【SNS投稿和訳】エミール・カステヘルミ氏によるウクライナ軍クルスク攻勢の最新情勢報告とその評価分析(日本時間2024年8月12日01:41投稿)
上記リンク先から始まる一連のX投稿は、フィンランドの軍事史家でOSINTアナリストであるエミール・カステヘルミ氏によるウクライナ軍クルスク州進撃作戦に関する最新情勢報告とその評価分析です。
以下は、このカステヘルミ氏の連続投稿を日本語に翻訳したものになります。なお、記事中の画像は、カステヘルミ氏の投稿に添付されているものを使用しています。
日本語訳
クルスク攻勢の最新情勢:
本作戦は一週間近く続いている。直近の数日間、ウクライナは、あまり大きな進展を示すことができなかったが、新たに占領した地域で陣地固めを始めている。
予想通り、ロシアがこの地域に部隊を移送するのに数日かかった。そして、ロシアが今後数日間、この地域への部隊移送を続ける可能性は高い。現在展開中の戦力によって、ロシア軍はさらなる大きな突破が生じるのを何とか防いでいる。また、ロシア軍は局地的に反撃も始めている。
ロシア軍は今でもスジャ[Sudzha]区画内中央部と東部をある程度保持し続けている可能性が高く、その一方でウクライナ軍はこの地域での作戦任務を継続している。マルティノフカ[Martynovka]において、ロシア軍は反撃を遂行した。そして、この村落からウクライナ軍を追い出せた可能性は高い。入手した情報によると、ウクライナ軍はここを取り戻そうとしているとのことだ。
コレネヴォ[Korenevo]方面においてウクライナ軍は、この都市のなかへと、少なくとも大部隊では、進入することができずにいる。ここの作戦地域の西側側面及び北側側面で特にいえることだが、支配地域に関してある程度の不確実さが存在する。
ロシアはいまだに前線の、あるいは、国境線のしっかりとした統制ができていない。たとえば昨晩、ベリツァ[Belitsa]方面におけるウクライナ軍の敵戦線後方活動を、複数のロシア側チャンネルが報じている。破壊工作・偵察グループは依然としてほかの地点でも浸透できている模様だ。
クルスク作戦の全般的情勢はとりわけ良好にはみえない。戦闘が始まってから一週間経過したが、コレネヴォもスジャもウクライナは完全に支配できておらず、さらにロシア軍は北部方面での阻止に成功している可能性が高い。これはあまり望ましくない状況だ。
とはいえ、ウクライナにとって、この状況は特別に悪いものというわけでもない。ロシア側の反撃があったにもかかわらず、ウクライナは獲得した領土の大半を今でも保持している。この地域全体のロシア軍兵力はさらに増えているが、ウクライナは依然として主導権を握っている。
ロシア軍の増援がもっと多く到着したのち、作戦的成功を成し遂げることは、ますます難しくなっており、奇襲の要素が働く余地は減っている。特にウクライナ東部の情勢がいまだに厳しいことを考えると、もっと多くの兵力を投入することもまたリスクを増加させる。
リリスク[Rylsk]もしくはグルシコヴォ[Glushkovo]に向かってウクライナがまもなく攻撃を仕掛けるという噂話がロシア側から出ている。このような攻撃を実施した場合、ウクライナはこれらの地域で何らかの成果をあげる可能性があるが、情勢全般に及ぼす影響は限られたものになるだろう。そうなった場合でも、クルスク州で最も価値のある地域は、結局のところ安全なままだろう。
主たる疑問点:
ウクライナがクルスク方面において、もっと広い範囲で村落を占領しようと、さらに兵力と装備を注ぎ込むとして、ウクライナは何を達成できるのだろうか? 単により多くの領土を支配することから得られる利益は限られたものだ。
さらに広く領土を得ることは、当然ながら、将来に想定されうる和平交渉において、より重要な意味をもつだろう。だが、たとえウクライナがリリスク~コレネヴォ~スジャ線に到達することがあっても、ロシアが現在、ウクライナ領内で占領している領土の多くよりも、そこの価値のほうが高いという可能性はやはり低いだろう。
支配地域が広がれば、政治的な理由からロシア軍はほかの方面を犠牲にして、クルスクに重点を移さざるを得なくなる可能性が生じると主張する人々もいる。ロシア軍がこうするだろうと、私は完全には信じられずにいる。なぜなら、想定しうるシナリオはほかにもあるからだ。
数カ所の町や村落の問題は将来の交渉で解決できると仮定した場合、ロシア軍が戦線を凍結しようと試み、ウクライナ軍占地域に、同軍がそのままとどまることを甘受する可能性もある。なぜなら、ロシア側の優先度は、ウクライナ領内において定められた政治目標の達成にあるからだ。
このような状況下で、ウクライナ軍がさらに追加投入すれば、その戦力は広がった副次的な方面を防衛・保持するために、そこに拘束される一方で、ドネツィク・ザポリッジャ・ルハンシク・ハルキウでの戦闘は、激しさの面でまったく変わらないまま続いていくことになるだろう。
クルスク作戦は、中リスク・中リターンな作戦という様相をますます呈するようになっている。達成可能な、大きくゲームをチェンジさせる目標は存在しない一方で、この先に破局がみえる可能性もまた低い。
ウクライナにとっての最善のシナリオは、おそらく以下のようなものになるだろう:
ロシアはウクライナの手に落ちたあらゆる地域をそのままにしておくことを許容しないことに決心し、損失を度外視して、1平方kmといえども残さず、すべての土地を奪い返すために、最も重要な地点からも相当規模のリソースを引き離して、振り向けようとする。
このシナリオが現実化すれば、ロシア軍は深刻なほどに消耗し、ほかの方面にかかっている圧力は弱まり、ウクライナ軍が東部において局地的に戦術状況を改善することさえ可能になるだろう。とはいえ、通常、現実というのは、想定の両極のどこか中間点に定まる可能性が極めて高い。
ウクライナ軍が進撃を継続するのかどうかはともかくして、比較的広大な地域の占領がロシア側の専売特許ではないことを、ウクライナ軍は証明しつつある。この戦争が今やロシア側の大地での戦争でもあることが、さらに具現化しており、ロシアは多くの面でこのことを考慮に入れていかねばならなくなっている。
私たちのブラック・バード・グループのチームは、状況把握に努め、日々複数回の更新を続けています。実に濃密な一週間でした。
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