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「奇特な病院2」希望を探して科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第37外来:希望を探して科(患者 柚木いつき)

 ずとんと沈んで、立ち上がれない。
 どう自分で気分を転換しようと、今までの方法を試しても、ちっとも気持ちが上がらない。
 どうしてかな~と、考えようとしても、考えを深めることさえ身体が拒んでいるように頭痛が続く。
 心も体も不調だから、良い方向へと考えが進んでいかない。
 「希望を探して科」の湯本先生は言った。
「希望はきっと見つかります。焦らずに、今は、ゆっくりと睡眠を取りましょう」
 初めて睡眠薬をもらった。
 それでも心に何かがひっかかり、よく眠れなかった。
 ああ、もうこのまま気分が良くなることもなく、死んでいくんだなと希望より絶望に向く気持ちが強くなる。
 それでも私は、まだ諦めたくなくて再び湯本先生を訪ねた。
「どうですか?少しは落ち着きましたか?」
「良くなりません。良くなっている気配さえありません」
「私に何を求めていらっしゃいましたか?」
「えっ?」
「どういう気持ちで私のところにまたいらっしゃったのか。そのお気持ちをお聞きしたいのです」
「そうですね。なんとか良くなりたいですかね」
「私に助けを求めに来たというわけですか?」
「そうかもしれません」
「私には、柚木さんの気持ちを上げることはできません。また睡眠薬を処方するぐらいのものです。しかし、柚木さんは、なんとか沈む気持ちと格闘しておられる。それが全てです」
「というと?」
「希望探しを手伝うことも、気分を上げるのも、他人には期待しない方がいいということです」
「先生、ここは、希望を探して科ですよね?」
「そうですよ。でも絶望がないとは言ってないです」
「そんな」
「結局、どんな科でも、自分が問題を解決しようとする気持ち以上に、薬になるものはありません」
「そうなのかもしれません」
「今の柚木さんにはわからないだろうけど、あのとき、希望を探して、受診までして、自分を良くしようとしたことが、自信になるように生きて欲しいです」
 先生は、私に睡眠薬と自覚をくれて言った。

「お大事に」

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