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火曜日の女神。ヤクルトレディー

春になると変な人が増えるって、ここ一か月のうちに何度か聞いて、あれってなんでなんだろう。
根拠はあるのかしらん。
気温があったかくなってきて、桜も咲くし、植物も動物も活発になり始めて、ぼーっと、うっとりするのかな。
っていうか、「変な人」ってどんな人のことを言うんでしょう?
変な発言、変な行動、変な服装、変なメイク……。
いろいろ考えを巡らせていたら、もしかすると自分も誰かから見たら変な人なんじゃないかとか思えてきて、めんどくさくて考えるのやめました。

変かどうかは分からないけれど、自分の心が乱れているかどうかの指標は、あります。

それは、『火曜日』です。

火曜日の彼女


年末くらいから、週に一度、うちにヤクルトレディーがやって来ます。
なんとなく眠りが浅い気がして、人の気配や空調の音でも目が冷めちゃうし、トイレに起きようものならそのまま朝まで眠れない日が続き、
日中運動してみたり、カフェインを減らしたり、寝る直前にお風呂に入るのをやめたり。
思いつく限りの工夫を凝らしてみても効果なし。
夜は眠れないのに、昼間はずーっと眠たい。
どうにかならんものかと悩んでいたとき、
「ヤクルト1000、いいよ」
と教えてくれた友人のアドバイスに従い、定期購入の契約をしました。

それ以来、一日に一本、必ず飲むようにしています。
睡眠の質向上に効いているのかどうか、あまり分かりませんが、最近は比較的よく眠れます。
もしかしたら効いてるのかも知れないし、シンプルに美味しいし。
だから、まぁ、契約したことは良かったなと思います。

しかし今となっては商品より、持ってきてくれるヤクルトレディーに惹かれちゃって、週に一度、火曜日に彼女に会えるのを楽しみにしている自分がいることに、さっき気が付きました。

上品なウザさ


洋服屋さんで物色してるときとか、私はあんま声かけないで欲しいタイプです。
過去に、百貨店でアパレル店員のバイトをした経験がありますが、自分からお客さんに話しかけたことはほとんどありませんでした。
とにかくすぐに誰にでも声をかけろ、とスタッフに教育する店舗も多くありますが。
当たり前だけど、お客さんにもいろーんな人がいますからね。
話しかけたらウザがられるだろうなーと思った人が、実はめっちゃお喋りで気さくな人だったり、一時間近く和気あいあいと話して、結局一着も買わずに帰ったり。
店員の立場からすれば、人と話すのは好きだから楽しかったです。

でね、
ヤクルトレディーね。
もうさ、テンションがいつもやばいんです。毎週林屋パー子。
二十年ぶりに再会した、生き別れた親族ばりのテンションで
「おはよございますぅぅうう~!!」(裏声)
みたいな。
「今日はまだパジャマなんですかぁあああ!!」
(うっせ)
みたいな。
いやいや、嫌いじゃないですよ。
むしろ最近は、好きになっちゃいました。

正直、最初はね……?
ウザい明るさというか、こっちがしんどくなる空元気に、うんざりげんなりもしてました。
そんな頑張らなくても契約切らないから。落ち着いてよ。
と、「ありがとうございます」と極力笑顔を心がけながら受け取っていました。
朝、低血圧の私にとって彼女は、猛威でしかありませんでした。

目が笑ってないんかな


あの笑顔は、結局プロなんよな。

「私だって商品開発者でも幹部の人間でもない持ってきてるだけやのにゴリ推ししてあたかもヤクルト大好き人間であるかのように振舞うんしんどいんじゃボケェ」

って言わせたい私はきっと、腹黒い。
ほんまはそう思ってるんやろ、って思ってしまう自分が嫌んなることもあります。

客に少しでも
「ウザい」
と思わせてしまう彼女はやはり、接客が”上手”ではないとは思うのです。
が、張り付けたような笑顔とテンションに、ほっと安心することもあるんだなぁ。


無理矢理でもなんでも、やらなしゃあない。
今日も生きるって決めて起き上がった人は、「しゃあない」と腹を括らないと社会ではやってけない。
大人も、子どもも。
虚無に感じる日もあれば、もう何もかも投げ出したくなる日もあるけれど、それでもちゃんと起きて、声を出して、その日の自分を演じるだけで、ものすんごい頑張ってるんじゃないかって。

ヤクルトレディーの圧が強すぎて、なぜかちょっと悲しくなって、
一周回って、人間っていいなって思いました。
全力で己を洗脳して、笑って、上げて、笑って、頑張って……。
でもそれもなんだか違うな。
ある種の『あきらめ』みたいな潔さを感じて、私はこの女性に惹かれ始めてるのかもな。

いつか彼女と飲みに行って本音で語りたいなって、ちょっと思ってます。
何についてかって、そりゃあ、仕事の愚痴とか聞きたいですねぇ。



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