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ポジショナルプレーの道のりは遠く険しい J3第7節 盛岡対鹿児島

鹿児島県民160万人の鹿児島ユナイテッドサポーターの皆さん、こんにちは。仙太郎です。

今週は北国盛岡でのアウェイゲームとなりました。雨が降り、かなり寒いコンディションとなりました。ピッチもかなり水が溜まっていて完全にボールが止まるようなことはありませんでしたが、ボールの勢いの落ちるような場所もありました。ショートパスをつなぐ鹿児島にとって、パススピードが上がり有利な面もありますが、逆にパスが加速されトラップミスをする可能性もあるような状況で、これを有利にできるかは自分たち次第でしたね。

盛岡はこの試合の前時点は二位につけており連勝中。しかも失点数は5試合でわずかに3点という堅守のチームです。しかも前からプレスをかけて奪ったボールを素早くショートカウンターを得意としています。上位対決となる鹿児島にとっては勝てば二位になれる可能性もあり、自分たちの実力を試すにはもってこいの試合となりました。

鹿児島の先発からは不動のCBウェズレイ選手の名前がありません。彼は前の試合中に足を痛めて途中交代。おそらく肉離れの疑いが濃厚です。となると少なくとも2〜3週間は復帰までかかると思われます。パパス監督の目指すポジショナルプレーを実現するには技術があり、優れたプレービジョンを持つCBの存在が不可欠です。しかもそれにプラスして高さもあるウェズレイ選手は今の鹿児島には欠かせない存在です。そのウェズレイ選手がいないとなると攻撃面ではもうひとりのCBである田辺選手への負担は大きくなります。そして高さのある相手FWとの競り合いでは藤原選手への期待が高まります。

試合開始と共に盛岡のFW二人は前からプレスを掛けてきますが、鹿児島はGKの大西選手を含めてCB二人と3対2に数的有利な状況を作れていましたし、右サイドバックで先発したフォゲッチ選手も幅を取れていて比較的容易に相手陣地までは前進することができていました。ただ決定的なチャンスは堅守の盛岡に対しては作れていませんでした。数回、鹿児島は変な形でボールを奪われて盛岡にカウンターを仕掛けられてシュートを打たれますが、そこはGK大西選手がセーブします。

どちらも主導権を握れきれていない状況で前半の13分に試合が動きます。盛岡がシュートを外して、鹿児島のゴールキックから試合が再開される場面です。GKの大西選手は素早くPA内にいた中原選手に短い縦パスを入れます。ところがこれを相手のFWのブランメル選手が狙っていてすぐにプレスを掛けに来ます。中原選手は慌てて右にポジションをとっていたCBの藤原選手にパスをしてプレスを回避しようとしますが、ボールを受けた藤原選手の目の前には盛岡の色摩選手がいてボールを奪われてしまいます。奪ったボールを素早く中央にいたブランネル選手にパスし、ブランネル選手がワンタッチでシュートして無人のゴールにボールが吸い込まれてあっけなく鹿児島は先制点を許してしまいます。

この失点に関してはGKの大西選手の判断ミスだと思います。大西選手がこの時急いで試合を再開させる必要はありませんでした、相手選手が二人PA内に残っている状況で、相手FWのブランネル選手もPAギリギリの正面にいる状況でペナルティスポットあたりにいた中原選手に急いでボールを出す必要はありませんでした。相手が攻め残っている状況ですから、早くゲームを再開する場合、相手のDFラインの裏を狙うならプレーの意図はわかります。それなら相手が戻る前にボールが前進できますし、ボールが味方につながればビッグチャンスです。例えボール失っても相手の陣地奥深くから相手ボールになって試合再開しますからリスクはありません。この時、急いでゴールキックしてショートパスをつなぐメリットはほとんどなく、リスクだけがある状態ですから、相手選手がPA内から出るのを待って試合を再開したほうが良かったと思います。さすがに相手が3人PA内とPAのすぐ前にいる状況で、ボールを早く動かすのは間違った判断でした。

私は最初のこの得点は認められず、再度ゴールキックから試合再開ではないかと思っていました。というのもPA内で味方選手がボールを受けられるルール改正前までは、相手選手がPA内にいてボールを動かした場合はゴールキックはやり直しでした。ただこのルール改正後は、ゴールキック側が相手がPA内にいるのがわかっていてボールを動かした場合は、インプレーになるのでこの得点は認められました。

しかも通常鹿児島のゴールキックはGKの左右に味方選手を立たせて幅を取りながら相手FWのプレスをかわすように設計されていますが、中原選手がボールを受けるようには設計されていません。そこに相手が3人でプレスを掛けてくるのですから、早く試合再開するのは無理がありました。ただ中原選手もフォゲッチ選手が斜め右前にサポート来ている状況でしたからシンプルにパスを出しても良かったと思います。中原選手もフォゲッチ選手を確認できていたと思います。そこでボールを奪われてもゴールからは遠いですし、フォゲッチ選手は技術もあるので簡単にボールを奪われることはなかったと思います。

おそらく中原選手は盛岡の選手がフォゲッチ選手へのボールを狙っていたのが見えていて、右にパスしたと思うのですが、そこに盛岡の選手がいたのは気がついていませんでした。その判断ミスは盛岡のブランネル選手がプレッシャーを掛けていたから起こったと思います。そういう意味で鹿児島のミスではあるのですが、盛岡にミスをさせられたと言ってもいいと思います。

その後も鹿児島はボールを前進させることができていて、25分を過ぎてからは相手陣内でゲームを進める時間帯が長くなります。ただフォゲッチ選手がいつもの中に入る癖が出ると右サイドが野獄選手一人だけになり左サイドからの攻撃が多くなり、せっかく右サイドにスペースがあるのに使えないという先週の試合でも見られた現象が出ていました。もっとも盛岡の守備はボールへの寄せ速くて、スペースのカバーも的確なのでなかなか決定的なチャンスを作ることはできず、前半は0−1でリードを許して前半を終えます。盛岡の守備時のポジショニングも良くて穴を見つけられない状態でした。

▽後半直後に追いつくも最後に力尽きた鹿児島
後半も鹿児島は相手陣内にボールを運べていました。特にフォゲッチ選手が右サイドのスペースでボールを受けたときは、ドリブルで前進できていました。フォゲッチ選手はスピードがあるので、相手選手がプレスバックしてきてもうまくブロックしながらスピードで相手をかわすことができます。そういう状況の中から、50分に同点ゴールが決まります。ゴール自体はショートコーナーをして、ゴール前の混戦から中原選手が押し込んだのですが、そのCKになる前のプレーがとてもよかったので紹介しておきますね。

GK大西選手がボールをキャッチして、それを右のスペースにいたフォゲッチ選手にすぐにスローイング。フォゲッチ選手は大きなスペースをドリブルで前進します。一度は相手にボールを奪われますが、相手陣内でボールを奪い返すと左サイドに展開して米澤選手が打ったシュートが相手にあたりCKになりました。このときの大西選手の判断は素晴らしかったですし、フォゲッチ選手のスピードに乗ったドリブルもこの得点に貢献していると思います。

この得点時もそうでしたが、盛岡のCB三人が背も高くヘディングも強いのがわかっていて、しかも自分たちのセットプレーの得点源であるウェズレイ選手が怪我で出られずでしたから、この試合ではショートコーナーを多用していました。これは盛岡のCB三人が高いのと自分たちには高い選手が少ないことからこの戦術を選択したと思われます。そして実際盛岡のCBはヘディング強く、それを最後の最後で鹿児島は思い知ることになります。

後半途中から鹿児島は左サイドから何度も崩されます。これはボール保持時にフォゲッチ選手が中に絞ってくるので右サイドにボールを運べずに、左サイドにパスが偏ります。当然盛岡の選手はこの左サイド(盛岡から見たら右サイド)に人を集めてプレスを掛けます。プレスを掛けられてボールを失いピンチを迎えることが多くなりました。鹿児島は構造的に2CB でボールを保持しSBは高い位置を取ることが多いので、ネガティブトランジション時にすぐにプレスがかけられずに鹿児島の左SB裏のスペースにボールを出されると厳しくなります。試合途中までは盛岡の選手が前に飛び出すことがなかったので問題にはならなかったのですが、60分位からはこの裏に選手が飛び出すようになり鹿児島は決定的なピンチを何回も迎えます。ブランネル選手がワントップでいた時は狩れば左右に流れてボールを受けていたのですが、彼は高さと強さがありますが、スピードはないので彼がサイドでボールを持っても恐くはありませんでした。彼はやはりゴール前にいるときが一番怖いですよね。ブランネル選手がいるときは、彼とツーシャドウのモレラトと色摩選手の三人で攻撃する形が多かったので、サイドから攻撃されることはあまりありませんでした。ところが彼が後半に交代してからは盛岡の攻撃が活性化します。どんどん裏のスペースに選手が抜けてくるようになったので鹿児島は度々ピンチを迎えることになりました。

そして86分にこの左サイドから崩されて鹿児島は失点します。左サイドからCKをクリアしたボールをシュートされこのときはバーに当たり救われたのですが、このあとも続けて相手にボールを拾われて連続して攻撃されます。左からのセンタリングを一度はクリアしたのですが、そのクリアボールを盛岡の選手がダイレクトの浮き球で鹿児島のDFラインとGKの間にセンタリング。大西選手が一度は飛び出しかけたのですが、ボールはアウトスイングの回転がかかっていて届かないと判断して途中で止まります。一度ボールをクリアしてボールの位置が下がったので鹿児島のDFはラインを自動的にあげます。そうすると当然GKとDFライン間にスペースができるので、そのできたスペースにボールが来たにも関わらず、GKが触れることができなかったので相手選手がノーマークで高い位置でヘディングして失点しました。フォゲッチ選手がいたことはいたのですが、フォゲッチ選手は身長も高くなくヘディングも強くはないのでほぼノーマーク状態でした。相手CBの牟田選手に決められました。

この時ラインを上げるのであれば、相手選手にある程度プレスがかかっていないと今回のように裏のスペースにボールをセンタリングされてピンチを迎えます。そしてラインを上げるのであれば、できればGKもポジションを前に動いて、そのできたスペースをケアするようにすると良かったと思います。そうすれば相手選手より早くボールにふれることができたかもしれません。大西選手は前に出かけて止まってしまったので、本来ならもう少し後ろにポジショニングして時間を作りたかったのですが、中途半端なポジションになりシュートへの反応が間に合いませんでした。

鹿児島がいい攻撃ができているときは右サイドでボールを前進し、左サイドに展開して米澤選手がフリーでボールを持てたときです。そうするとそういう状況を意図的に作る必要があります。今の状況だとフォゲッチ選手が右サイドに開いたときはいいのですが、中に入ってくると攻撃が左サイドの偏ってしまい相手のプレスが厳しくなりボールを失いカウンターを食らう場面が多くなります。つまりフォゲッチ選手次第なんですね。

いつもフォゲッチ選手を責めているように思われるかもしれませんが、彼はとてもスピードもあるしテクニックもあり、プレービジョンのあるプレーヤーだと思います。中に入ってきてMFの選手としてもプレーできるクオリティがあります。だからその彼の長所をもっと引き出す戦術を採用すべきで、それにはフォゲッチ選手が一度右サイドに開いてからプレーを開始したほうがいいと思います。

あと気になったのがCBやMFからの前進するパスに縦パスが多いのが気になりました。もちろん縦パスが決まれば一気に前進できるのですが、ボールを受ける選手が体の向きで自分の裏の状況を見るのが難しく、この日のように盛岡が前にプレスを掛けている状況だとボールを収められずに取られる場面がとても多く発生していました。だからもう少し斜めのパスを多用したほうがいいと思います。斜めのパスだと前の状況を見ることもできますし、相手がプレスを掛けてきても遠い方の足でトラップすればボールを簡単に失うことはありません。

鹿児島は何回もいい攻撃ができそうな場面を度々作っていたのですが、ほんの少しのトラップミスやポジショニングのずれにより相手ボールになることが多かったですね。この日は雨もふりピッチコンディションも濡れていてボールも走る状況だったので、プレーは難しかったと思います。ただそこを修正していかないとパパス監督の目指すポジショナルプレーの完成度は上がりません。

日本人選手は育成年代からこのポジショナルプレーの考え方をトレーニングしてきていないので、大人になってからトレーニングで学ぶのは難しいですし、時間がかかるのもわかります。ただJリーグでは毎週試合があります。1週間あるように思われますが、リカバリーの日も必要ですので、実質戦術練習ができるのは1日か2日です。しかも1回の練習は1.5か2時間程度。それでプレーするのが難解なポジショナルプレーを学ばなければならないのですから選手にとっては大変です。幸運なことにまたもや1週試合がなく、次の試合は15日のホームでの藤枝戦です。それまでに少しでもポジショナルプレーの完成度上げていってほしいと思います。

「チェストー!鹿児島ユナイテッド!」

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