Russian Offensive Campaign Assessment, October 6, 2024, ISW ⬇️
※記事サムネイル画像:Naalsio(@naalsio26)氏のX投稿添付画像より
ロシア軍の軍事装備損失とその影響
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍が2023年にアウジーウカ[Avdiivka]掌握を目指す攻勢作戦を開始して以降、また、2024年夏季にドネツィク州西部での攻勢作戦を激化させた期間に、同軍はポクロウシク[Pokrovsk]地区で少なくとも5個師団分に相当する数の装甲車両と戦車を失っていることが伝えられている。ウクライナにおけるロシア軍の車両・装備の損失で、映像・画像によって裏付けが取れるものを追跡している公開情報系X(旧Twitter)ユーザーの一人は10月4日に、ロシア軍が2023年10月9日以降、ポクロウシク地区で1,830点の重装備品を失っていることが確認できたと述べた。このXユーザーによると、ロシア軍はポクロウシク地区で攻勢作戦を進めるなか、合計539両の戦車(おおむねロシア軍1個師団半に相当する戦車数)と、1,020両の歩兵戦闘車(おおむね4~5個機械化歩兵師団に相当する車両数)を失っているとのことで、このXユーザーは、ウクライナ軍による撃破が、戦車539両中381両、装甲車両1,020両中835両であると特定した。さらに、ロシア軍が歩兵機動車26両、多連装ロケット・システム(MLRS)22両、牽引式野砲11門、非装甲トラック92両を失っていることも指摘している。また、このXユーザーが確認できたことのなかには、2024年9月6日以降にロシア軍が戦車25両と装甲車両59両(約2個大隊相当分の機械化装備品)を失っていることも含まれている。ロシア軍は2023年10月にアウジーウカ掌握を目指す攻勢作戦を開始し、この激烈な攻勢作戦は4カ月続いた。その後もロシア軍は攻撃を続け、2024年の春季と夏季にアウジーウカから西の方向とドネツィク市から西と南西の方向で攻撃を行ってきた。そして、このXユーザーが示したデータは、これらの攻勢の期間に増加したロシア側車両損失が当然ながら反映されている。ロシア側車両損失のすべてが、映像・画像として記録されているわけではないことを考えると、このXユーザーによる映像・画像確認に基づいた車両損失の試算は、控えめな数値になっている可能性が高い。ポクロウシク地域におけるロシア軍車両損失の実際の数は、この報告よりも多い可能性が高い。
これから何カ月、何年にもわたって、現状の規模とペースで車両を損失していくことを、ロシア軍統帥部が容認するつもりはない可能性がある。あるいは、そのような損失を容認できなくなる可能性がある。その理由として、ロシアの軍需産業にかかる制約、ソヴィエト時代からの備蓄車両の限界、機械化機動戦によって作戦レベルで大規模に領土上で進撃を行うことにロシア軍が失敗していることがあげられる。2023年10月にアウジーウカ掌握を目指す攻勢作戦を始めてからの最初の数週間で、ロシア軍はかなり多くの装甲車両を費やし、失ってしまった。ここ最近の数カ月間、ロシア軍はアウジーウカからすぐ西側に位置する地域で、装甲車両の使用を控えてきた模様だ。だが一方でロシア軍は、ドネツィク市から西と南西の地点での攻勢作戦を、同時並行的に激化させてきた。そして、ここではおおむね小隊規模か中隊規模の機械化部隊攻撃を頻繁に行っているが、成功には至っていない。ロシア軍は2024年7月以降、ドネツィク州西部で大隊規模の機械化部隊攻撃を何回か行っている。そのほとんどが、わずかに領土上で前進ができた引き換えに、多くの装甲車両を失う結果で終わっている。ドネツィク方面で作戦行動中のウクライナ軍旅団の司令官が最近伝えたのは、ロシア軍はドネツィク方面の機械化部隊攻撃に投入した車両のうち、最大で90%の車両を失っているということだった。英国のシンクタンクである国際問題戦略研究所(IISS)は、以前のことになるが、2024年2月時点でロシア軍が年間で3,000両を超える装甲戦闘車両を失っているという試算を示した。けれども、上述したXユーザーのデータが、戦線全体でのロシア側装備損失を取り扱っていないことが明確であることを踏まえると、ロシア軍の現状の装甲車両損失ペースは、IISSの試算よりも速くなっている可能性がある。ロシア軍が2023年10月以降にアウジーウカ/ポクロウシク作戦方面で前進できた距離は40km程度に過ぎず、このような戦術レベルでの戦果のために5個師団以上に相当する装備を失うという状況は、ロシア側の戦争への資源投入能力に抜本的な変化がなければ、無期限に持続できるものではない。
上述の攻撃のために、ロシア軍がかなりの規模の装備品を集積してきた可能性は高い。けれども、ロシア軍に車両備蓄と製造ペースに関する中長期的な制約があることに、装備の損失増加が加わっていることが、この地区において機械化部隊の行動を盛んに行うことのメリットを、ウクライナでの長期的な戦争遂行の面から再検討することを、ロシア軍に強いることになる可能性がある。これから何カ月、何年にもわたって、ロシア軍が有限なソヴィエト時代からの兵器・装備備蓄を消費していくなか、相当規模の車両損失と引き換えに、わずかな戦術レベルの前進を追い求めることをロシア軍統帥部が許容することは、ますます高コストになっていくだろう。ロシア経済を戦時体制に移行させ、軍需工業品の生産割合をかなり大きくしていくことを行わない限り、ロシアが自国部隊に物資を十分に供給することは、長期的に難しくなる可能性がある。なお、経済を戦時体制に移行して、軍需生産を増すことは、現状、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが避けようとしている動きである。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[1]~[10]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文(英文)の日本語訳箇所