マガジンのカバー画像

単発短編小説

5
一話完結の短編小説置き場。
運営しているクリエイター

#短編小説

【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

「明日死ぬって言ったらどうする?」  その日、私は友人である英生と中華料理屋に来ていた。  目的はひとつ、激辛料理である。  私たちは、定期的に激辛料理を食べる。  それはストレス発散の為であり、互いの近況報告の為でもある。忙しい社会人にとっては、なくてはならない大切な時間だ。  どうして毎回激辛料理かと訊かれれば、答えは単純明快。素面で話すには恥ずかしいけれど、お酒を入れるほどでもない話題に、美味い辛いとひいひい言いながら食べる激辛料理は、思う以上に最適なのだ。  今日も、

【短編小説】世界終焉の、一週間後。

 一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。  二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。  一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。  そうして、世界は滅んだ。  そのはずだった。 「なんで生きてっかなあ」 「そりゃあ、死んでないからっしょ」  世界終焉の、一週間後。  滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。  ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……それから、なんだったか。とにかく天変地異が起き続け、それによって滅んだのだ。  こ

【短編小説】美しい嘘

(1)――「殺せるものなら、殺してみろ。ただし、美しくな」  暗闇の森。  この辺りの人間がそう呼び畏れ近寄らない森で、少年が一人、ぽつねんと輝いていた。  輝いていた、という言葉に間違いはない。  老人のように白い髪、陶器のように白い肌、血の色をした瞳。  そんな姿で、陽の光が差さない森の中に居れば、輝いていると表現したくもなるものだ。  魔女は、そんなことを考えながら嘆息し、同時に心を弾ませる。  軽い散歩のつもりで歩いてきたが、思いがけず美しい光景に出会ったものだ―

【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

(1)――今日は、というか、今日も、だ。  酷く嫌な夢をみた気がして、私は目を覚ました。  心臓はまだ早鐘を打っていて息が上がっているし、十月の朝とは思えないほど滝のような汗をかいている。  それなのに、夢の内容は微塵にも覚えていなかった。  怖かった。  その感情だけが色濃く残っていて、余計に後味が悪い。 「ひさぎー? いい加減に起きないと遅刻するよー?」  階下から、私を呼ぶ母の声がした。  この呼びかけで起きなければ、部屋に母が突入してくる。別に、部屋に見られて困る

【短編小説】末継将希について

幼馴染・今野悠汰の証言 「お久しぶりです。前に会ったのは、俺らが小六のときでしたっけ。ほら、あの頃は俺と将希が同じゲームにハマってて、よくお家にお邪魔させてもらってたんスよね。五回に一回くらいの頻度で将希のお母さんが作ってくれたクッキーが美味しかったの、よく覚えてます。懐かしいなあ。  ……この度は、御愁傷様です。今日は、将希の話を聞きたいってことでしたけど、具体的にはどんな話を聞きたい感じですか? ……将希の最近の様子、ですか。  そうですね……俺から見た将希は、ずっとい