不器用だった副担


たまに、高1の時の副担だった先生を思い出す。

元気かなぁって。



特に親しくしていたわけでもない。

どっちかといえば、苦手に感じる生徒のほうが多かったんじゃないかな。

簡単に言うと、厳しい女性の先生だった。

気が強そうで、あんまり冗談も言わないし、ものごとをはっきり言うタイプで。

笑わないわけではないけど、顔つきもこわかった。


高1の修了式の日の教室での挨拶でも、

「あなたたちが迎える一年生の最後としては果たしてどうなんでしょう」

的なことを言っていた。

最後の日に、綺麗な言葉でまとめない先生を見るのは人生で初めてだったから、

当時はなんとなく、

この先生冷たいな、こんな日にそんな言葉言わなくてもいいじゃない。

ってちょっと引いてた。



弓道部の顧問をしていたけど、

指導はもちろん厳しいと聞いていたし、

うちの高校は部活に入るのもやめるのも自由だったけど、この先生はなかなかやめさせてくれなくて、

やめるときはみんな泣きながら職員室から出てくる。

と弓道部の子から聞いたりしていたから、

やっぱり血も涙もないタイプなのかななんて思ったりしてた。


でも職員室の先生たちとは仲が良かったというか、

その先生と親しく話してる先生も珍しくはなかったし、

相手のその先生が嫌々話してるような雰囲気もなかった。

それが少し不思議ではあったのだ。





うちの高校は携帯電話を持ってくるのは禁止だった。

だからまぁ電源切ったりマナーモードにしたりしてみんな持ってきてたわけだけども。


高校3年生のある日、その先生の授業を受けている最中に私の携帯が鳴った。


あ、マナーモードにするの忘れてんじゃん。

やっば。しかもよりによってこの先生の時に…。


授業終了後、誰のが鳴ったのか問われたので仕方なく自首した。

すみません、私です。としぶしぶ白状すると、担任と生徒指導に報告しておくと言われた。

はぁ…、この後めんどくさい指導が待ってんのか。怒られるのか。最悪だよ…と落ち込んでいると、



「こんなことでへこたれるんじゃないよ」




と言い残して先生は去っていった。



驚いた。


そんな言葉をかけるような人だとは思わなかったから。



部活辞めるだけでも一苦労なのに、

校則を破った生徒なんて論外だろうと思ってたから、正直呆気に取られた。



その後、担任と生徒指導による、意味のあるのかないのかわからないお叱りの時間と反省文は書かされたが、


そんなお叱りより、あの先生の一言の方が私の頭にはこびりついたのだった。




それから月日が経って高校も卒業し、大学生になって最初の夏休み。


友人と一緒に高校の体育祭に顔を出すことにした。

後輩たちやお世話になった先生に会いにいくためだ。



私と友人は後輩たちがいる陸上部のブースに行きたかったのだが、そこはもちろん生徒たち以外は本来立ち入り禁止だ。

でもなんとか掻い潜って少しの時間でも会いに行けないかと思い、一緒に来た友人と隙間を縫って進んでいくと、



絶賛大会監督中のその先生にばったり出会した。



あ、やべ、よりにもよってこの先生に会っちゃった。
関係者は通さないよな。
一応OGだけど、そもそも覚えてるかな私たちの顔。
いや覚えてても無理だよな。


とか思っていたら、


「あらいらっしゃい、陸上部はあっちよ」


とだけ言ってくれた。



呆気に取られたが「ありがとうございます!」と友人と頭を下げて陸上部のもとへ急いだ。



一瞬友人と目を合わせたくらい、2人とも驚いた。



行かせてくれるんだ…。
ってか私も友人も高1の副担でしかなかったのに、
私たちが陸上部ってことまで覚えてたのか。


え、優しい…。


いい人やん…。




やっと気づいたよ、そんな人なんだって。




後日、弓道部を途中でやめたという同級生に聞いた。


確かに簡単にはやめさせてくれなかったが、


やめたいと顧問に言いにいった際、


どうしてやめたいのかとか、やりたいことがあるなら続けながらでもできる方法はないか考えようとか、せっかくこの部活を選んでくれた限りは最後まで一緒に考えたいとか、


説教して泣かせて終わるというよりは、

一緒に最後まで考えてくれた上で叱咤激励して終わるような感じだったらしい。




基本的には生徒に厳しいし冗談も言わない人だったけど、

生徒が質問してきたら真面目な質問でもどんなにくだらない質問でも必ず真剣に答えていたし、

負けん気の強さが滲み出ていて怖かったけど、一生懸命教諭という職業に取り組んでいたということは、今になったらわかる。





とても不器用な人だったんだと思う。




あの修了式の日も、本当は、

浮かれてばかりいないで、これからの自分の目標や夢に近づくためにも気を引き締めなさいって言いたかったんだろうし。



ただ、とにかく不器用だから、


普段からこわくて厳しくて冗談が通じないと思われてたから、

私たちも誤解したけど、



本当は、まっすぐで嘘がつけない、情の深い人だった。



当時は苦手だったし、今もたぶん目の前にしたら後ずさりしてしまいそうな気はするけど、



あの人元気かな。



ってたまに思い出す人物の一人なんだよな。





見てくれてる人もいるんだな。

って思わせてくれた先生だった。


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