本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月9日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、すべてISW制作のもの(インタラクティヴ・マップの画像も含む)である。また、地図の一部は加工してある。
日本語訳:
ウクライナでの気象条件の悪化が伝えられるなか、ウクライナ軍は10月9日もザポリージャ州西部とバフムート周辺で反攻作戦を続けた。また、同軍は前進できた模様だ。ウクライナ軍参謀本部及び同軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐の報告によると、ウクライナ軍は、ヴェルボヴェ(オリヒウ南方18km)西方、クリシチーウカ(バフムート南西5km)付近、アンドリーウカ(バフムート南西10km)付近において、部分的な成功をおさめたとのことだ。また、ウクライナ南部では降雨によって視認状況が悪化しており、ロシア・ウクライナ双方のドローンによる偵察活動を阻害していると、複数のロシア軍事ブロガーが指摘している。ロシア軍事ブロガーの一人は、地面がぬかるみつつあり、装軌車両の移動を難しくしていると主張した。一方で別の軍事ブロガーは、地面はまだ車両移動をできなくするほどぬかるんではいないと主張した。正確な状況は戦線各所でまちまちである可能性が高いものの、天候は概ね悪くなっている。ウクライナ軍東部部隊集団報道官イリヤ・イェウラシュ大尉の報告によると、クプヤンシク〜リマン方面では、激しい降雨によって、ロシア軍は航空・ドローン活動に大きく依存しなくなっているとのことだ。
ロシア軍がフリャイポレ南方で局地的な攻勢作戦を実施したことが報告されている。また、ロシア軍が南部部隊集団の再編成を行った可能性がある。いずれも、ウクライナ軍反攻作戦に対するさらなる防衛の試みである可能性が高い。10月9日、ロシア軍第64自動車化狙撃旅団(東部軍管区第35諸兵科連合軍)に属する部隊が、マルフォピル〜チェルヴォネ方面(フリャイポレ南東6km)の「グレーゾーン」交戦地域のなかで数百メートル前進したことを、ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つとウクライナ人軍事ウォッチャーの一人が、それぞれ別に報告した。ロシア軍は大隊規模かそれ以下の規模で攻撃を仕掛けた模様であり、この作戦行動は戦術的なものである可能性が高い。また、ウクライナ軍戦力をザポリージャ州のさらに西側ではなく、フリャイポレ南方に引き付けておき、そこに拘束しておくことを意図している。このウクライナ人軍事ウォッチャーは、ロシア軍統帥部が最近、同軍南部部隊集団を2方面で行動させるために再編成したと伝えている。一つはドネツィク州西部のマリウポリ方面であり、二つ目はドネツィク州西部・ザポリージャ州東部の州境地帯のベルジャンシク方面であるとのことで、こちらにロシア軍は最も質の高い戦力を最大限、集結させているという。このウォッチャーは、この部隊集団は主に自動車化狙撃部隊で構成されていると伝えている。具体的には、東部軍管区(EMD)で「最も強力な」第5諸兵科連合軍(CAA)、「最も強力さに欠く」EMDの2個CAAである第29CAAと第36CAA、黒海艦隊所属の第40・第155海軍歩兵旅団、太平洋艦隊所属の第336海軍歩兵旅団であるとのことだ。この軍事ウォッチャーは、ロシア軍統帥部が新たな追加戦力及び兵器等の割り当てに関して、戦域のほかの部隊集団よりも南部部隊集団を優先していると伝えた。