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小さき者

あるとき「あさイチ」(NHK)さんで尾州織物のblanketさんが紹介されていされていた。blanketさんのwebサイトに飛ぶと

2019年は過去最悪に厳しい状況の尾州産地。仕事がない閑散期が続き、今までにない危機感が産地に広がっています。それでも、私達は尾州産地でコートを作り続けます。

と。

愛知県一宮市を中心に「尾州織物」はウール生地の世界的な産地として知られている。ご多聞に漏れず、価格競争で外国産の後塵を拝したものの、「手業」の水準については、今も国際的に他の追随を許さぬところ。

でも、つい最近まで、大衆消費が主力で、それ以外の市場にアクセスするのも難しく、生産者は大衆消費を舞台に活動するメーカーや問屋さんのオーダーに従うしかない状況があった。

だから値段で外国産に負ける。

今はSNSがあって宅急便的な決めの細かい輸送網がある。メーカーや問屋さんを通さずとも「産直」が可能になってきた。

でも、誰に売るのか。

ちょっと遠回り…

「平均点」というと「全員の真ん中」をイメージするが、実は限りなくビリに近いところに位置している(本当の真ん中は「中央値」)。
所得でも徒競走でも「得点」や「記録」の分布は、全体を100人とすると
ダントツの1位がひとり。それに続いて抜きん出ているのが2人(金銀銅のイメージですね)。それを含んでベスト16までが上位を形成し、あとの84人はビリ付近に固まる…というこれが実態。冪(べき)分布っぽく考えるとそう。

「一億総中流」というのは、100人のうちの84人に「中流」の錯覚を与えらることができて成立し「二極化」というには、この催眠術がとけてきたことを意味するのだろう。アメリカでは、すでに中流の夢を見れなくなった人たちが一群いて、アカデミー賞作品賞、監督賞他の「ノマドランド」。

たぶん、大衆消費は、ますます、その消費力を失っていく。止むを得ずファスト・ファションに流れていく人も少なくない。すでに、ユニクロさんが、かつてのDCブランド的な位置付けにいる。

一方、この国にも資産数十兆円以上の人が70万人はいるはずだが、どんな暮らしぶりをしているのか、さっぱり見当もつかなない。70万人といえば静岡市ひとつ分の人口に相当する。でも、どこに、固まって住んでいるわけじゃないから、どこにそんな人がどこにいるんだか。街を見渡してもさっぱり窺い知ることができない。

かつて、僕は仕事上で付き合っていたある自治体の職員さんたちが「相続税1兆円をキャッシュで支払った人がいた」とざわつく場面に遭遇したことがあるけれど、どこかには、そういう人たちが実在しているのだろう。
横浜なんだけど、某名家の跡取りに「家」に招待されて、未だに、その「家」の全容が掌握できずにいる。昼間、彼の「家」の周辺を歩いてみても、どこまでが彼の家で、どこまでが市民の森だかわからないのだ。

70万人の市場かもしれないけれど、そういう「家」は、市井の僕らからは想像もつかない。どんなライフスタイルで生活しているのか、想像もつかないんだから、製品開発もできない。

つまり

大衆市場を諦めて、エスタブリッシュな資産家も諦めて、労働者階級の中でのベスト16以上の市場を狙う。

エッセンシャル・ワーカーは「生活必須職従事者」とも呼ばれる。 医療や福祉、第一次産業や救急や消防など、いかなる状況下でも必要とされる社会生活を支える職種。これに行政や小売り、物流などを加えることもあるが、この分野については、急速に「無人化」が進められようとしている。厚生労働省はエッセンシャルワーカーを「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者」としているが、「高い就労意欲を持った人間による。それ以外に考えにくい職種」であるといえ、会社などを単位とした組織的な事業者ではなく、あくまでも個人技を基盤に成り立つものと考えた方がいい。

クリエイティブ・クラスは、カナダのトロント大学の経済&社会学者であるリチャード・フロリダさんが定義した新しい社会階級。古典的な知識労働者。金融とか、法律、教育の分野で勉強してきて得た知識を駆使するオールド・タイプ。それに研究者やプログラマー、アート、デザイン、メディアでクリエイティブな仕事をする、こちらは新しいタイプの人。

(ただし創造的な人、CAD操作みたいな感じだと「無人化」にやられる。、会社などを単位とした組織的な事業者ではなく、あくまでも個人技を基盤に成り立つものと考えた方がいいのはエッセンシャル・マーカーと同じ)

これに、さらにボヘミアンな自由人たちも加わって、リチャード・フロリダさんは、このあたりを「クリエイティブ・クラス」と呼んでいる。

だから「一億総中流」な均質市場の時代に生きてきた僕らの感覚は、これをアジャストしていく必要がある。

繰り返すけど、大衆消費は、ますます、その消費力を失っていく。

大卒初任給は、実績は「これから」の若者に対する評価ですから国力を量るのに便利な指標だが、今、この国の大卒初任給の平均は、ざっくり言って20万円程度。でも韓国のそれが30万円、アメリカで48万5千円、ドイツで43万3千円、オーストラリアで38万6千円です。政策として、ものの値段を上げないようにしているので(そういうわけでお菓子はどんどん小さく小袋になっていくというわけです)、国内で生活していると判りにくいが、気がつくと日本は先進国の中では、ずいぶん貧乏な国になってしまっているのが現実。

安い日本だ。たぶん、食料自給率、エネルギー自給率の低いわが国は、当分、この状況を脱すことはできないだろう。

でもね。

Tシャツ1枚=17,000円(これはblanketさんではありません)。これを、この国の僕らではなく、スイスやドイツの人はどう思うか。

(Tシャツ1枚=17,000円は日本の技能職による少量生産品。実際、売れ行き好調らしい)

どこの先進国でも、二極化は進んでいるから、やっぱり、クリエイエィブ・クラスとエッセンシャル・ワーカーなんだろうけど。

数年前、日本には1泊=10万円クラスのホテルが不足していると、そういったホテルの開業が続いていて、今も隆盛。欧米やマレーシア、シンガポールあたりからの旅行者からも、リーズナブルだ(つまり割安感がある)と評判はいい。

小さき技能職は、商社や問屋を省略して、SNS、webサイトを上手く繰って
国内外のクリエイエィブ・クラスとエッセンシャル・ワーカーへ。

カタログをただ英訳すればいいっていうんじゃないんだろう。創り手としての自分たちの文化をどう伝えるか。インターネット上の壁新聞でもなく、ひとり語りな更新でもなく、インタラクティブな交流も必要だろう。「情報発信」だけに傾注してやってきたから。まだまだ交流は苦手なのが日本の僕らなんだけど。

クリエイエィブクラスとエッセンシャルワーカーを合わせて16%だったとしても一億人の16%は1600万人の市場だからね。
客単価もいいだろうし、大衆消費を相手にするにはメガな資本がいるんだろうし。

小さい技能職の生きる道かな。技能職だけjないか。

※ 冒頭の写真は京都の西陣の工房の窓。ジャガード織りの織機を制御するパンチカード。その古くなったものを日除けの簾がわりに使っていた。

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