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「奇特な病院」仲直り科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第41外来:仲直り科(担当医 瑠璃川まゆみ)

 ふとしたことで、けんかして、もう会うこともないんだろうと。
 子供のときには、けんかしたら、ものすごく心を痛めて、この世がすべて終わったかのような悲劇の自己陶酔に浸ったものだ。
 大人になると、というより、今の私は、なんか人との縁は、つながるときはつながらないときはつながらないという基本スタンスなので。
 だってずっと私を故意に痛めつけるような人と大事な時間を過ごす義理はないから。
 それでも、縁のある人というのはいて、つながりたい人とは、少ないけど、ちゃんとつながってる気がするから。
 まっ、そんなスタンスの私がやってる科だから、そんなに役に立てるとも思ってない。
 一言足りなかっただけで、けんかして、それっきりなら、きっとそれまでの人だったんだろうって。かなり冷たい私が思う。
 それでも、もう一つ気づいていることがあっていて、仲直りできずに不幸だなと思うのは、自分がつらいとき、相手がつらいとき、同時につらいとは限らなくて相手の思いに気づけなくて起きたけんかだ。そんなときに思わず言ってしまった一言で、関係がこじれてしまった場合は、ちょっと残念だなと思う。
 私が子供だったら、そんなとき、やっぱりこの世は終わったと思うんだろうけど、今の大人の私が考えるのは、死ぬまでに仲直りできたらいいかなって。
 今は、生きることの方が、大事だから。天寿を全うして、生き切るために、生きたいから。
 誰かとの関係を思い悩み、仲直りできないからと心を痛めている時間がもったいない。
 じゃ、仲直り科で何ができるのか。
「仲直りする方法はありますかか?」
 とよく聞かれるけど、冷たい私は、
「私にはわかりません」
 と答える。患者さんは唖然としている。仲直り科に来たのに。
 そして、私は続けて言う。
「今すぐ仲直りしたいですか?」
 患者さんは、答えに困る。
「少し時間を置きましょうか」
 患者さんは納得しない。
「時間が解決することもありますから。それにけんかした相手も、私たちも確実に老いていくのです。何でけんかしたのか忘れますから」
 患者さんが若い人の場合、意味はわからないようだ。
「少し待ちましょうか。時間が経つのを。下手に動くと余計にこじれますから」
 私は、一通り話を聞いて、にっこりと微笑みながら、患者さんを見る。
 冷静になることも必要ですから。

 お大事に。

(第42外来は、うそつき科です)

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