「原発再稼働責任法案」改訂について

【※2020年7月10日にFacebookノートに投稿した内容を再掲】


 日本維新の会の足立康史代議士が「「原発再稼働責任法案」の改訂に向けて」と題する文書(※1)(以下,改定案)をツイッターで投稿されていた(※2)ので,この内容について,私見(気づき事項)を述べたいと思う。なお,法律の知識(体系,規制詳細など)について長けてるわけではないので,的外れな記載があれば無視頂ければと思う。
また,223枚に及ぶ文書のため,取り急ぎ総論的な視点で述べることとする。
日本維新の会,更に進んだ先の場での検討にあたり参考にして頂ければ幸いである。

  ※1:「原発再稼働責任法案」の改訂に向けて(2020年6月17日衆議院
     議員足立康史)
   https://drive.google.com/file/d/1u-wtwjiQmo3AimdBzG6AnADy8OSADbJc/edit
  ※2:2020/7/9 足立康史 @adachiyasushiツイッター
   https://twitter.com/adachiyasushi/status/1281181021065510915

(1)国の賠償責任について
 改定案では国の責任の明確化と強化を図る方向となっているが,東電福島第一原発事故(以下,福一原発事故)前であっても原発事故の責任は一義的に事業者(電力会社)にある。これは,自動車事故の責任に替えて考えれば,事故の責任は一義的に運転者にあるのと同じである。すなわち,原発であれ自動車であれ,運転について,
  ・運転者が「希望」するなら
  ・運転者の「意思」で行政に申請し
  ・運転者は「適性」の認可(免許交付)を受ける
ので,その事故の責任は,その「意思」をもつ運転者にあるのであって,「適性」を認可(免許交付)した行政にはない。
しかし,原発運用については国のエネルギー政策に強く関わるものであり,電力会社の株主から強い撤退要請があったとしても,国の政策に協力せざるを得ないのが電力会社の実情であろうし,発電・供給設備は国力・国民生活必須のインフラ設備でもあるので,それらの点を鑑みて,国が責任を一定程度シェアし,それが損害賠償の上限設定という考えに繋がっているのであれば改定案に理解を示すことができる。
 ただ,弊方ツイッターでも記載した通り(※3),福一原発事故後の安全審査思想(新規制基準)に「立地審査指針不適用」という大転換があり,これは,端的に言えば,深層防護レベル4に相当する重大事故対策によりそれを超える事故(仮想事故)は起きない,また,その対策により抑制された結果としての敷地境界での被ばくは受忍されるという理解に至るものである。従って,福一原発事故の起因(津波)について「想定外」=「免責」の該否が曖昧のままとなっている現在のような状況は,新規制基準の下では起こり得ないということとなり,万が一にも重大事故が起きたとすれば,それは安全審査における電力会社の「申請瑕疵」(事故の原因網羅性検討不足や重大事故対策不備)ということになる。この場合においてもなお,電力会社の損害賠償上限を超える額を国が負うべきかどうかは,原資が税金であることも踏まえ,国民の理解獲得の視点からも慎重に検討すべきであり,例えば,国が負う前に原発を保有しない沖電を除く全電力会社に分担負担させることも一考すべきかも知れない。
 なお,深層防護レベル4以下の事故,例えば,設計基準事故を超える事故であって,重大事故対策により重大事故にまでは至らなかった事故が発生した場合,新規制基準に基づく安全審査過程では「想定内」の事故になるとはいえ,サイト周辺地域に一定程度の事故影響を与えることは必至である。この場合の影響補償について
 ・運転を認可した国
 ・立地・稼働に同意した自治体
 ・事故を起こした電力会社
のいずれかが,あるいは,三者がシェアして対応に当たるのかを法規制の下で定めておくべきと考える。

  ※3:2020/7/2 弊方ツイッター 
   https://twitter.com/papasan_at_home/status/1278509180719001601

(2)立地自治体の稼働同意・防災責任について
 原発事故の防災は,自然災害の防災と同様に地域特性を鑑みて,地域の住民を守る立地自治体がその責任を負うものである。従って,立地自治体は,その責の自覚なくして原発立地・稼働に同意してはいけない立場にあり,故に,事故が起きる前提で自然災害との重畳を含めた想定外なしの網羅的な防災計画を,緊急時区域(PAZ,EPZ,UPZ)などの必要な情報・運用方針を国,電力会社,周辺自治体と連携・共有の上,策定・検証・周知しなければならない。福一原発事故で機能不全・混乱を極めたのがこの防災対応だったので,その教訓を踏まえて,改定案には明示されていないが,立地自治体が原発の立地・稼働に同意する場合には一義的にその防災責任を負うということを明確に立法化すべきである。現下でも,立地自治体は,十分な防災計画・整備・実効性検証を行わないまま再稼働を受け入れているのが実態であり,これは必ず法規制の下で正さなければならない。
なお,原発事故時の「電力会社の賠償責任」と「立地自治体の防災責任」の棲み分けについては,
  ・生命・生活・財産保護
  ・地域計画・避難確保
などの視点で,法整備の中で条件整理が必要であろう。

(3)国の運転許可について
 上記で述べたように,原発については,
  ・安全責任:事業者(電力会社)
  ・防災責任:立地自治体
であり,改定案においても国の責任は賠償補償責任のみである。これらの三つの責任分担の下で,国の運転許可の立ち位置を今一度明確にする必要がある。
 改定案では,
  ①自治体で防災計画が策定されていること
  ②設置者に運転する意思と能力があること
  ③運転に当たり安全,防災,避難に支障がないこと
を国の許可基準としているが,②と③の安全は原子力規制委員会での審査事項,③の防災と避難は①の事前検討事項であり,これでは国が認可することで帰結させたいゴールが何なのかよくわからない。ここは,電力会社,立地自治体,国の責任分担を鑑みれば,国が賠償補償責任を負うに当たっての許可基準は,「内容審査」ではなく,
  <安全責任の確認>
   設置者は安全審査に合格していること
  <防災責任の確認>
   自治体は防災計画を策定していること(← 上記に同じ)
の「形式(確認)審査」だけでいいはずである。
なお,防災計画については,国,電力会社,周辺自治体と連携・共有の上で立地自治体がその責を負って最終的に策定すべきであるが,この過程で国の意向を反映させる積極的な助言(提言)・議論を行うことは,国が上記形式審査・許可をする責任上の事前対応として非常に重要な任務である。
 また,福一原発事故の教訓として,「技術的な失敗事例」(設計ミス,運転ミスなど)を解明し対策反映することに重きが置かれているが,実はその一方で,同じ炉型(BWR)の原電東海第二原発や東北電女川原発のように事故を起こさなかった「設備運営的な成功事例」もある訳で,この成功事例の解明・運営反映もそれ以上に重きを置かれるべきである。従って,技術面について安全設計レビューという法規制の仕組みがあるように,設備運営面についても国として法規制の下で定期レビューし,許可更新制のような仕組みを一考すべきと考える。

(4)原発関連設備について
 改定案では「土地収用」のキーワードが見られ,これは高レベル放射性廃棄物(高レベルガラス固化体)の最終処分地(深地層処分地)候補の選定・決定が遅々として進んでいない現状を踏まえて記載されているものと考えるが,この点について述べる。
 再処理工場から生成される高レベル放射性廃棄物は地上で一定期間中間貯蔵された後に,最終的には深地層処分される計画となっている。しかし,その最終処分地の候補が未だ決定していないのは上記の通りである。実は,再処理工場からの高レベル放射性廃棄物のみならず,原発を含めた原子力施設からの放射性廃棄物は,低レベル放射性廃棄物を除く全てにおいて最終処分地は未定である。原発の廃炉に伴う放射性廃棄物の多くは「放射化」廃棄物であり,放射線量は高いが地中での放射性核種の挙動や科学的不安定性はあまり問題とならず,地層処分するにしても必ずしも深地である必要はない。一方,再処理工場からの運転並びにその後の廃止措置,また,福一原発廃炉に伴う放射性廃棄物の多くは「放射能汚染」廃棄物であり,放射線量は低いものの地中での放射性核種の挙動や化学的不安定性に対する対策が必須であり,故に,高レベル放射性廃棄物同様に,多くは深地層処分が最終的に必要となる。
これらの状況を考えると,現状ですら1ケ所も最終処分地を候補選定できておらず,複数選定・建設は現実的でないのは自明であるから,深地層処分地としては,地勢学的(地質,地水など)に適合することだけでなく,高レベル放射性廃棄物を含めた全ての深地層処分対象廃棄物を「集中的に収容」する施設を建設できるところを選定することが肝要である。即ち,最終処分地としての適地候補の検討・選定に当たっては,この「深地層処分集中施設」の可否の視点が最重要課題であり,改定案にある土地収用というステップはこの課題解決なくしてあり得ないと考える。
 ちなみに,福一原発事故の影響を今なお残す現況を踏まえると,今後の原発新設が非常に厳しく,実質見込めないと弊方は考えており,この視点に基づく放射性廃棄物の処分については,
  ①原発廃炉廃棄物
    各原発廃炉後の空き地で地上保管あるいは浅地層処分
  ②再処理工場(含む廃止措置),福一原発廃炉等からの深地層処分対象
   廃棄物
    東海再処理工場廃止措置後の空き地,福一原発サイトで半永久的地
    上保管
が現実的な選択肢になるのではないかと考えている。これは,深地層処分は埋設後の「御守」(運営)が数万年に亘り不要との利点がある一方で,上記の「深地層処分集中施設」の建設候補地はなかなか決定できずに時が過ぎていくのが現実的であろうとの弊方の勝手な推察に基づいており,この場合であれば,もともと原子力施設用地であることから,国・事業者・立地自治体での処分場としての事業継続(地域経済継続)の協議を持って,改定案にある土地収用の必要性は小さいかもしれない。
 なお,原発と違い,再処理工場等は,安全審査後の行政手続きは「工事認可(工認)」ではなく「『設計』・工事認可(設工認)」であるので,改定案ではその記載を見直す必要がある。


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