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「奇特な病院2」仲直り科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第41外来:仲直り科(患者 類沢さえこ)

 相手との距離が近くなって、でも、その間に、別々の言葉を詰め込むから、けんかってするんじゃないかと思う。
 例えば、相手が何も言わないとき、きっと私をけなす言葉を言ってるんだわと思うのと、私に対する優しい言葉を言いたいのだと思うことでは、全く違う。
 私は、誰かとけんかしたいとは思わない。
 基本的に平和主義で、なんか平和っていいなと思う。できるだけ穏やかに暮らしたい。
 だけど、なぜか私の言ってることをわざわざ悪い方に取って、一人で怒ってるような人にときどき出会う。なんか笑って過ごした方がずっと楽しいのにと思ってるのは、全然伝わらない。優しい思いでつながれた方がずっと素敵な人生なのに。
 だって生きているのは、楽しいのがいいと。
 わざわざ私が、
「生きてるのは楽しいのがいいです」
 と全世界に宣言しないと、他人とはやっていけないのだろうか。
 なんで生きてるのに、おもしろい、楽しい以外の価値を大事にする人の気持ちがわからない。
 わからなさすぎて、私が何を変えたいのかもよくわからない。
 そんなことを考えてる私だけど、新聞で、仲直り科というものがあると聞いて、興味を持った。世の中には、全世界を友達にしようと考えてる人がいるのかと思った。
 ほんとに興味を持ったから、受診したとしか言えない。
 待合室は、なぜか落ち込んだような表情をした人が多かった。
「誰かとけんかしたのかしら」
 と思いながら、私は、その人の下を向く様子を観察していた。
「類沢さん」
 と呼ばれて、診察室に入ると、先生は言った。
「誰と仲直りしたいんですか?」
「そうじゃないんです」
「ん?どういうことかしら?」
「この科を受診すると、全員仲直りができるのですか?」
「それは無理です」
「無理って」
「だってそれぞれに考えがありますもの。すべてうまくいくなんて幻想じゃないですか?」
「でも、仲直り科って」
「だから、時間が解決しますよって皆さんにはお伝えしてます」
「私、先生と仲良くなれそうです」
「そうですか」
 先生は忙しいのに、私と仲直りについて語り合ってくれた。志を同じにする人とは、とてもいい時間を過ごせるものだ。
 私は途中から病院に来たということを忘れた。それぐらい先生と話しているのが楽しかった。
 先生は最後に言った。

「お大事に」

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