Russian Offensive Campaign Assessment, June 15, 2024, ISW ⬇️
世界和平サミットの妨害を意図して仕掛けたプーチンの情報戦
戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが6月14日に行った、ウクライナの降伏に等しい極端な条件に基づくロシアの「交渉への意欲」とされる趣旨の情報工作は、6月15日にスイスで開催されたウクライナ主導の世界平和サミットの目的を混乱させることに成功している。ウクライナ大統領府の発表に従えば、このサミットの目的は、「国連憲章及び国際法に基づく(...)公正な平和」を達成するために、多国間の対話を促進することにあった。戦争終結に幅広く国際社会を関与させようとするウクライナ側の取り組みとウクライナ自体への広範な国際的支援を集めることを、サミットに参加した国や組織が進めていけるようにすることが、このサミットのそもそもの意図であったが、6月14日のプーチンの情報工作は、サミットへのロシアの欠席に国際的な話題を再び強く引き寄せることによって、サミットを妨害しようとしたものであり、それに部分的には成功した。ウクライナ大統領府長官アンドリー・イェルマークは、サミットが6月15日に開催される前に、ウクライナと世界のウクライナ支援国・組織は第2回平和サミットの場で、そこにロシア政府代表が出席するならば、ロシア政府代表に共同平和プランを手渡すことができると述べた。
プーチンは世界平和サミット開催前日に、ウクライナにおける「和平」交渉に関する要求を具体的に示した。その目的は、ウクライナがロシアの求める合法的な要求を西側が支援することを阻害することにあり、また、ロシアによる非合法な侵略戦争がロシアの勝利という不当な結果に終わらないことを保証する方法に関する国際的な合意構築という作業から関心をそらすことにあった。プーチンがあらためて述べた「和平」交渉の前提は、ロシアが不法に占領している領土とウクライナが実効支配している領土のロシアへの不法併合を認めること、ウクライナが非軍事化と「非ナチ化」(現在のウクライナ政府の転覆と親ロシア傀儡政権の樹立の意)に同意すること、ウクライナが外国との安全保障体制に参加する取り組みを放棄することを含んでおり、これは2022年の全面侵攻に先立ってプーチンが示した要求と等しく、この戦争の期間を通してプーチンが継続的に繰り返してきた要求と同じだ。それゆえ、事実上のウクライナの無条件降伏を前提としない「交渉」すべてに応じるというプーチンの申し出は、そもそも間違った理解を導くものである。その結果、「交渉への意欲」とされるものに関するプーチンの虚偽的発言は、ウクライナでの征服戦争に関して国連憲章の原則を守る気持ちのないプーチンがこの会議に招かれなかったこと、このサミットにプーチンが不在であることが、何らかの内在的な矛盾を示したことを浮き彫りにする方向に、国際的な話題を再び向かわせた。だが、それはうまくいかなかった。
複数の西側当局者は、ロシアがサミットの目的を脱線させようと試み、この会議へのロシアの不参加に注目させようと試みていることを認識していることを示した。米国のカマラ・ハリス副大統領は、6月14日のプーチン「和平」提案は交渉を求めたものではなく、(ウクライナの)降伏を求めたものだと述べた。オランダのマルク・ルッテ首相は、ロシアを「ある時点で」和平プロセスに関与させるべきであると述べたが、「現時点で」プーチンは交渉に関心がないことと、それゆえに6月14日に「馬鹿げた和平提案」を示した可能性が高いことを認識していることを示した。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、「ウクライナにおける和平はロシアの関与なしに達成できない」と指摘したが、ロシアが和平に関する共同でのあらゆる呼びかけを拒絶していることも指摘した。米国の特別政策問題担当国連代理大使ロバート・ウッズは、6月14日の国連安全保障理事会の場において、ロシアが和平サミット前日に国連安保理の招集を決めたことは、国際社会の関心を和平サミットからそらし、ウクライナにおけるロシアの戦争から世界の目を引き離そうとする取り組みの一環であると指摘した。
報告書原文の日本語訳箇所(英文)