見出し画像

ネパール・ジャングル潜入記

ガイド代をケチったのがいけなかったのだろうか?ガイドはまだ来ない。
昨夜の交渉でガイドは『国立公園といっても柵があるわけではないので、外でも中でも同じように動物は見ることができる。』と言うので、公園の外を案内してもらうことにして、ジャングルツアーを行っている料金の半額までにまでなったのだが…。
まだ暗いうちからわくわくして来たが、約束の時刻を一時間以上も過ぎ、僕達はすっかりイラだっていた。

ここはネパール・チトワン国立公園の入口にあるソウラハ村である。
今回の旅は大学の友人小野と二人。ヒマラヤの山岳地帯しか思い浮かばなかったネパールにも南へ下ればジャングルが広がっているらしい。そこで野生の動物を見るというのがこの旅の一番の目的であった。

ようやく寝坊をしたガイドがヒョロヒョロとやってきた。あまり頼りになりそうにないガイドである。僕達の顔を見ると、悪く思ったのか、あわてて準備を始め、運転手を呼びに走っていった。

用意のできたジープに、不機嫌な僕達とすまなさそうにしているガイドとなぜか楽しそうな運転手が乗り込むと、勢いよく公園の入口とは反対の方へと向かって走り出した。
20分程も走ると、車一台がやっと通れるような細い道になり、小川も流れ沼も見えてきて、いよいよジャングルらしくなってきた。
なおもジープはガタガタとしばらく走った。

突然、『サイや!』と運転手が叫んだ。いや、ネパール人だから『サイや』とは言わないだろうが『ガイダー』(㊟ネパール語でサイのこと)と言ったのがそう聞こえたのだろう。指さす方には小さく遠目にではあるが、ハッキリとサイの姿が見えた。僕達も『おおっ、サイや!うわぁほんまや!』とうなった。

ジープを下りると、運転手が、写真を撮ってきてやると言うが、ここまで来たなら行かねばなるまい。一緒にサイに近づくことになった。木を倒してあるだけの橋を四つ這いになりながら渡り、林の奥へと入っていくサイの後を追った。

木を倒した橋を慎重にわたる

ガイドは『大きな声を出さないように。姿勢は低く。サイが向かってきたら木に登れ。走って逃げる時はジグザグに。』と注意をするが、気が弱いのか一番後ろからついて来ている。運転手はというと、先頭に立って奥へ奥へと入っていく。
とりあえず僕は、ちょうどいい具合に曲がって登りやすそうな木があったので目を付けておいた。

サイというのは、こんなにも大きな動物だったろうか。20mぐらい先で木の葉を食べているサイは、動物園にいるサイにはない威厳と迫力をビンビンと感じさせている。顔の先には立派な一本の角。体中はヨロイで覆われているようだ。荒い鼻息も聞こえ、小さな耳をプルプルと動かしているのもここからはハッキリと見えた。

生で見るサイは、巨体であった!

僕は茂みの中に隠れて写真を撮っていた。
『ジロリ。』そう、まさしくジロリとはこういう時に使う言葉なのだろう。急に顔をこちらに向けてジロリとした目と僕の目が合ってしまった。
『まずい!』と思ったがどうにも動けない。しばらく息を殺して様子をうかがっていたが、突然、沈黙を破るかのように、そのサイはスタスタスタと体を反転させた。
その動きはノッシノッシではなく、まさしくスタスタなのであった。巨体にに似合わない素晴らしく早いフットワークに感心した。いや、そんな感心している場合ではない。僕も素早く立ち上がると、あの目を付けていた木へ向かって走った。
走った…が、『エーッ!』さらに驚いた。なんとその僕の木にはガイドがすでに登っているではないか!それは俺の木だ!!と思ったが、どうしようもない。あせった僕はその木の枝から登ろうと、とびついた。しかし太い枝で力が入らず体を持ち上げることができない。足はブラブラとわずかに地上から離れているだけである。

真ん中の俺の木に登っているが、ガイドだ!
木の左側には、サイの姿も見える。

背後から『ザッザッ』という音が聞こえたかと思うと、小野がものすごい勢いで駆け抜けていった。『だめだ!』僕はその木をあきらめ、小野の後を追って走るに走った。
この時、僕はカール・ルイスとなり、前を行く小野はまさしくベン・ジョンソンか。二人は猛烈な速さで林の中を走り続けた。

サイはそう追ってはこなかったようだが、この驚きと何年ぶりかの全力疾走でハアハアと息は切れ、心臓はドキドキと破裂しそうだ。
しかし、久し振りに感じるこのドキドキ感はなぜか心地よく、顔は自然とほころんでいた。

こんなに驚いて逃げてきたが、落ち着くと再びサイへと接近していった。今度はまた違った木を見つけておいた。当然ガイドがそばにいないのを確認してからである。この木のそばには、大きな切り株があり、それに足をかければ簡単に登れそうであった。

小野は運転手について、かなり近くで写真を撮っていたが、突然、『来た来たっ』と言いながら走ってきた。僕は『よし、この木の上から走ってくるサイの写真を撮ってやろう』と思いながらも、急いで木に登ろうと切り株に足をかけた。
が、ズルッ!あれ…?ズルッ!あれっ…?!足をかけるが、登れるどころか、下がっていくではないか!『だめだ!』再び僕は、小野の後を追っての全力疾走であった。

しばらくして、どうしてあんなに崩れたのだろうかと身に行くと、僕が木の切り株だと思っていたのは、土を固めた蟻塚であったのだ。よく見ると周りには同じような蟻塚が何本も地中から生えてきたかのように突き出ていた。

二度もサイに追われたにもかかわらず、運転手はまだ奥へと入っていこうとしていたが、サイの方もジャングルの奥へと姿を消してしまった。

帰りのジープの中では、朝のこともすっかり忘れ、今の体のふるえるような感動のおかげでか、みんなニコやかな顔であった。

23歳の時に書いた文章のようである。

断捨離をしていると写真と一緒に原稿用紙も出てきた。
大学を卒業して、就職したころに書いたもののようである。
処分してしまうのも忍びないので、ここで字起こしをして、日の目を見るようにしておこう!

カトマンズのダルバール広場だな!
カトマンズの宿だろう。カップラーメンを食べているな!
日本から持ち込んだものかな~

ネパールに行ったのは、1992年の2月。卒業旅行で行ったな。
カトマンズからチトワン、ポカラを回って、帰りはトランジットで香港にも立ち寄った。

まだ山には興味のない頃だけど、ピークが針先のように尖ったヒマラヤの山々の姿は印象深い。

そろそろピークを目指すのではなく、ヒマラヤの山々を眺めながら歩くトレッキングに行ってみるかな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?