プロダクトをつくるとはどういうことなのか。
青い本を発刊してから立て続けにイベントで話をしてきた。どんな話をしてきたのか少しふりかえり。
まず最初に「正しいものを正しくつくる」とはどういう本なのかの紹介。お馴染みのインセプションデッキに乗せて。カイゼン・ジャーニーのときも、リーン開発の現場のときもつくった。
日本の現場で磨いたアジャイルの言語化。どうつくるかだけではなく、何をつくるかへの踏み込み。こうした内容がまとまった形でなかなか世の中に表立ってこないので、その道筋をつくりたかった。300ページも言語化するかどうかは置いておいて、言葉にする、誰かに伝えるという行為は何よりも自分の学びになる。
次に、この本の主題の一つを扱ったお話「アジャイル開発は2度失敗する」。
実際のところ、アジャイルに向き合うことは、2度や3度の失敗どころではすまない。2003年ごろからこちらにかけて日本の現場は実際のところ敗北の歴史だったと表現しても過言ではないはずだ。
そうした苦戦のうち、自ら体験したほうが良いことと、歴史に学び先人の肩から取り組めばよいこととがある。ここで紹介している「2枚の壁」は先人の肩にありながら、なお大小様々な度合いで失敗を重ねるところである。
この話の中にある「理解と(プロダクトの)構造を合わせる」はさっそく青い本には書いていないこと。最近の関心事は「段階という概念の導入」にあり、それに適応できるプロダクト構造を模索し始めている。この点で、増田さんからの学び、意見交換はドンピシャ。
3話目は「プロダクトオーナー2.0」。本当は「プロダクトオーナーの民主化」をタイトルにしようと思っていたのだけど、言葉があまりに重いので、もう少し受け止めやすいほうで。
「プロダクトオーナーの民主化」は、青い本でも言及しているがそれほどの文字数は割いていない。この本の下に敷いている、ビジョンという扱いである。まだ実現までには距離があるため、そうしている。
そもそもは「プロダクトオーナーの民主化」などという言葉は不要なはずなのだが、「役割」はわかりやすく、曲解がいくらでもできるため、現実世界では必要になっている、というのが私の認識。
「考えるのは俺がやるから、つくるチームつれてきてくれ。」
「答えは(私が)知っている。」
「それはPOが考え、決めることですよね。」
こうした言葉を数多く耳にしてきたし、今でも珍しいことではない。一人の人間が認知し、想像し、理解し、表現することには上限がある。そうした境界の中でプロダクトづくりしていくことでの可能性よりも、自分自身では認知できない、想像できない、理解できない、表現できないことを持っている他者との相互作用の中でプロダクトの在り方を探索することの方に可能性を見出したい。
最初は、アジャイルな開発の習慣を身につけていくことで精一杯かもしれない。やがて、早く少しだけ作り続けるやり方に慣れてきたところで、POとの役割の境界線による問題に直面する。そこで、開発チームはPOの領域へと越境しはじめる。その先に、ともにつくる在り方が見えてくるはずだ。
こうした変遷をたどらせる、自身を駆動させるのが「正しいものを正しくつくれているか?」という問いかけなのである。その答え方は、時とともに変わる。