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「統一列車」で繋がる

友人や親族の結婚式で涙している人を見ると、それについて泣きそうになります。

大事な人が結婚することについては、感動はするけど泣きはしません。
私だってそりゃ、嬉し涙を流すことくらいはあります。
けれど、不特定多数の参列者の手前、
「あんた、もしかして感動泣きしようとしてる?」
と若干鼻白んだ、頭の中のもう一人の自分が水を差し、泣こうにもなかなか……。
例によって、自意識が邪魔をします。

そんな自意識や化粧崩れを気にもせず、純粋に、新郎・新婦の新たな門出に泣ける人の、真っさらなハートに心打たれます。
だって、自分が産み育てた子なわけでもなく、これまでの彼らの軌跡や苦労、紆余曲折を想像して感極まっているわけでしょう。
その涙を見るだけで、こちらまで心洗われる想いです。

統一列車


結婚式って、やっぱりいいものですね。
私自身、結婚願望を抱いたことはないけれど、先日参列した中学校の後輩の結婚式では、いつか私も式くらいは挙げてみたいな、と思いました。
結婚のシステムそのものに猜疑心を抱いている私は、きっとまだ出会えていないんだろうなと、お似合い過ぎる新生☆夫婦を見ていて感じました。

メインのお料理も出て、全ての余興が終わりそうになったとき。
どこからともなく、朝鮮の伝統打楽器の音が……。
今回の結婚式は在日同士の結婚式で、だから、参列者の数も半端じゃないんです。
大企業と大企業の合併みたいなイメージです。
本場・朝鮮半島でも痩せ細っていく超豪華な結婚式文化を、こうして日本という異国の地で守り、独自に発展させた、在日特有の文化と言えるかも知れません。
懐かしい打楽器の音と共に、色とりどりのチョゴリに身を包んだプロの音楽隊、舞踊パフォーマーたちを筆頭に、
いや、知らないおっちゃんらを筆頭に、広い会場はお祭り騒ぎ。
まさに、「どんちゃん騒ぎ」

苦い記憶


そのとき私は反射的に、
「列車が走る……」
と思いました。
遠い過去の記憶がありありと甦り、そうやそうや、在日の集まる宴会は最終的に高確率で列車が走るんや、ということを思い出しました。
正直、苦い思い出です。
思春期の私にとって、この文化は受け入れ難いものでした。
”列車”への乗車を頑なに拒否する、今にして思えば、屈折した子どもでした。

その名も「統一列車」

統一列車が走る 釜山行の列車が走る
統一列車が走る 湖南行列車は走る

七百里洛東江畔に 命の水を引き入れ
新しい鋤で力強く 湖南の野を広げよう
千里馬クレーンに トラクターも走る
疾風のように駆り立てる 統一の鉄馬

車窓にはチラチラ、チラチラ…
南の兄妹たちが 歓迎している

『統一列車は走る』

在日朝鮮学校に通った者の中で、この曲を知らない人はまずいないでしょう。
運動会、納涼大会、バザー、焼肉大会……。
ことあるごとに、この曲に合わせて教員も父兄も、じっちゃんもばっちゃんも赤ちゃんも、近所のおばちゃんも、全員ひっくるめて大宴会。
一列に並び前の人の肩に手を置いて、なが~い列車を作ります。走ります。

皮肉な子ども


なぜか私は、この列車のことをあまり好きにはなれませんでした。
反抗期特有のアレか、いつも何かに対して腹を立てるように生きていたから、
「統一なんかするわけないがな」
と、はしゃぐ人々を横目に、物悲しい気持ちになったことを覚えています。
みんな夢を見てる。
現実は、そんなにお気楽な世界じゃない。
不透明な政治に、未だきな臭い軍事境界線。

そんな中、なぜこんなにも笑顔ではしゃげるのか。
私には理解が出来ませんでした。
ぶすっとした表情で列車を眺めた当時の私は、早く大人になりたがったのだろうなと、今ではそんな風にも思います。

誰のために走る


あれから時を経て、三十一歳になった私はまた、後輩の結婚式という祝いの場で統一列車に遭遇しました。

ちょっと、泣きそうになりました。
今まで私は一体、何を見ていたんだろう。
たぶん「統一」の意味を、はき違えていたんだろうな。
それは、どんな状況でも力強く生きよう、共に生きようという、意志を乗せていたのだと気付きました。
誰かのため。
悲しみも、喜びも、悔しさも、切なさも……
国籍も、年齢も、宗教も、性別も、関係無いんです。
あなたの全てを、引き受けて愛そう。

そんな強く柔らかい想いを乗せて、何世代も走り続けてたみたいです。

まさに、新郎新婦のこれからを応援する、大きな愛の列車に見えました。

おめでとう


あのとき、理想郷だけを思い浮かべる大人たちを見て必死に抗っていた私は、個としての自分を確立することに必死だったのだと思います。
国や人、歴史に繋げられるだけの自分ではなく、自分の足だけで立つ私自身を。

けれどやっと今、あのときの大人たちの明るさは、現実逃避ではなく愛情だったのだと知り、
人間誰も「繋がり」無く、生きてくことなんて出来へんよな、と思います。
みんな、繋がってる。
素直になるのが遅すぎたけど、ありがとう。


そして結婚、心からおめでとう。
書きながら、やっと泣けるわ。😂








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