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【抄訳】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 1830 ET 23.09.2023 “ウクライナ攻勢:戦況評価”

以下は、戦争研究所(ISW)の2023年9月23日付ウクライナ情勢評価報告の一部(以下に示した報告書冒頭8段落分、原文全体は上記URL先を参照)を日本語に翻訳したものである。また、記事中で使用した戦況地図等は、報告書原文に添付されているものを転載した。


ISW is now prepared to assess that Ukrainian forces have broken through Russian field fortifications west of Verbove in western Zaporizhia Oblast. These fortifications are not the final defensive line in Russia’s defense in depth in western Zaporizhia Oblast, but rather a specific series of the best-prepared field fortifications arrayed as part of a near-contiguous belt of an anti- vehicle ditch, dragon's teeth, and fighting positions about 1.7 - 3.5 km west of Verbove.

から

Ukraine’s simultaneous counteroffensives in Bakhmut and southern Ukraine are impeding Russia’s long-term force generation efforts as Russia redeploys its new reserves to defend against Ukrainian advances. Russian Defense Minister Sergei Shoigu announced that the Russian Ministry of Defense (MoD) formed a “reserve army” at the end of June, likely referencing the 25th CAA among other formations, which began recruiting personnel from the Russian Far East in mid-May. The formation of the 25th CAA was likely part of Shoigu’s announced intent to conduct large-scale force restructuring by 2026, and the use of these forces in combat and defensive operations will likely expend reserves intended for the long-term reconstitution and expansion of Russia’s military. The Russian military command has also likely been unable to fully staff or properly train the 25th CAA at this time. Budanov specified that the unfinished 25th CAA has about 15,000 troops, whereas the Russian military had reportedly hoped to recruit 30,000 contract personnel for the 25th CAA. Ukrainian military officials assessed that the 25th CAA would not be combat effective until at least 2024. Russia had previously attempted to form the 3rd Army Corps over the summer of 2022 as a reserve force but had deployed and expended much of this ill-prepared formation defending against Ukrainian counteroffensives in the fall of 2022.

まで

Russian Offensive Campaign Assessment, September 23, 2023, ISW

日本語訳:

ISWは現在、ザポリージャ州西部ヴェルボヴェ西方のロシア軍野戦陣地をウクライナ軍が突破したと評価して差し支えないと考えている。この野戦陣地はザポリージャ州西部のロシア軍縦深防御網の最終防衛線ではないが、最も準備の整った野戦防御陣地における、かなりはっきりとした特徴をもつ一帯である。この箇所はヴェルボヴェ西方約1.7〜3.5kmに位置しており、ほぼ隣接している対戦車壕・龍の歯・戦闘陣地による帯の一部として並んでいる。

ロボティネ〜ヴェルボヴェのロシア軍防御陣地
(黄線:対戦車壕、緑線:龍の歯、紫線:戦闘陣地)

ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団司令官オレクサンドル・タルナウシキー准将は9月23日公開のCNNのインタビューにおいて、ウクライナ軍がヴェルボヴェ付近の進撃軸左側面で「突破」に成功したと語り、ウクライナ軍が前進を継続しているとも語った。9月22日投稿の戦闘場面を撮影した動画に、ヴェルボヴェ付近のロシア軍戦闘用塹壕線陣地をわずかに越えたところで行動していたウクライナ軍のMRAP(耐地雷・伏撃防護車両)とBMP-2が破壊された様子が映っている。このことから、対戦車壕・龍の歯・戦闘陣地からなるロシア軍3層帯の背後に重装備をさらに展開できるほどウクライナ軍の前進が続いていることが分かる。民間で入手可能な衛星画像により、ウクライナ軍が過去96時間でヴェルボヴェのさらに近くまで重装備を投入していることが確認でき、それはタルナウシキーの発言内容と一致する。9月21日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は匿名のウクライナ軍空中強襲部隊将校の発言を引用して、ウクライナ軍がヴェルボヴェ西方で「限定的な突破」に成功したと報じた。

ロボティネ〜ヴェルボヴェ
(ザポリージャ州西部)

ウクライナ軍は、ヴェルボヴェ付近に位置する構築済みロシア軍防御陣地のすべてを打ち破ったわけではない。突破点付近でのウクライナ軍の進撃ペースは現状、よく分からない。ロボティネ(オリヒウ南方10km)とヴェルボヴェの間のロシア軍防御陣地をなす長い塹壕線の一部は、今でもロシア軍支配下にある可能性が高く、特に南側の戦術的に重要な高地付近の陣地に関してそれがいえる。ウクライナ軍が現在、ゆっくりと組織的に攻略している樹木線のほぼすべてに、ロシア軍は戦闘陣地をすでに整えていることが伝えられている。ヴェルボヴェの背後には、もっと多くのロシア軍野戦陣地が存在する。例えば、オチェレトゥヴァテ(オリヒウ南東26km)の北側には、さらに多くの対車両用塹壕と戦闘陣地が存在する。だが、これら陣地群にどのくらいの兵員が配置されているのかは不明だ。ISWの評価分析は以前と同様に次の通りだ。戦線上のこの地区にある縦深陣地に兵員を完全配置させるだけの兵力をロシア軍は有しておらず、もしこの縦深陣地に兵員が適切に配置されていない場合、ウクライナ軍はより迅速にロシア軍野戦陣地を越えて活動することができるはずである。

ウクライナ軍はザポリージャ州において、敵陣地深くへの突入を進めており、ノヴォプロコピウカに攻撃を仕掛けている。ここは最前線の集落で、ロボティネすぐ南側1.5kmに位置する集落だ。9月23日投稿の動画で、撮影地点の特定が可能なものに、ノヴォプロコピウカ北側外周部でウクライナ歩兵2名を待ち伏せ攻撃し、その2名を殺害したロシア軍第70連隊(第58諸兵科連合軍第42自動車化狙撃師団)隷下部隊が確認できる。このことから、ウクライナ軍がロボティネ〜ノヴォプロコピウカ間のロシア軍陣地を掃討した可能性の高さが窺える。複数のロシア側情報の報告によると、ロシア軍は9月22日にノヴォプロコピウカ北部に対するウクライナ軍の攻撃を撃退したとのことだ。このことは、ノヴォプロコピウカの集落端に対するウクライナ軍地上攻撃の確認例として初めてのものだ。

ウクライナ軍は冬季も反攻を継続するつもりであることを、ウクライナ当局者が語った。タルナウシキーはCNNに対して、トクマク(ザポリージャ州西部におけるロシア軍一大拠点)到達後のウクライナ軍大突破を予期していると語り、ウクライナ軍が現在保持しているイニシアティヴを失わないことが肝要だとも語った。タルナウシキーはまた、ウクライナ軍は車両を用いず主に徒歩で前進しているため、冬の間も作戦を継続していけるし、そうであるがゆえに、厳しい気候はウクライナ軍反攻に大きな悪影響を与えないとも述べた。ウクライナ国防省情報総局(GUR)の局長キリロ・ブダーノウ中将は、9月22日公開のThe War Zoneのインタビューにおいて、ウクライナ軍冬季作戦に関して同様の評価を示した。季節性の気候が地上移動を阻害し、兵站に問題を及ぼすことはありうるが、それによって、ウクライナ軍反攻作戦が完全に終結することにはならないだろうという評価を、ISWはすでに下している。ウクライナ軍反攻が攻勢限界に達する要因はむしろ、ロシア・ウクライナ両軍の戦力バランスであったり、西側のウクライナ支援であったりすることになる可能性が高い。

ロシア軍第810海軍歩兵旅団(黒海艦隊)は、ザポリージャ州西部のウクライナ軍反攻の結果、撃破されてしまった可能性が高い。9月22日付のThe War Zoneのインタビューでブダーノウは、第810旅団がウクライナ南部で「完全に撃破された」と語った。第810旅団はすでに後退し、その代わりにロシア空挺軍(VDV)部隊が前線に投じられているとブダーノウは語った。第810旅団の状態に関するブダーノウの説明は、「撃破[destory]」という戦術任務に関する米軍のドクトリン上の定義とほぼ一致する。つまり、「戦力再建できるまで、敵戦力を物理的に戦闘不能にする(こと)」という意味だ。第810旅団隷下部隊は2023年3月以降、ザポリージャ方面で作戦行動を続けており、2023年6月からはザポリージャ州西部で行動中と伝えられている。ISWが以前の2022年10月に第801旅団を確認した際、同旅団はヘルソン州で行動中と報じられており、ザポリージャ州の陣地を担当する前の一時期、後方で戦力を再建していた可能性が高い。第801旅団は繰り返し甚大な損失を被っていると伝えられており、ウクライナ軍は過去にこの部隊を撃破したことがある。そして、その後、ロシア軍はこの部隊を再建した。2022年4月19日のウクライナ軍参謀本部報告によると、第801旅団の兵員158名が戦死し、約500名が負傷したとのことだ。2022年7月31日、GUR副局長ヴァディム・スキビツキー少将は、第801旅団の200名の兵員がウクライナでの戦争に戻ることを拒否したと述べた。また、2022年9月12日にウクライナ軍参謀本部は、ヘルソン方面で第801旅団はその兵力の85%を超える人数を喪失し、多くの者が再び戦闘復帰を拒否したと報告している。

バフムートにおけるウクライナ軍の目的が、ロシア軍をそこに釘付けにしておくことにあることを、一人のウクライナ当局者がはっきりと認めた。ウクライナがロシア軍をバフムートに釘付けにしておくことで、クプヤンシク方面にかかる圧力が軽減されている可能性がある。GUR局長キリロ・ブダーノウ中将は、バフムートにロシア軍を釘付けにし、(ウクライナ南部のような)戦域の他地区へのロシア軍戦力の移動を阻止するという目標をウクライナ軍が達成したと、9月22日付インタビュー記事中で述べている。ブダーノウはまた、最近創設されたが完全に編成が終わっていない東部軍管区所属第25諸兵科連合軍(25 CAA)を、ロシア軍は「だいたいバフムートの北方」に展開させたと語った。以前の8月31日のブダーノウ報告によると、ロシア軍はクプヤンシク方面に25 CAAを第41諸兵科連合軍(41 CAA)と交替して配置し、41 CAA隷下部隊は「ゆっくりと」ウクライナ南部への配置転換を始めたとのことだった。クプヤンシクではなくバフムートに25 CAA隷下部隊をロシアが配置したことが、クプヤンシク方面にウクライナ軍を拘束するというロシア軍の取り組みを阻害している可能性は高い。というのも、ロシア軍にとって、41 CAAの代わりに攻撃を続けるのに25 CAAが必要だからだ。クプヤンシク〜スヴァトヴェ〜クレミンナ線においてロシア軍は再編成と兵員ローテーションを続けており、この方面でのロシア軍攻勢のペースと激しさが、ここ数週間、かなり落ちてきていることを、ウクライナ当局者とロシア側情報筋が示している。そして、25 CAAの配置先を変更したことで、この方面の圧力が幾分緩和されている可能性がある。バフムート南翼でのウクライナ軍反攻作戦は、かなりの規模のロシア軍戦力をバフムートに拘束しているというISWが最近示した評価を、ブダーノウ発言は裏付けている。このバフムート方面のロシア軍戦力は、拘束されていなかったならば、南部のロシア軍防衛の増強に投入できたであろうし、今回のケースにおいては、クプヤンシク周辺でのロシア軍の攻撃に抵抗するために、ウクライナ軍が戦力再配置をせざるを得なくなるように仕向けることに用いられただろう。

ルハンシク州〜ドネツィク州

ウクライナがバフムートと同国南部で同時並行的に反攻作戦を行ったことが、ロシアの長期的な戦力増強努力を妨害している。このことは、ウクライナ軍進撃への防衛のために、ロシアが新設予備戦力を再配置したことに示されている。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は6月末、ロシア国防省が「予備軍」を創設することを発表した。そこには、ほかの部隊とともに25 CAAが含まれていた可能性が高い。そして、25 CAAは5月中旬からロシア極東地域での募兵を始めていた。2026年までに大規模な戦力再建を実施するというショイグが発表した意図の一部に、25 CAAという編制が含まれていた可能性は高い。そして、戦闘及び防衛任務にこの部隊を使っていることは、ロシア軍の長期的な戦力再建及び戦力拡張に必要な予備戦力を、浪費してしまうことにつながる可能性が高い。また、ロシア軍統帥部は現時点で、25 CAAを完全充足させ、25 CAAに適切な訓練を受けさせることができずにいると思われる。ブダーノウは編成未完了の25 CAAの兵力は約15,000人だと具体的に述べたが、ロシア軍は25 CAAのために契約兵士30,000人を集めたいと考えていたと報じられている。ウクライナ軍関係者は、早くとも2024年まで25 CAAが戦闘能力を得ることはないと評価していた。ロシアは2022年の夏、予備戦力として第3軍団の設立を試みたことがあったが、2022年秋のウクライナ軍反攻に対する防衛任務に当たらせるために、この準備不十分な部隊の多くを前線に投入し、無駄に使ってしまった過去をもっている。

バフムート方面

附記:

本日(9月23日付)のISW報告から興味深い情報を2点、以下に紹介する。

  • GUR局長キリロ・ブダーノウ中将は、9月22日のロシア黒海艦隊司令部攻撃の結果、ザポリージャ方面ロシア軍部隊集団司令官アレクサンドル・ロマンチュク大将を負傷させたと、9月23日公開のVOA(ヴォイス・オヴ・アメリカ)のインタビューで語った。

2023年9月23日時点のロシア黒海艦隊司令部
(クリミア半島セヴァストポリ)
  • ロシア政府内の情報筋が、軍内の政治的・イデオロギー的問題への取り組みとして、政治的問題に関わる軍将校(政治将校)の再導入を主張している。

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