった。

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