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【SNS投稿和訳】2023年のウクライナ戦況と2024年の展望(Emil Kastehelmi氏)

上記のリンクは、フィンランドのOSINTグループ“Black Bird Group”の一員であるエミール・カステヘルミ氏によるX(旧Twitter)連続投稿の最初の投稿である(日本時間2024年1月4日01:57投稿)。

以下はこの連続投稿を日本語に翻訳したものである。なお、地図等の画像は原文から転載した。

日本語訳

2024年が始まったが、ウクライナでの戦争は続く。これは、昨年の重要な進展の一部を取りあげ、それが今年にどのような影響を及ぼすことになるのかに関するスレッドだ。

まずは数字を見てみよう。私たちの試算によると、2023年1月1日時点で、ロシアはウクライナの18.26%ほどを占領していた。そこから1年経ち、ロシアは18.27%を少し超えるくらい占領している。

領土奪取という観点で見ると、バフムートとその周囲の村落の占領は、昨年にロシア軍が成し遂げたことのなかで最も主要な戦果だった。

だが、この出来事の戦略的な意味はかなり限られたものであって、ロシアはこの場所から大きく続けていくことができなかった。

昨年のその他のロシア軍進撃を見ると、そのほとんどはひと握りの町や村を巡るものに限られていた。昨年、ロシア軍は何とかしてアウジーウカを包囲する脅威をつくり出そうと努めたが、甚大な損失を被ったのちも、ロシア軍はこの都市の方面のウクライナ軍防衛網を打ち破ることが、依然としてできずにいる。

ほとんどの方面でロシア側戦果は最低限にとどまっているとはいえ、ロシア軍はウクライナ軍夏季攻勢を、土地を広く失わず、食い止めることに何とか成功した。このことは成果とみなすことができる。それは、ロシアが苦闘の末、ウクライナ側の念願ともいえる戦略的目標を阻止できたからだ。

ウクライナ側の防衛はとてもうまくいっている。かなりの規模の金銭、物資、マンパワーを戦争遂行に費やし、そして失っているにも関わらず、ロシアはどの地域においても戦争を決する攻勢作戦での勝利に達することはできなかった。大きく状況を見ると、ロシアが手に入れたものは、はっきりいって極々小さな最低限のものに過ぎない。

ウクライナはロシアを長く続く消耗傾向の戦闘に何度も引きずり込んでおり、そのことは時として予想外の結果をもたらすことになった。例えば、バフムートで頑強に抵抗したことが、2023年6月のワグネル武装蜂起の一因になったとみなすこともできる。この武装蜂起は、本戦争のなかで唯一のロシア国内における大きな軍事的危機だった。

ウクライナ側の防衛行動が、ワグネルとロシア国防省の間にあった亀裂を広げた。この諍いは屈辱的なかたちで公になった。ウクライナはバフムートという都市を失ってしまったとはいえ、その努力はワグネルという効果的な戦闘部隊を前線から離脱させることに貢献したのだ。

ウクライナ軍はロシア軍の攻撃を食い止めることができたが、ウクライナ自身の攻勢作戦は困難な任務になったままで、戦略目標は何一つとして達成できなかった。昨年の夏と秋の成果で最大のものは、南部戦線の2つの主攻勢方面で起こった。

バフムートでのウクライナ側の反撃は一定の領土奪還につながった。だが、2023年の秋と冬、ロシア側の反撃が始まった際、解放した領土の一部を再び失ってしまった。この件に関しては、以前のバフムート関連スレッドに詳細が記してある[*訳者注:以下リンクは、そのスレッドの拙訳]。

ただ、反転攻勢はいくつかの局地的な成功をもたらした。ヴェルカ・ノヴォシルカ付近の突出部は消え去ったし、ウクライナはトクマクへ向かうやや大きな突出部をつくった。また、バフムート〜チャシウ・ヤール地区で今後包囲される可能性は消滅した。だが、このような成果は十分とはいえない。

夏季攻勢で表面化した困難な問題に関して、このスレッドで深く取りあげるつもりはない。なぜなら、問題点の多くがすでに広く議論されているとはいえ、いまだに明らかになっていないことが多いからだ。そうではあるが、今後を示唆するものが何点かあり、そのことはここで踏み込んでみる。

次の夏に行う可能性のある攻勢を開始するのにかなり良い進発点を形成することに、ウクライナは失敗した。ロシア軍の防衛網は今後、再び頭の痛い問題としてあらわれてくるだろう。一方で、次の夏に防衛網をさらに計画して築くための時間を、ロシアはもてている。

また、ウクライナが攻勢作戦と防衛作戦の双方を成功させるのに、西側からの軍事支援は極めて重要だ。残念な話ではあるが、現時点で西側からの支援はあまりうまくいっている様子がない。供給数量は落ち込んでおり、欧州諸国の備蓄数量はますます低下している。

新たな物資が決定的な数量になるほど届いていないにも関わらず、ウクライナは新しい機械化旅団を数個、創設したいと考えている。それと同時にウクライナは、最近失った装備の埋め合わせを行わなければならない。

もっと多くの男性が動員されることになるが、そうすると前線に経験の足りない兵士が多く投じられることになる。

2024年の一年は、やや静的な「隙間の一年」になっていく可能性が大きい。この戦争の将来は、西側諸国の展開に大きく左右される。西側の軍需生産能力が増加するまでは、そして、米国の政治的混乱がおさまるまでは、ウクライナが外国からの支援を増やすためにできることは多くない。

一方で2024年がロシア軍の戦勝マーチの年になることもないだろう。ロシアが複数年にわたって戦争を続けることは、技術的には可能かもしれない。だが、それはロシアにとって好ましいことではない。プロパガンダ屋として最適な人物でさえ、重要な勝利がないまま、犠牲の大きな戦争がさらに一年続くことを、ロシア国民に説明するのは難しいように思える。

ウクライナが切迫した状況になっても崩壊は起こらない。支援が乏しくても、ウクライナは戦線全体でロシアに対する防衛ができるだろう。また、ウクライナが夏に何がしかの攻勢を試みることも可能だ。しかし、そのような攻勢が2023年と比べて局地的なものになる可能性は大きく、そうでない場合でも、2023年と比べて、少なくともどこかに集中して行われることになる可能性は大きい。

私たちのチームBlack Bird Groupは2023年の一年間、ウクライナでの戦争の徹底的なモニタリング、マッピング、分析を行ってきた。同様な仕事を2024年も続けていく予定で、質の高い分析と地図を提供し続けていきたいと考えている。

注記その1

ここで説明した戦争の展開は、そのほとんどが陸上での出来事である。戦争のあらゆる面を一つのスレッドに収めることはできない。

このスレッドの冒頭で示したパーセンテージは試算である。そのため、地図制作者によっては、数値は微妙に異なってくるかもしれない。だが、数値が示す傾向は結局のところ変わりない。

注記その2

バフムート防衛がウクライナにとって、かなり大きな犠牲の伴う決断だったことを、このスレッドでしっかりと述べておくべきだった。バフムートを保持することには、多くの否定的な側面が伴った。たとえそれがロシア国内の戦闘を生むことに何らか貢献した可能性があったとしても、バフムート防衛の結果は、戦争全体で見て、十分な利益を実際にもたらすものではなかった。

かなり多くの時間、人間、リソースをバフムートに費やすというウクライナ側の決断によって、ロシア軍はウクライナ軍の比較的優秀な部隊をかなりすり減らすことができた。また、この決断によって、ロシア軍は来るべきウクライナ軍反転攻勢に備える時間を確保できた。

なお、バフムートがどちらにとって賢明な作戦だったのかについて、見解を示すことは、私の目的とするところではない。

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