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[ネタバレしかない] 映画 ミッシング 感想

  • 1300円の地獄。

  • オススメだけどオススメできない。

  • 子持ちはどんな気持ちで見れるの、これ。夜眠れなくなるんじゃないのか。

  • 独身の自分ですら、弟が小さい頃にかくれんぼで見つからなくなって外まで探しに行ったときのことを思い出したほど。

  • と思ったら、主演の石原さとみが22年に第一子出産するのを待ってからの撮影開始だったらしい。鬼か。

  • 「二度と見たくないサイコーの映画リスト」に追加した。ちなみにリストには「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と「セッション」という先輩がいる。

  • これってもはやエンターテイメントではないよね。何一つエンターテインしてないもの、自分。映画って何なんですかね?

と、思わずパラパラとぶつ切りの感想を並べてしまう、傑作映画でした。

そもそもの発端は、TLで見かけた友人のオススメコメント。それを信じて、軽率に何も調べずに映画館にいきなり観に行ったら、こうなった。
なんちゅうもんを見させてくれるんや…

何も知らずに見始めて、子供が幸せそうに遊ぶ映像が、幸せそうな音楽をバックに流れるのを見て、徐々に「えっ、ミッシングってまさか、そういうこと…?」と気づいていったときがある意味ミッシング体験の最高潮だったかもしれない。ジェットコースターの一番上に到達した感じ。

この監督の撮り方なのかもしれないが、細かい表現が色々と琴線に触れた。現実感が強いというか、演技だけど演技じゃないというか。

こういうとき「リアルだ」と言うと、お前が娘を誘拐された人のリアルを知っとるんかい、保護されたという連絡がいたずら電話だったときの絶望を知ってるのかってなるので、解像度が高いと言いたい。

解像度の高さ

登場人物がどれも解像度高すぎでつらい。

まず、砂田や圭吾が特にそうだが全員ボソボソと喋り、たまによく聞こえないほど。演技として、映画としてはダメダメなはずだがなぜかこう、納得感を受ける。
カメラもやたらと揺れる。が、これは不快とか酔うほどではない。

あとは、ガラス越しに唇が動くだけで声が聞こえない。完全に無意識に愚痴を言っているシーンも良かった。

各キャラクターの職業もよい。母親がみかん農家のもぎり。父親が魚河岸勤務。母親の弟がコンクリ会社でタンクローリー運転、その後バキュームカー運転に転職。

父親「豊」

旦那が辛抱強い理解あるように見せてところどころの発言に爆弾があったりする感じ。見てるこちらとしては「それ言っちゃダメでしょーがー!」ってなるけど、解像度高くてとても良い…

というか序盤の旦那、もはやいっそ怪しいくらいだいぶ冷静に見える。

本人が言っている通り、無駄に騒いでも意味ない、冷静にならなきゃとか、どことなく嫁に任せてるような雰囲気を出しながらも、ホテルの受付にチラシを置いてもらえないか頼んだりと、しっかり動いている。えらい。

何よりヒステリックになっている嫁をサポートしながら2年後もずっとそばに居続けているのはちょっとビックリした。(2年後はもういなくなってるのではとちょっと思っていた。すまん豊。)

でも、圭吾と偶然車修理屋で会ったときに、「テレビを見て俺も圭吾君のこと怪しいって思っちゃったもん」はさすがに言い過ぎ、というかなんでそんなこと言った…?しかもその後の映画内で一番長いように思えた無言時間。なんなんだよー!見てて喉がカラカラになった。

ガセ情報のためにわざわざ遠くの街に来てホテルに泊まった際に嫁が爆発したあとに、タバコ休憩する豊の目が潤んでいるところはこちらもヤバかったし、2年後に似た感じに女児が行方不明になり、でも見つかったときに親がチラシ配りのところに応援に来てくれて、なにか手伝いますと言ってくれたあとにとうとう号泣したシーンはこちらも来た。

自分が男性だからというのがあるが、どちらかというと母親よりも父親の方に感情移入してしまう。騒いだって何にもならないだろとか、ホテルのビュッフェにいるわけないだろとか、そういう冷静さに同意はする。が、同時に絶対今それを言うべきではないだろという第三者的感想も持ってしまい、複雑。

叔父「圭吾」

この圭吾というキャラクターが、ものすごく「普通の人」だった。
髪型や服装、態度から伝わる明らかに仕事ができそうではない、対人能力も欠如している、ウソもつく。でも姪には優しいし、やらかした自分を嫌だと感じてるし、挽回したいとも思っている(でもできない)。あー、わかるよー。

圭吾がスーパーでカップ麺を買うときの優柔不断っぷり。すごい。カップヌードルにしようとしてやっぱりやめて下のやつを手に取るけどやっぱりやめて戻してカップヌードルにして… この、単に選ぶのに時間がかかる、というのではなく一旦手にとって戻す、までやるのが高解像度で良かった。

更に、以前に取材に来た砂田に「なんで住所知ってるんですか!」って聞くのもまた良い。砂田に冷静に突っ込まれて、自分でも「あっ、そっか…」となってしまう、この何も考えてなさ。良い… 良さのオンパレード。
もちろん、解像度の高さが良いだけであって、この「良さ」によって普通にこちらはガンガンダメージを食らっている。

2年後には怪しい車、そして男性と子供を見かけて、休日に独自に相手の家に調査に行き、全く問題ない家庭だった上にあっさりバレてそこらの人にボコられるという始末。
怪しかった叔父がなんと姪の発見者に!という逆転ストーリーがありえるのか?とちょっとだけ思ったが、まあ、そんなことないですよね…

そして姉を車で送る帰りにようやくこれまでの全てに対してごめんと謝る。つらい。泣いた。ここでBlankの曲が流れるのが皮肉すぎる。実在してるのかわからんけどBlankが悪いよ、もう。

以前の「怪しい車を見かけた」というウソなどがなんだったのかというと、実は圭吾が子供の頃変なオジサンに誘拐されそうになり、そのときの車が白い車で脚立を積んでた、それを姪が行方不明になったときの言い訳に使った上に、その後もそんな車を見かけると怪しいと思ってしまうという… あー、つら。

でも、なんだかんだで一番お気に入りのキャラクターは圭吾かなぁ。もしくは砂田。活躍したとかじゃなく、助演男優賞的な意味で。母親父親はまあ、別格なので。

テレビ局「砂田」

テレビ局もまた主人公のひとつ。というかもはや砂田が主人公じゃないか?と思うところが何回かあった。

砂田、そもそも純粋過ぎる。マスゴミ界の良心なんだからもっとがんばってくれ、と思うが周りが、というかシステムが良心ありきで成り立ってないので何一つ上手くいかなくてこちらも悲しい。
パワハラされて泣いてしまった部下を慰めようとしたら逆に無邪気に攻撃される始末。がんばれ… でもさすがに母親に同意しすぎ…

あんなことがあったのに2年後も辞めてないのすごい。でもまあ、そのくらいで辞めてたら今まで残れてなかったか。でもあのアホカメラマンはどっか行ってた。栄転ではない、だろうな…

アホカメラマンの一番すごかったのは、チラシを配っている母親の横で、丸めて捨てられたチラシのVを撮っていたところ。もはや尊敬するレベル。
あとは、動画編集しててコンクリのタンクローリーから海の画像に繋げたら「意味」が見えちゃうだろという砂田の指摘が理解できないところもまた、ダメだけど、良い。

掲示板とかSNSとか、時代設定が現代より少しだけ昔な感じがしたが、テレビ局だけは色んな意味で昭和な空気があった。実際今もあんな感じなのだろうか。まあなんにせよ、やっぱりテレビはクソだな。
警察が言っていたように、「その事実が面白いんだよ」になっちゃうから。

そして母親「沙織里」

沙織里が母親と会話するとき、母親がすでにやっていることばかり「やったら?」と助言してきてキレてしまうのも、あるあるー。わかるー、母親ってそんな感じ。

本編中、ずっと壊れそうで壊れず、でもやっぱり壊れる感じの沙織里、見ててつらくなかったことがなかった。

砂田に「お子さんはどんな性格でしたか」と聞かれて、すぐ答えられず「えーっと、あー」となったあとに、チラシに書かれていることをまず言ってから、笑うとエクボがとかどんどん出てくる。普通ならこれがこうであとこれでかわいくて…とどんどん言えるはずなのに、最初なぜか口ごもってしまい、でも話し始めるとどんどん出てくるというのがまた…

保護されたという嘘警察の電話のあとに失禁してしまうのがもうなんというか。こっちもつらくてゲボ吐きそうです。
誘拐という超弩級の悪意に続く、無関心、虚偽、テレビ局という悪意たち。世界は狂っとるんや。

しかし、不意にみどりのおばさんボランティアを始めるの、心配過ぎる。まさか子供をたくさん見る仕事だからいつか娘が見つかるとかそういうことじゃないよね… さらったりしないよね… と暖かい目で子どもたちを見ている沙織里と裏腹に、見てるこちらは不安だった。

一番印象的なシーンである、オープニングでも出てきたシーグラスを壁の落書きに写った虹色の光、そこから映し出された自分の手の影で娘が壁に描いた落書きを撫でるの、きつい。

このシーン、パンフやレビューを読むと「そして最後に光が… 」みたいな救いの現れみたいな感想や理解の仕方が多かったが、光なんて感じませんでしたけど?
ずっと闇だったし、光に見えたのもせいぜい目に宿った狂気の光くらいだったよ。

そういえば、弟を罵倒するときのフリック速度が尋常じゃなかったのも沙織里の印象的シーンだったな。

その他

モブたちのカス度の高さも見どころ。

道端で歩きスマホをしていたおばさんと、ぶつかられそうになったおっさんが大声でバトルしてたり、警察署では隣人トラブルについて大声で文句を言ってたり、スーパーでもおばちゃんがヤクルト1000が売り切れなのどーなってんの、とカスハラしてたり。

そしてそれらのやかましさを上回って壊れる沙織里。つらい。カスどもはあんなに元気なのに。

マストバイなパンフレット

パンフレットが100ページくらいあり、シナリオ決定稿が最初から最後まで載ってる。読み直すとだいたいは見た通りだったが、ところどころ映画だと表現が強化されてるところがあったように思えたし、読み直すだけで更に地獄を味わえた。

あと、色んなモブの人たちが監督が直接選んだ一般公募の人たちだったことも知れた。おもろい。素人かよ!と感じることはなかったな。

子供を持つ親がこの映画を見たらどうなってしまうんだ、と思っていたが、そもそも主演の石原さゆりは第一子を産んだばかり、青木崇高も父親だったということに気づき、俳優ってすげえなと思った。

まとめ

とてもいい映画だった、演者も監督もすげえなとはなったし、見てよかったとは思うが、この人の別作品を見たいなとは思わないし、ミッシングもやっぱり絶対見直したくないかな… 二回見ると新発見が!とかいいです…

おもしろい経験をしたいというのはウソではないし、こういう作品から学ぶことも多いとは思うが、ちょっとダメージがでかすぎるんですよね…
いやー、良い映画でしたね。

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