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「奇特な病院」私が悪いんです科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第35外来:私が悪いんです科(担当医 森本隆之)

 その患者さんは、開口一番に言った。
「すべて私が悪いんです」
「どうされましたか?」
 私は、訳が分からずに聞いた。
「いいんです。すべて私が悪いんです」
 そう患者さんは繰り返す。
 他人のせいにする人が多い中で、珍しいタイプのように感じた。
 患者さんは、自分を責めすぎている。
 よくよくお話を聞いていくと、患者さんは、自分だけが責任をかぶれば、丸く収まると思っておられるようだった。
「苦しくはありませんか?」
 私は聞いた。
「誰かに責任転嫁するより、わたしが責任を取った方が丸くおさまるのです」
「ですが」
「いいんです、ここで話しただけですっきりしました」
 全部誰かのせいにするというのも、困るけれども、すべて自分のせいだと思い込むこともないと思う。
「すべて私が悪いんです」
 その言葉に逃げずに、少しは自分の心を守るために、戦って欲しいと思う。
 諦めより、希望を。
 原因究明はそこからだ。
 さきほどの患者さんは、自分が至らなかったことを延々と話されて、涙を流しながら。それでも私が悪いんですと繰り返した。
 もういいですよ。
 あなたは、運が悪かっただけ、それだけです。
 責任の所在だけでは片づけられない問題の膿は、どこにあるのか。あなたの上司の高圧的態度なのか、本当にあなたが、仕事のできない人なのか。
 その職場にいない限りすべてを把握することは難しい。
 でも、私は思う。
「あなたがほんとうに悪いんですか?甘いトマトが選べないのも、トイレのふたを閉め忘れるのも、ほんとうにあなた悪いんですか?」
 小さなことは忘れていきましょう。
 そんなに気にすることじゃないですよね?
 それってあなたが悪いんですか?
 そう問い続けましょう。すべてを背負う必要はありません。

 お大事に。

(第36外来は、きっとうまくいくよ科です)

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