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「奇特な病院」希望を探して科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第37外来:希望を探して科(担当医 湯本孝弘)

 もう生きていくこととは、絶望しかないんじゃないかと、打ちひしがれてしまう誰でも一回ぐらいあるどうしようもない夜に。
 そうだ、自分だけでは、希望が見つからないのならば、他人とともに探せばいいんだ。なんだ、簡単じゃないかと理解した夜のこと。
 これから起きることは、すべて絶望しかないと仮定し、悪いことが起こっても通常運行とあたふたしたり、驚いたりもしなければ、期待もしない。やがてやってくるささいな希望に気づき、胸が震える。ひとりは、気楽だけど、自分の過ちに出会ったときのリカバリーのとき、自分しか頼る人がいない。誰も私を必要としない孤独しか運んでこない。あまりにそれでは寂しい。他人に期待はしてないけど、持ちつ持たれつ、人との関わり合いの中で生きていく。
 本当に困っているときに、プレゼントみたいな優しい言葉をかけてもらえるのも、救われるような言葉をかけてもらえるのも、他人を普段から大切にしているからに違いない。
 患者さんは言う。
「先生、生きていていいことなんかあるんですかね」
「もちろんありますとも」
「私に誰も興味はないのですよ」
「連絡が来なくても、今日、話し相手がいなくても、大丈夫です。人と生きることを諦めないことです」
「人間関係ってめんどくさいじゃないですか」
「それでも人間関係は、必要不可欠だと思うのです。たまにやってくる。救われる瞬間があるんですよ。人と生きることを諦めずに。絶望の渦中にいるときは、見えなくとも」
「そんなものですかね」
「そういうものなんです。普段希望は見えにくいかもしれません。それでもあきらめてしまったら、八方ふさがりになるだけです」
「ここは、希望を探して科ですよね?」
「そうですよ」
「どこに希望がありますか?」
「私がお話させていただいている話の中に、希望を見つかりませんか?」
「処方はそれだけですか?」
「そうです。希望とは、自分だけではなく、他人の中に見つけることもできるのです。そのことを、きっとみんな忘れてしまっているのです。現実のつらさばかりに目を取られて。私と共にみつけていきましょう。また希望が見つけられないときは、一緒に悩みましょう。それをここでは希望とここでは呼びます。あなたと私が出会った。それだけで希望とまず呼びませんか?」
「そんなもんですか?」
 一回ぐらい話しただけで、解決するとはこちらも思っていない。一縷の望みは、あなたの中にも、周りにも探せば溢れている。
 勝手に自分を悲劇のヒロインにしてしまわないことだ。
 そこには希望も救いもない。

 お大事に。

(第38外来は、思い込みの壁科です)

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