以下は、戦争研究所(ISW)の8月26日付ウクライナ情勢評価報告から、ウクライナ軍攻勢に関する記述を引用し、それに日本語訳をつけたものになります。なお、本記事中で使用した地図は、ISW制作地図の転載とISWインタラクティブ・マップからの画像になりますが、その一部は加工してあります。
日本語訳:
ウクライナ軍はザポリージャ州西部で戦術的に重要な戦果をさらにあげている。また、ロシア既存防御陣地帯のなかで最も難関だとウクライナと米国の情報筋が推測していた箇所を抜けてウクライナ軍が前進していると、ウクライナ・ロシア双方の情報筋の一部が報じた。8月25日に公開された撮影位置特定可能な動画によって、ウクライナ軍がノヴォプロコピウカ(オリヒウ南方13km)の北東で南に向かって1.5km前進したことが分かる。米国統合参謀本部議長マーク・ミリー大将は、ウクライナ軍が現在、進撃軸沿いにあるロシア軍既存防衛陣地の主要な一帯を突破して攻撃を行っていると、8月25日に述べている。8月26日にロイター通信は、ウクライナ南部で戦闘中のウクライナ軍指揮官の一人が、ウクライナ軍はこの地域のロシア軍防衛線上の最難関箇所を突破しており、今後、よりいっそう迅速に進撃できるようになるだろうと語ったと報じた。また、ウクライナ軍が突入した地区で遭遇したのはロシア軍の「兵站グループ」のみであり、この地域でのウクライナ軍のさらなる前進はいっそう容易になるだろうと、このウクライナ軍指揮官が語ったとも報じている。ロシア軍事ブロガーの一人は、ヴェルボヴェ(オリヒウ南西18km)付近に位置する後方地域防衛線に向かってウクライナ軍が攻撃を行っていると、8月25日に主張した。この主張は、ウクライナ軍が現在浸透突破中のロシア軍防衛陣地帯内部の戦術次元の後方地区に、同軍が入っている可能性を示唆している。だが、ウクライナ軍が作戦次元のロシア軍後方地域に突入しているとこれらの報告から解釈するのは誤りであり、そのような誤解は避けねばならない。
日本語訳:
ウクライナ軍は現在、さらに次のロシア軍既存防御陣地帯を攻撃できる距離内に位置している。この陣地帯はすでに突破したロシア軍防御陣地帯よりも弱体であるかもしれないが、依然としてかなりの難関である。ウクライナ軍が現在、突破進撃している防御陣地帯は、多重層の地雷原と強化防御施設によって構成されており、ロシア軍はそこを保持するために相当なマンパワー・物資・労力を注ぎ込んでいた。現在、ウクライナ軍が前にしているロシア軍防御陣地帯には、対戦車壕、“龍の歯”対戦車障害物、さらなる地雷原といったものが、その前のものと比べてより連続的に配置されており、それらの背後にロシア軍の戦闘用陣地が存在し、つまるところロシア軍第1防衛線と酷似している。だが、この既存防御陣地帯が設置されている地区の地雷原がどの程度のものなのかは不明である。この陣地帯の北で任務遂行中のロシア軍の退路を確保しておくために、あまり重厚な地雷埋設を行っていない可能性がある。この既存防衛陣地帯は、ウクライナ軍がその北方で既に突破した陣地と比べて、あまり強固に守られていない可能性を、ISWは最近新たな評価分析として示したが、この可能性が事実かどうかは、まだはっきりと分かっていない。
ロシア軍の各「防衛線」は、それぞれ前方陣地と後方陣地をもつ多層構造の防御拠点であり、個々のロシア防御陣地内部の後方と、ウクライナ南部戦線全体で見た際のロシア軍防衛網の後方とを区別することは重要だ。それに加えて、ロシア軍既存防御陣地がウクライナ南部戦線全体で均一なものではなく、そこに兵員が完全に詰めているわけでもないという意味において、ロシア軍防衛「線」というものは、概念的な存在といえる。現在のウクライナ軍進撃のもっと南方に新たなロシア軍既存陣地帯があるが、まとまった防御作戦任務に組み込むための将兵と物資をロシア軍が用意できる場合のみ、これらの防御陣地をロシア軍は完全に有効利用できるようになる。
日本語訳:
ウクライナ側情報筋の一つが示した情報によると、ロシア軍はルハンシク州クレミンナ地区からザポリージャ州西部ロボチネ地区へと、比較的優良な編制に属する部隊を横滑り的に再配置している模様だ。あるウクライナ予備役将校は、ロシア軍がクレミンナ地区からロボチネ地区へと、第76親衛空中強襲師団(第76VDV師団)所属の部隊を移送したと伝えた。ISWは第76VDV師団隷下部隊がクレミンナ地区で活動中であることを確認しているものの、第76VDV師団隷下の全部隊がクレミンナ地区に展開しているのかどうか、もしくは、どの部隊がクレミンナ付近に残っているのかに関して、事実確認することができない。ウクライナ軍が現在、攻勢作戦を実施している地域で活動中のロシア軍VDV部隊のほとんどすべてを、ISWは現時点で確認している。そこには、ウクライナ南部で行動中の第7親衛山岳VDV師団隷下部隊、また、バフムート付近で行動中の第98親衛VDV師団・第106親衛VDV師団・第11親衛VDV旅団・第83親衛VDV旅団の各隷下部隊が含まれている。ロシア側情報筋の一つは、第31親衛VDV旅団隷下部隊もバフムート地区で防衛任務にあたっていると主張しているが、この部隊の存在を示す新たな情報をISWは確認していない。第7親衛山岳VDV師団隷下部隊がヘルソン州からロボチネ地区に横滑り的に再配置されたことと、第76VDV師団隷下部隊がクレミンナ地区からロボチネ地区へと横滑り的に再配置されたことは、ロシア軍が比較的優良な部隊を使って、戦線上の極めて重要な地区を増強している可能性を示唆している。この横滑り的部隊配置転換が仮に事実だとしたら、大規模な作戦予備戦力がロシア軍にないため、ロシア軍統帥部は横滑り的部隊配置転換をさらに行わざるを得なくなり、戦線上で重視する地区を選択せざるを得なくなったというISWの評価分析は、これによりいっそう裏付けられることになる。これらVDV編制に属する部隊は、戦線上の特定の地区に関して、ほかの地区以上に、大きく関わっている可能性がある。また、各編制が旅団もしくは師団レベルでまとまって任務を遂行している可能性は低く、したがって、あらゆる報告は、ある編制に関連する部隊のことを指し示しているものとして理解するようにすべきだ。