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【記事和訳】2024年の前線動向:作戦的状況を分析する(FRONTELLIGENCE INSIGHT)

上記リンク先のSubstack記事は、ウクライナ軍予備役将校が創設した戦況分析チーム“FRONTELLIGENCE INSIGHT”によるウクライナ戦況分析記事(2024.01.04公開)である。

以下は上記記事の日本語訳である。なお、翻訳記事中で使用した画像は、すべて原文記事から転載した。


日本語訳   「2024年の前線動向:作戦的状況を分析する」

現在の前線の状況は、ウクライナ軍将兵にとって依然として困難なものではあるが、現時点では比較的落ち着いたままである。前線の複数箇所でロシア軍の攻勢が続いており、それにウクライナの都市への激しいミサイル・ドローン攻撃が組み合わさっていることは、戦略的主導権がロシア軍側にシフトしたことを示唆している。全般的な状況は今でもウクライナ軍に好ましいままであるとはいえ、私たちのチームはロシアが戦術レベルでの勝利をあげる可能性を予測している。

私たちが予期しているのは、ロシア軍が重要地区での強襲攻撃作戦をしつこく続けるということで、具体的な場所として、クプヤンシク〜リマン、ボフダニウカ〜コスティアンティニウカ、ノヴォバフムティウカ〜ノヴォミハイリウカをあげることができ、そこに南部地域、とりわけロボティネ地区とクリンキでの反撃の可能性が加わる。

忘れてはならない重要なことに、2023年の冬も、戦略的主導権のウクライナからロシア軍へのシフトで始まったという点がある。このシフトはヘルソン解放に続いて起こった。それに続くかたちで、ロシア軍はヴフレダル、クレミンナ、バフムートといった今も変わらずに重要な地区で攻勢作戦を開始、もしくは継続した。バフムートは占領されたけれども、ロシア軍が実質的な意味をもつ勝利をほかで得ることはまったくなかった。注目すべき点として、ヴフレダルのような特定の地域において、ロシア軍は屈辱的な敗北を喫したということがある。

私たちのチームの評価で分かっているのは、現在のロシア軍に、大規模な戦略的なシフトに必要な戦力、または軍団〜軍規模の連続的な機動戦による戦線突破に必要な戦力がないということだ。そうであるとはいえ、ロシアが弾薬不足を部分的に解消していることは見過ごせない。イランや北朝鮮からの供与を確実にすることで部分的な不足の解消を図っており、さらに私たちの情報源によると、シリアからの供与という可能性もある。この結果、ロシアは砲弾需要の一部を満たすことができており、それにより前進する突撃部隊への火力支援を確保している。それとは対照的に、ウクライナは現在、深刻な砲弾不足への対処を進めている最中であり、ロシア軍冬季攻勢に対応するためのしっかりとした防御陣地が準備できていないことが、問題をさらに厄介なものにしている。

詳細状況

1.ハルキウ州シンキウカ

ハルキウ州において、ロシアはシンキウカに向かう強襲攻撃の試みをしつこく続けている。ここはクプヤンシクから北東に位置する極めて重要な防衛線である。私たちが入手した衛星画像によって、砲撃による被害が激しく継続していることが明らかになっており、ウクライナ側陣地とロシア軍部隊進出地点の両方に数多くの焼け跡があることからも、それは明らかである。甚大な損失を伴いつつ、ロシア軍が中隊規模の部隊を複数展開させて前進を継続していることが、衛星画像のほかに、公開されている動画情報によって裏付けられている。

ウクライナ領ハルキウ州シンキウカ
2023-11-22 | 2023-12-20
49.763111, 37.705629

私たちのチームが現在入手可能なデータによって、ロシアがかなりの規模の兵力をこの地域に展開させ続けていることが分かっており、今後数カ月間、ロシア軍がクプヤンシク地域での圧力を持続できることを示唆している。

2.アウジーウカ

アウジーウカの情勢は比較的安定したままで、ロシア軍のはっきりとした成功、戦線突破、ウクライナ側防衛崩壊といった報告もない。10月から11月にかけて少なくとも211両の車両を破壊されたことも含め、ロシア軍はかなり大きな損失を被り続けているにも関わらず、AKHZ工場[アウジーウカ・コークス工場]付近と、ノヴォバフムティウカ及びステポヴェ方向でのロシア軍の前進が確認されており、アウジーウカ南部地区、とりわけ工業地区内での前進も確認されている。

ウクライナ領ドネツィク州ノヴォバフムティウカから南東の地点
2023-12-26
48.21366, 37.67041

衛星画像の分析に現地報告を合わせると、ノヴォバフムティウカ方向とステポヴェ地区内でロシア軍が継続して強襲攻撃を行っていることが分かり、焼け跡が視認できることがロシア軍の継続的な行動を裏付けている。AKHZエリアでの歩兵主体の突撃は繰り返し続いている。

ウクライナ領ドネツィク州アウジーウカ
2023-12-26
48.187980, 37.696505

3.バフムート地区

バフムート地区はこの冬に再び、激しい戦いが起こる地帯になる可能性を有しており、ロシア軍が大規模攻勢のためにかなりの規模の戦力を集結させていることを示唆する複数の兆候があり、同じくそれを示唆する衛星画像の観測結果が存在する。ロシア側の目標には、フロモヴェとボフダニウカを通ってチャシウ・ヤールに向かって前進することが含まれている模様で、バフムート南方で以前失った陣地、特にクリシチーウカ、アンドリーウカ、クルディウミウカの各地区で失った陣地を取り戻すことも含まれているようだ。ロシア軍がフロモヴェを落とし、現在前進中の場所であるボフダニウカで部分的な戦果をあげたことを受けて、同軍はチャシウ・ヤールに向かって前進するために、この地域での圧力を今後、高めていくことが予期される。

ウクライナ領ドネツィク州フロモヴェ
2023-12-26
48.59913, 37.947684

ロシア軍が弾薬と砲撃能力の面で優勢を保持していることが、同軍の戦術的成功という結果を生んでいる可能性がある。

ウクライナ領ドネツィク州クリシチーウカ
2023-12-26
48.536583, 37.967127

クリシチーウカとアウジーウカの防衛は困難であるが、その主な理由の一つに兵站が難しい点がある。また、どちらの地域も完全な廃墟と化しており、建築物のすべてが防御物としてほぼ有効に使えないことも、その主たる理由の一つである。

とはいえ、バフムート地域においてロシア軍が大きな作戦上の戦果をあげることを、私たちの分析は予測していない。ロシア軍がウクライナ領内深くへと作戦機動を行い、大規模に領土を占領した2022年の戦争初期時とは事情は異なっており、来るべき攻勢の際にロシア軍が同じような大々的な成功をおさめることを、現状の評価分析は予測していない。

ウクライナ領ドネツィク州クルディウミウカ
2023-12-26
48.470171, 37.968513

私たちのチームが真剣に懸念していることに、ロシアがバフムート地域での戦術レベルの優勢をプロパガンダ目的で利用するかもしれないという点がある。このプロパガンダには、ウクライナ軍が2023年の夏と秋に獲得したものを、ロシア軍がひっくり返すのに成功したということをほのめかすというものも含まれる可能性がある。ロシアは外国からの支援で成し遂げられた成功をすべて無効にすることができるという意図のメッセージが、西側諸国に発信されることもありうる。つまり、このような支援は無駄で効果がないと、ロシアが描こうとする可能性があるということだ。

4.マリインカ、ノヴォミハイリウカ、ヴフレダル

マリインカ地域での危機的な状況とノヴォミハイリウカでの進展をみると、ロシア軍は以前説明した目標に向かって前進している模様だ。私たちは以前の分析で、ロシア軍の作戦目標にはヴフレダル後方及び兵站の遮断が含まれており、包囲し、守備隊を撤退に追い込むことを意図しているという評価を示した。2023年冬のヴフレダル戦でロシア軍はヴフレダルへの正面攻撃と側面迂回攻撃を試みたが、それとは対照的に、ロシアが現在とっているアプローチは、守備隊の撤退強要を目的とした兵站ルートの妨害・遮断をより重視したものになっている。

ウクライナ領ドネツィク州ノヴォミハイリウカ
2023-12-26
47.85303, 37.48752

私たちのチームはロシア側の成功の見込みをはっきりと評価することを控えているけれども、ドネツィク〜マリウポリ間の道路に有効な射撃がなされるのを妨げるのに十分なほど遠くに、ウクライナ砲兵を追いやることにロシア軍が成功しているのは明らかだ。この成果は、少なくとも一時的であるとはいえ、この地域におけるロシア側の最終目標に向けて役立っている。

まとめ

ウクライナ将兵が置かれている現在の状況は、2つの主な理由によって好ましくないとみなされている。その一つが動員の取り組みの遅れに起因する兵力不足であり、もう一つは米国議会が支援の承認ができずにいることに起因する砲弾と兵器の不備である。専門家や組織に属さない戦争ウォッチャーのなかには、このような状況をかなりマイナスに解釈する人もいるかもしれないが、私たちのチームは比較的明るい展望を維持している。ウクライナ軍が直面しているさまざまな状況が困難なものであるのは間違いないが、このことを利用してバランスを戦略レベルで崩すだけの優位性を、ロシア軍は欠いているようにみえる。そのため、私たちのチームは決定的な意味を持つような防衛の崩壊、もしくはウクライナの大失敗を予測していない。ただし、防衛地点における戦術レベルの敗戦は予期している。この状況が彷彿とさせるのは、昨年の初夏のバフムート周辺におけるウクライナ側の成功だ。当時そこで得られた戦術的な戦果は、全体的な戦力バランスを大きく崩すまでには至らなかった。


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