政府情報システム開発における「アジャイル・ガイド」
伝統的でかつ大きな組織で、アジャイル開発を広げていくためには? 難しいテーマで、必ずといって良いほどに直面する。様々な考え方があるが、何周か回って、私は「ガイドを作る」を推奨することにしている。
ガイドと聞いただけで眉をひそめる人もいるかもしれない。私も、ガイドなんかで表現できるものではない、かえって安易な理解に留まってしまう、と考えていた方だ。
しかし、アジャイル開発に限らず、何をするにしても最初のまとまった足場的知識が無ければ、スタートを切ることさえできないのも事実。もっというと、足場的な理解とは当事者だけ得られば良いわけでもなく、同じように組織内の他者にも一定分かってもらう必要がある。そうでなければ組織として動くことができない。
だからこそ、スクラムガイドがある。いくつかモダンなアジャイル開発の入門書もある。そう、まずもって、アジャイル開発に取り組むのであれば、スクラムガイドを読むのが前提。というか、必要なことはスクラムガイドに全部書いている、と言っても良いくらいだ。ただ、20頁に満たない内容から、現場で実践していくに必要な理解を得るためには、相応読み解く力が求められるため、他の書籍や情報にも手を出すのが現実的だということ。
その上で、それでも、こうしたアジャイル開発のガイドを作るのはなぜか?
人は文脈の中で生きている。ある業界、ある企業、ある生活。そこに届きやすい情報とそうでない情報とがある。その文脈に直接的に、いまはまだ必要のない情報は、歯牙にもかからない。たとえ、芯については同じでも、その文脈に応じたコンテンツを用意しなければ、届くことがない。
だからこそ、冒頭のとおり「ガイドを作る」ことを推奨するわけである。もちろん、政府情報システム開発の文脈だけではない。むしろ、伝統的な大企業におけるDXを進めていく上で、組織内の理解を高めるためにその必要性を痛感したわけである。
留意しておくべきことがいくつかある。
・ガイドはガイド、すべてではない。ましてや標準ではない。あくまで足場的理解の出発点。ゆえに、それ以降、足場を手がかりに組織内での対話を重ね、理解の深化、実践知の獲得とさらに共有化を進める必要がある(ことを念頭に置く)
・文脈に応じた足場的理解が必要、ただしガイドを作るのは相応コストを要する。また誤った内容でまとめてしまうと、本質と異なる根底を組織に置いてしまいかねない。もとより広げていくために作るので、文脈への適応と本質の見極めの両方伴う必要がある(ので、そうした専門家を巻き込む)
・上記を踏まえるとどの組織でもガイド作りから始められるわけではない。だからこそ「スクラムガイド」を出発点にするのが良く、文脈への適応を人手でおぎなう。
政府のシステム開発は、広大だ。様々な背景をもった関係者(職員、事業者)が集まり、異なる文化同士の中で「システム開発」という協働を前提とした活動を行うことになる。最初の共通語彙を得るための取り組みは、政府CIOポータルのご覧のとおり、これまで一歩一歩進められてきているものである。
ここにアジャイル開発のガイドを投じることが出来たことを噛み締めている。きわめて細やかな一歩ではあるが、一歩は一歩の越境なのだ。…とは、私自身が良くいうこと。補佐官任期中に踏めて良かった。
わざわざ、このガイドを取り上げるのは、政府情報システム開発の文脈ではあるものの、文脈を読み替えるとアジャイル開発が遠い伝統的な組織でも、参考になるところがあると確信しているからである。みんながみんな、ガイド作りをする必要はない。そこにあるものを。使おう。
アジャイル開発実践ガイドブック
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/Agile-kaihatsu-jissen-guide_20210330.pdf
(デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック内)
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