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書評「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」

書評「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」楠木建著

 この本をどこで見つけたのかは、忘れてしまったのだけど、ehonで注文して、1冊だけでも高いのに、数を間違って、2冊買ってしまったことが強く印象に残っている。余程読んでみたかったのだろう。
 と書いたが、思い出したが、前の日の夜に高いけど、買っちゃおと注文して、次の日にもやっぱり欲しくて、注文したことを忘れて、また注文して、2冊になったのだった。
 なぜ買ったかは覚えている。小説に「ぴょんぽん堂」という架空の企業を登場させようとして、参考になればと本を探していて、目に留まった。
 気になって、図書館でも見つけたのだが、ざっと見て、これは、買わないと、付箋がつけられないぞと思ったのと、随分読み継がれた本のようにうす汚れていた。
 文章は読みやすく、経営に詳しくない私でも、面白く読み始められた。

「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」
「成功より失敗のほうが間違いなく多い」(まえがきより)

 SFプロトタイピングにも興味があったし、私は小説を書くので、ストーリーが競争戦略にまで関係しているのだと思って、買ったのだと思う。
 まっ、どこで見つけたのかはここまで書き進めても思い出せない。

「流れと動きを持った「ストーリー」(narrative story)として戦略を捉える視点にこだわって、競争戦略と競争優位の本質をじっくり考えてみようというのがこの本の主題です」
(ℓ1)

 ストーリーを考えることについては、得意だと思ってるので、ほぅほぅと読み始めた。
 宣伝の帯に、経営学の古典と書いてあったので、専門用語だとわからないかと思ったけど、その辺は、図書館で確認済みである。私でも読める。
 ブランディングなどの本は、小説家になるためにどうブランディングするかなどを図書館で調べていた時期もあり、読んだことがあるが。
 それより読み進めていくとわかりやすそうだった。
 
「映画や演劇でいえば、登場する役者には大スターはいないけれども、それを組み合わせて動かす筋書きの面白さで勝負し、気づいたらロングランで成功を持続しているというのがストーリーの戦略論のめざす姿です。」(ℓ55)

 なるほどと思った。奇抜なアイデアは、一時期は、成功をもたらすが、持続力がない場合があると。
 ほんとは、経営学として読まないといけないのかもしれないが、私は、小説のネタになりそうなところやどういう小説を書いていこうかなどちょっと邪な視点から読み進めていく。

「面白いと思えることであれば、自然体で向き合えますし、取組みも長続きします」(ℓ65)

 その通りだと思った。私が小説を書くことが面白いと思わなかったら、続けてこられなかっただろう。

「戦略ストーリーは文字どおり「お話」です。お話を聞いたり、読んだり、話したり、つくったりすることの面白さは、人間にとって本源的なものです」(ℓ65)

 人の話には確かに魅力的な話がある。確かに面白く思ってもらえるものがあれば、本は売れるかもしれない。

「どんなにきちんと目標を定め、隊列を整え、環境を分析し、気合を入れたところで、競合他社との違いがなければ、すぐに競争の荒波に吞み込まれてしまいます」(ℓ111)

 商品でも小説でも同じだと思った。一つ面白い小説が売れたとして、同じような物語が出ても、その時には、もうそのアイデアは、古くなっているのだから必要とされない。

 「「誰に嫌われるか」をはっきりさせる。これがコンセプトの構想にとって大切なこと」(ℓ274)

 確かに万人受けしようとすると、コンセプトがぶれぶれになってしまうのはわかる。それに好かれようとしても、嫌われてしまうことがあるのが常だから。

「コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない」(ℓ279)
「人間の本性とは、要するに、人はなぜ喜び、楽しみ、面白がり、嫌がり、悲しみ、怒るのか、何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないのか、ということです」(ℓ279)

 人間の本当のところを描かない物語は、きっと人に求められないのと一緒かなと思った。コンセプト。それが、大切なようで、中身が一層重要なのだと。

「顧客の声をいくら聞いても、人間の本性を捉えたコンセプトにはなりません」(ℓ289)

 結局、顧客が求めるものにいくら合わせようとしても、みんなが満足するものを作るのは、無理だということなのかなと思った。

「要するにコンセプトは、自分の頭でじっくり考えるしかないのです」(ℓ291)
 
そりゃそうだ。当たり前だけど、誰かが面白いと思ったことをそのまま導入したからと言って、面白いものになるわけないのだ。

「登場人物の動きが見える。登場人物が自然と動きだすようなコンセプトから語り起こす。これが戦略ストーリーの必須条件です」(ℓ433)

 これは、小説のストーリーを書くときにもとても大事なことだと思う。小説を書くときにある程度プロットを作るときに、自然とこのキャラクターならこういう発言をするだろうとか。ずんずんと書き進められるキャラクターが出てくることがある。そうすると、誰を想定しているわけではないが、結果的に人にも面白いと思ってもらえていることもある。そういうことが経営のコンセプトでもあるのだなと。

「一番手っ取り早くわかる優れたストーリーの条件は、そのストーリーを話している人自身が「面白がってる」ということです。自分が面白がっているからといって必ずしも成功するとは限りませんが、このことは優れたストーリーの必要条件として最重要なものの一つであることは間違いありません」(ℓ488)

 小説を書く時間も少し落ち着いて、時間ができたので、書評を書こうと思って、本棚からどの本の書評書こうかなと探していたら、ででーんと鎮座するこの本を手に取り、そうだ、2倍のお金がかかってるから、少しは、役に立ってもらおうとこの本を選んだ。(勝手に間違って2冊買っただけ)

 経営について詳しくはないけど、2つの経営について言いたいことがこの本を読んで思い浮かんだ。
 コロナになったときの携帯会社からの何回もかかってきたセールスの電話と、日々、今も送られてくる企業からの宣伝メールについてである。
 コロナになったときに、セールスの電話がいろんな番号からひっきりなしにかかってきた。いきなりリモートになったであろう人が仕事しようと思って、少しでも売り上げを上司に上げろとか言われてかけてくるのだろうと。気の毒にもなるが、こっちとしては、ほんとに迷惑だったなと。あれも、経営だよなと。
 それに、日々、必要のない宣伝メール。これは一つ書けば、自動送信で送られるのだろうけども、あれで、商品を買う気持ちになるのかなと思った。
 この2つは完全に文句だけども。

 あともう一つ全体を読んでの感想は、例えば、昼にパスタを食べる習慣のない人に、パスタは、昼売れないと考えるより、その向こう側を考えることが必要だと言ってるように思えた。さらには、甘いものは食べない。そんな人の向こう側にアプローチせよと言ってるように私には読めた。
 そう考えると、本が売れない。その向こう側もあるのかなと。
 
 この本を読んでいたら、経営って楽しそうだなと思うけど、実在するひとたちは、こんなにうまいこと発想して、アイデア出して、面白がって仕事している人がどれだけいるのかなと思ったのでした。
 
 でも、この本は、読みものとして面白かったのでよしとしよう。
同じ著者の本で「室内生活 スローで過剰な読書論」(楠木建著)もおもしろかったことを付け加えておきます。

(おしまい)

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