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[読書感想文] 時の"風"に吹かれて

持ってたから読んだことあるんだろうけど、何一つ覚えていなかった。11の物語って帯に書いてあるのに全然気づいておらず、一冊の時を旅する長編かと思って読み始めたらすぐ最初の物語が終わった。

そしてタイトルに時と入ってるし、カジシンと言えばタイムスリップなところあるので全部それかと思いきやそんなこともなく、むしろタイムスリップの方が少なかった。まじめありギャグありホラーありナンセンスあり。色とりどりな短編集。本の整理のために、まず読んでから売ろうと思ってたのに、持ってる本が初版だったのでなんか売りづらい。

・時の"風"に吹かれて

タイトルにもなっている一作。SFでタイムマシンで、まさにカジシン節。機敷埜と書いて「きしきの」と読む博士がやけにキャラが立ってるので長編かと思ったらスッと終わった。機敷埜って他のカジシン作品でも結構出てこなかったっけ…

制限時間のある時間遡行に旅立つが、女性を助けるという目的のために制限時間を超えてしまった男性のお話。生まれる前にタイムスリップしてしまったために、制限時間後に消滅してしまったと思いきや、実は…?
ハッピーエンドだったけど割と短かった。

こういうタイムマシンものが11篇あるのかと思ったが…

・時縛の人

こっちもタイムマシンネタだが、ほぼギャグに近いかも知れない。

タイムマシンを独自に開発した天才が誰かに語りかけているが、結局誰に語りかけていたのかというと… なるほど救われない。タイムマシンよりも、なんでもエネルギーにできる変換装置のほうがすごい発明に思えたのは自分だけか。そりゃ億万長者になるわ。でも本文でも描かれているようにタイムマシンを作るための情熱による副産物なので気兼ねなくタイムマシン研究ができるという… ある意味超幸せな人生だな。最後は最悪だったけど。

・芝山博士臨界超過!

急に時の風が吹かなくなってギャグになった。

アルジャーノンの話そのままに、嫁に改造されて賢くなった男性が、同時に色々と縛り付けられた上に、最後は脳が制限を外されて臨界突破して爆発。哀れ。なぜ発表会場のドアが開かなかったのかは謎。

・月下の決闘

完全にギャグ。裏バレエて。マノンかよ。闇エアロビまで出てきた。こういうギャグもの、好きすぎる。好きすぎるが、短編集の中に混じっているからであって、長編とか短編集の全部これとかだと味が濃すぎて胸焼けしてしまうかも知れない。女はこええな!

・弁天銀座の惨劇

怯えている男性の代わりに公衆電話で相手にかけてあげたら嫁で、切れた嫁は低周波を発して電話越しに全てを破壊し始めるという、なんか筒井康隆感があった。「堕地獄仏法/公共伏魔殿」にあった「慶安大変記」に近いドタバタ血みどろ感。

・鉄腕アトム  メルモ因子の巻

完全に鉄腕アトムだ!お茶の水博士にアセチレンランプに、そのままの名前で出てくる。おもしろいけど、大丈夫なのか!?!?ってなった。

でも奥付見たら「手塚治虫 COVER エロス篇」からの小説だったのでオフィシャルだった。良かった。

内容としてはテーマ通りに若干エロス風味があったものの、内容はしっかりとアトムしていて良かった。プルートーみたいにキャラの立った敵が出てきて、人間のように見えて実はロボというヒロインも出る。アトムも規格外に強いけど、でもエネルギーがなかったり人質ロボ質を取られて下半身を溶かされたりと本編並みにボロボロになったり。

・その路地へ曲がって

ほんわかホラー。最初はようやく戻ってきたSF時戻り系かと思いきや、特にそんなことはなくマヨイガみたいな感じ。特定の条件でしかたどり着けない路地の先に、今はもう存在してなさそうな母親がずっと同じ姿のまま帰りを待ってくれていて、最後はそこでずっと暮らす… 人生の終わりはこれだと良いねと感じるけどやっぱり怖い。

・ミカ

猫が小さい女の子に見えるという、普通によく見る猫耳女子コミックみたいな設定だが、別に猫耳ではないし、人間に見えてるのは家族の中で父親だけだし、猫の方も別に幼女としてあざとく振る舞うわけでもないし、何より発情期にそこらの野良猫と外で交尾してきてしまい、赤ちゃんは死産だわ猫エイズで死んでしまうわ、悲しい展開すぎる。

最初は猫嫌いだった男性も、幼女に見えるし懐いてくるしで愛情を覚えて始める、というか家族に嫌われてるのもあり溺愛し始める。途中まで、この男性の猫に対する思いが家族にバレて偉いことになるという、共感性羞恥苦しみ展開じゃないだろうな!と薄めで読み進めていた。

猫の死に際には動物病院の医者がなぜかその猫の人間姿に似ているという不思議展開になり、今度はこのお医者さんと父親のめくるめくランデブーが…?と思わせておいて実は家に帰ると家族が今度は猫になっているという… ホラーじゃねえか!

・わが愛しの口裂け女

えっ、タイトルからしてホラーかと思ったら、ある意味一番いい話だった。好き…

口裂け女、というか妖怪や神秘現象は、ミーム、つまり人々の信じる心による形態変化であるという新説が明らかになり、主人公の母親はその被害者で、好きで口裂け女していたわけではなかったと。

時代が進み、口裂け女というミームが穏やかになったら口裂け女は登場しなくなったものの、異形を父親に見られた母親はトラウマになって帰ってこなくなってしまった。

が、父親の死の間際に口裂け女能力を再度解放し、早く走れるという都市伝説を使って一瞬で駆けつけてきて「私……きれい?」

こんなに美しい「私……きれい?」は初めて見ましたね。でも鎌を持つのはこええよ。捕まるよ。

・再会

ギリタイムスリップ… か?ダムの底に沈んでしまう小学校に呼ばれたかのように昔の同級生たちが集う… が、一人足りない…

イマジナリーフレンドというよりは学校にいた座敷わらし的な存在だった。ちょっとだけ、ダムに飲み込まれる終わりかとドキドキしたがそんなことはなく、ほんわかに終わった。

・声に出して読みたい事件

非常に短い短編。なのになぜかこれだけ読んだ記憶があったようなネタに覚えがあるような…

早口言葉って最近聞かない気がするな。まあ、大人になって話題になる方が少ない気もするけど。


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