魔法をかけたのは
夢と魔法で溢れているディズニーリゾートの世界。
僕が最初に東京ディズニーリゾートを体験したのは2003年の夏だった。
当時僕は20代後半、結構遅めのディズニーデビューだったけれど、その時の感動は今でもよく覚えている。
初めて体験するディズニーの世界は、そのどれもに目を奪われたし、次から次へと楽しい事の連続で休む暇もないくらいだった。
その感動をひとつひとつ挙げるときりがない訳だけど、とりわけ心に残っているのがパークにいる人たちの「笑顔」だ。
子供はともかく大人も皆、子供以上の無邪気な笑顔で歩いている事がとても印象的だった。
初めてディズニーに来た当時の僕も、きっと笑顔でパークを回っていた事だろう。
そして、その笑顔が生まれるきっかけの一つとして、ディズニーで働く人達、いわゆる「キャスト」の存在が大きかったと思う。
道を尋ねるだけでも、飛び切りの笑顔で受け答えしてくれて「行ってらっしゃい!」と元気いっぱい送り出してくれるのだから、こちらも笑顔にならないはずはない。
まさにそれはディズニーの魔法のひとつ。
しかしどうやら最近、「キャスト」による接客の質が落ちているらしい。
そんな噂を小耳に挟みつつ、2019年8月 ー
この夏、2才と5才の娘を連れて、家族4人でディズニー旅行に行ってきた。
意識しているからか「キャスト」の動きに目がいく。そして残念ながら、確かにそうかもと思う場面がいくつかあった。
中にはもちろん、素敵な受け答えをしてくれるキャストもいる。しかしそれ以上に業務的な対応をするキャストの方が多く感じられた。
ディズニーではお客さんを「ゲスト」と呼ぶのだけど、キャストはゲストを裁くので手一杯という印象だ。
来場者数がどんどん増えているディズニーランド。キャストの余裕がなくなるのは仕方のない事かもしれない。
ゲストはゲストで、ディズニーアプリを立ち上げたスマホ画面を眺めながら歩いているので、まあこれはどっちもどっちだなという気もする。
そしてこの流れはきっと、これからますます加速していくだろう。
かつてゲストは、キャストの素敵な一言で魔法にかけられた。これから先、ディズニーの魔法はどんどん失われていくのだろうか。
魔法を使えるキャストが少なくなっていく中で、僕たちはどうやったら魔法にかかるのか。
実はその答えを僕は知っている。ちゃんと魔法にかかる瞬間がある事を。
ここで時間を今から3年前に巻き戻す。
つまり、2016年の夏。この年も僕たちはディズニー旅行に来ていた。
下の子はまだいない。家族3人でのディズニー旅行だ。場所はトゥモローランドにあるレストランのテラス席。
当時2才の娘は、ママの用意していた服に着替えを済ませてフライドポテトを食べている。
僕と妻には着替えがある訳もなく、頭からずぶ濡れになった体をタオルで拭くだけ。そしてテラスで太陽を浴びては、濡れた服ごと体を乾かしているところだ。
濡れた体に、夏の太陽はポカポカと暖かく気持ち良い。
そんな優しい心地とともに、その時の僕は魔法にかかっていた。
また少しだけ時間を巻き戻す。
1時間前、僕たちはディズニー夏のイベント「彩涼夏舞」の抽選に当たりシンデレラ城前の席に座っていた。
「彩涼夏舞」はディズニーのキャラクター達がステージから観客席へ向かって水をかける、いわゆる散水ショーと呼ばれる夏ディズニー定番のイベントだ。
水がかかるのは知っていたけど、事前によく調べては来なかった。
抽選に当たって席に着いたの良いものの、周りが皆レインコートを着ているのを見て少しおののいた。
僕たちはレインコートも何も持ってきていない。でもまさかねぇと、まだどこかにあった余裕もショー開始とともに消え失せた。
頭も、服も、カバンにそれから靴までも。次から次へと大量の水をかぶっていったのだ。
うわぁーと予想以上の出来事に慌てふためいていた僕たちも、途中からもう笑うしかないという変なテンションで愉快にすらなっている。
周りがワイワイと盛り上がっている中で、ふと娘を見るとおとなしい。
よく見ると、突然の出来事にびっくりしたのか泣いていた。
びしょ濡れで泣いている娘がとても不憫に思えて、僕はカバンからタオルを取り出して彼女の顔を拭いた。
しかし次の瞬間にはまた水をかぶり、顔もタオルもびしょ濡れになった。
娘は今度は大きな声で泣いた。
そして僕の手からタオルを取ると、「パパ〜、パパ〜」と言いながら僕の顔や体を拭いてくれた。
自分ではなくて僕の事を、びしょ濡れのタオルで、「パパ〜、パパ〜」と泣きながら何度も何度も。
この子はとても優しい。
心の奥がじんわりと暖かい。僕はその時魔法にかかった。
この時、僕たちに魔法をかけてくれたのは、まだ小さな2才の娘だった。
それから3年後。
つまり今回の、2019年夏のディズニー旅行に話は戻る。その時の娘は5才になり、妹も出来た。
次女は当時の長女と同じく2才。今回がディズニーデビューとなる。
今度は一体どんな魔法が起こるのだろう。もはやそんな期待をしてしまう自分がいた。
家族4人でのディズニー旅行は、前回にも増して楽しかった。子ども達の喜ぶ姿を見るのは幸せだったし、僕たちも一緒にアトラクションに乗ってディズニーを楽しんだ。
ただ、2才の次女の身長はまだ90cmに満たない。乗る事が出来るアトラクションは極めて少なかった。
僕は次女と一緒にお留守番、そんな場面も多くて、家族全員が乗れるアトラクションに一緒に乗れても、まだ面白さが分からないのかポカンとしている事もあった。
この子が思いっきりはしゃげるアトラクションに乗せてあげたい。
そんな思いが親の僕たちだけでなく、長女にも芽生え始めていた頃、ディズニーシーのポートディスカバリーを通りがかった。
あれに乗りたい。
長女が指差す先にあるのは、アクアトピアだった。
アクアトピアにはだいぶ昔に乗った覚えがあるぐらいで久しぶりだ。
僕の記憶では水の上をくるくる回る乗り物に乗って、自分の操縦で他の機体に向けて水を発射するアトラクションだと思っていたが、実際は操縦など出来ない。
アクアトピアは、くるくると回転するウォータービークルに乗り込み、水上のコースを予測不能に移動するアトラクション。
コース上には滝の流れる場所や、水の吹き出す場所があり、どこに向かうか分からないながらも確実に水に濡れる様になっている。
更に今の季節は夏限定の「ずぶ濡れバージョン」仕様になっていた。
準備が近づいてきたので、僕と次女、ママと長女の2組に分かれる。アクアトピアは2人乗りのアトラクションだった。
ママと長女の乗ったウォータービークルが先に出発し、僕たちはその後を追って出発した。
コースは分かれ、ママ達の乗り物を見失ったと思った次の瞬間、不意に後ろから水をかぶった。
うわぁーと叫ぶ僕の姿を見て、隣に座る次女は喜んだ。というより笑い転げた。
ベルトをしているので実際に転げはしないが、本当に転んで行きそうな勢いでけらけらと爆笑していた。
乗り物は尚も進み、また水の吹き出すエリアへと突入していくものだから、やめてーと叫ぶと次女は更に大笑いする。
自分もずぶ濡れのくせに、そんなに僕が水に濡れるのが面白いのか。とにかくツボに入ったと言わんばかりに笑いが止まらない。
濡れた僕の体を、泣きながら拭いてくれた長女とは、全く逆のリアクションだ。
そんな事を考えていたら、向こうでぎゃーと叫ぶ声がする。あれはママ達の乗り物だ。
盛大に水をかぶった後でこちらに近づいてくる。くるりと回転すると、2台がちょうど向き合う形になった。
僕たちはお互いにびしょ濡れの姿。そして僕の隣には、今だに笑いが止まらない次女の姿。
顔を見合わせた僕たちは、瞬間で何かが通じ合ったのを感じた。そして、家族みんなでお腹の底から笑い合った。
これが今回の魔法。
次女の喜ぶ姿をきっかけに、家族みんなでマジックを起こした瞬間だった。
ふと空を見上げると、夕方に向かう夏空が、淡く綺麗なピンクに染まり始めていた。
気付くと、今回はとても長々とした文章になってしまいました。つたない表現ばかりで伝わり難い部分も多かったと思いますが、ここまで読んで頂き、ほんとうにありがとうございます。
伝えたかったのは、大切な人と一緒に、大切な思いで踏み出したパークの中では、必ず魔法は起こるという事。
それでは、このnoteを読んでくれた皆様の冒険に、素敵な魔法が宿る事を願って。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?