「奇特な病院2」私が悪いんです科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第35外来:私が悪いんです科(患者 持田つとむ)
私が悪いなんて思いたくなかった。
もし私が責任を認めれば、すべて崩れ去ってしまう、と恐れていた。
大人になると、みんな本当に言いたいことは我慢して、その場をやり過ごすものだ。
だから、同僚から、
「持田が、あのとき」
と言い出したときに私は、
「お前もそう指示しただろ?裏切る気か?」
と威圧的に言うと、
「そうだよな。俺も同罪だよな」
と同僚は力なく笑い言った。
それから数か月後、その同僚は、会社を辞めた。
俺は後味の悪さを感じた。それでも、同僚のことは必死に忘れようとした。
俺は、冷血になりきれなかったんだ。
次第に、身体に不調が出るようになった。
きっと真実を隠したのが原因だと思ったが、認めたくなかった。
強がりながら、どこかで本当は私が悪いのだという思いを消しきれなかったのだと思う。
新聞の広告を見ていると、「私が悪いんです科」という文字が私の目に飛び込んできた。
ためらうこともなく、予約をしていた。
待合室では、落ち着かなかった。
私は、ここに何を求めてやってきたのだろうか。
罪の告白をして、今更、同僚が会社を辞めたことも、私の心に残るわだかまりも消えるとでも思ったのか。
診察室に入ると、先生は言った。
「苦しい思いをされているのですか?」
その一言で、私は、こぶしを握りながら、泣いていた。
「私は、後悔しています」
「それはもうやり直しができないことなのですか?」
「はい」
先生は、事情を詳しく聞こうとはしなかった。
私が話そうとしなかったからだ。
先生は、優しい声で言った。
「どうすれば、心が軽くなるか考えましたか?」
「私が悪いのだという思いを隠すことにばかり心を砕いてきました」
「そうですね。自分を許すこともきっと生きていく上で、大切なことなのかもしれません」
私の涙はなかなか乾かなかった。
先生はそんな私を見て、深くうなずいて、最後に言った。
「お大事に」
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