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ドリル『たのしいびーえる』掌編

感染症の影響でイベントの開催がどうなるかまだわかりませんが、冊子はできるだけ予定通りに刊行したいと思っています。

下記の掌編は、表3(裏表紙の裏)に掲載予定のものの別バージョンであり、元々私が書いていた話です。
冊子では、一部をカッコ抜きにして、知人に解いてもらっています。
微妙なニュアンスの違いで話の印象が全然違うので、楽しんでいただけたらと思います。
ヘッダーの画像とともにご覧ください。


「たのしい人生」

「はい、じゃあこのプリント後ろに配って」
 この言葉に緊張しなくてすむようになるまで、2週間かかった。もう、次の席替えの方が近い。

「春、今日時間ある? 俺んち来ない?」
 利人が堂々と囁く。だが、春もすでに慣れたもので、
「行けるよ。珍しいね」
と、めったにない利人の家への誘いを快諾した。

 実は、と切り出された話に春は不安を抱いた。
「俺、転校するんだ」
「えっ」

「2月にお前の前の席になれて、すごく嬉しかったよ。俺ずっとドキドキしてた」
「ずっと一緒だと思ってたんだけどな」
「最後の日は会いに来てくれよ」
「春……ずっと好きだ」

「なんでもっと早く知らせてくれなかった?」
 絞るような声で言うと、
「言えなかった……」
水音とともに利人がこぼした。

 それから、お互いしばらく無言だった。

 時計の音だけが響き、利人が明るい作り笑いで言った。
「楽しい学校生活だったよ」
「利人の人生、これからも楽しいに決まってる」



#ボーイズラブ  #創作 #BL小説 #同人誌

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