【記事紹介】“ロシアの防御陣地はウクライナに昔ながらの問題を突きつけている”(Russian fortifications present an old problem for Ukraine, by David J Betz, ENGELSBERG IDEAS, 20.07.2023)
2023年6月から始まったウクライナ軍の反攻作戦は重厚なロシア軍防衛網に直面し、その対処に苦慮している。ウクライナがロシア軍防衛線を突破できないことの要因として、西側の装備提供が十分でなく、供与が遅れたことが指摘されるが、それ以外にウクライナ軍がNATO式戦術に習熟していないことを理由にあげる人もいる。しかし、著者のベッツ氏は、ウクライナが「主要な西側の軍隊が習熟しているような諸兵科連合機動戦闘ができない」から現在苦境に陥っているだという見解は、「正しくないのではないか」と指摘する。
著者は最近の西側軍事理論を取り上げ、「ごく最近まで、西側の軍事理論は、兵器の威力と正確さと諸兵科連合機動戦術の発展によって、強化防御陣地はもはや古びたものになったとみなす傾向があった」と述べ、ウクライナの戦場を参照し、「『複合的障害物』は現代の作戦において、はっきりとその有効性を示している」と指摘する。
さて、ロシアの軍事理論は防御陣地についてどのように考えているのだろうか。以下はソ連の軍事研究誌『軍事思想』に掲載されたある論考の一節である。
まるで現在のウクライナ軍の苦境を表しているようだが、上で引用した論考は1945年に書かれたものであり、具体的にはクルスク会戦(1943年)を参照したものである。
実施のところ、ロシア軍がウクライナで構築した(そして、さらに構築している)防御網の基本コンセプトは、上述の引用とあまり違いはなく、1960年代のソ連ドクトリンの記述ともほとんど相違はない。なお、防御陣地に関するドクトリン上の記述は、厳格な指定というよりガイドラインといったもので、実際にどのように構築するかは指揮官の裁量に任される。
ロシア軍の野戦陣地網が現在、有効に機能していることを考えると、ロシア軍指揮官たちは敵情分析を正確に行ったうえで、地形を賢く用いて、使えるものを創造的に投入していることが分かる。だから、「ロシア軍指揮官たちは上手くやっている」と著者は評価する。
この種の陣地網は敵の攻撃を第一線で食い止めることを意図していない。そうではなく「大規模な諸兵科連合部隊に対する防御は、要塞地区で構成されている火力システムによって、縦深において、敵の突破がすり減らされることを前提とする」。
なお、戦争研究所(ISW)の6月8日付報告書において、次にような記述がある。
著者はこのようなロシアの軍事思想は、ロシア独特のものではないと述べ、「これとほとんど同じ思想が、物質的にまさっているワルシャワ条約機構軍の攻撃から西ヨーロッパを守るために、NATOが開発した1980年代の『エア・ランド・バトル』コンセプトの一部であった」と指摘する。著者が指摘する類似性は、エリア防御と機動防御の組み合わせにある。
そして著者によると、西側が40年ほど前に考案した防御作戦を、現在のロシアは上手く遂行しているようにみえるとのことだ。また、80年代NATOのワルシャワ条約機構軍に対する優位性には、当時のソ連がもちえなかったハイテク面での優位性があった。つまり、80年代NATOはハイテク優位とドクトリンで、ソ連に対抗しようとした。しかし、現在のロシアにハイテク劣位はない。それどころか、工業力と財源も含めて、ハイテク能力をロシアは保持できる。一方でウクライナには、西側に支援があるとはいえ、産業基盤も財源もない。
著者の結論は以下だ。
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