見出し画像

【SNS投稿和訳】ウクライナ軍は戦線の一部を“突破”したのか?(by Emil Kastehelmi)

フィンランドのOSINTアナリスト・軍事史家のエミール・カステヘルミ氏が、地上戦闘における「突破(breakthrough)」と「啓開(breach)」の相違を示しつつ、ウクライナ攻勢の現状がこのどちらに当てはまるのかを、以下のX(旧Twitter)連続投稿で解説しています(日本時間2023年9月25日01:49投稿)。この連続投稿を日本語に翻訳していきます。

日本語訳:

ウクライナはヴェルボヴェ西方での支配地域を広げており、装甲車両は第1スロヴィキン・ラインを越えて行動している。それと同時にバフムート南方では、アンドリーウカとクリシチーウカの両村落が解放された。

さて、私たちは今、突破[breakthrough]を目にしているのか? このスレッドで検証するにはよいタイミングだ。

9月、ウクライナ軍はヴェルボヴェ西方の野外で数km前進し、主防衛線を越えた。同軍はまた、ロボティネ南方の強化防御陣地を制圧し、さらに南へと進み続けた。ロシア軍の反撃は、失地回復に成功しなかった。

また、ウクライナは今や各種装甲車両をスロヴィキン・ラインの反対側で運用することができている。差し当たってロシア軍の対戦車能力がある程度抑え込まれている可能性は高いとはいえ、さらに大規模なウクライナ軍の部隊集結と移動は、依然として空から見つかる可能性がある。

ウクライナが毎月続けて、ゆっくりと進んでいるにも関わらず、私たちは実際の突破[breakthrough]をまだ目撃していない。

突破[breakthrough]において、攻撃というのは、敵戦線を貫くだけなく、一定地域の敵側防衛能力を相当深刻に崩壊させる要因になることを意味する。

突破[breakthrough]には、つけ込むことができ、さらに増強することができるような成果が必ず存在し、それが防衛側を受動的な状態に追い込み、元々の防衛計画の実行を不可能にする。この状況下において、防衛側は組織的に行動できなくなるはずで、退却もしくは大規模損失のリスクにさらされることに、否応なく直面することになる。

機械化部隊を用いた機動作戦も可能になるはずで、速度こそモメンタムを持続する中核的要素となる。もし敵軍がこのような作戦行動を決定的なレベルで制約する、もしくは完全に防いでしまうことができていれば、突破[breakthrough]は実際には起こっていないということだ。

ウクライナが今次攻勢の期間、どの方面でも突破[breakthrough]を達成できていないとはいえ、戦線啓開[breach]は目撃されている。ウクライナ軍は複数の前方防御陣地を占拠し、第1スロヴィキン・ラインとして知られている第1主防衛線の一部を制圧している。

今でもロシア軍は組織的な防衛の実施ができている。ロシア軍防衛線は押し込まれて、窪んでしまっているが、破られてはいない。ロボティネ〜ヴェルボヴェ地区の突出部は、当然のことながら、ロシア軍にとって問題ではある。しかし、戦況が制御不能な状況に巻き込まれるのを阻止することができるのに十分なリソースを、ロシア軍はもっているようにみえる。

今年の間に突破[breakthrough]を目にするチャンスはあるのだろうか?

もしロシア軍が賢明な方法で自軍部隊の運用を続け、ウクライナ軍の攻撃を撃退することに注力するのなら、突破[breakthrough]の可能性は低いと私は考えている。だが、無能さというのは大きな要因であって、少なくとも局地的には、それが甚大な影響を及ぼす可能性はある。

重要な変動要素の一つにロシア側の損失がある。ロシア軍にとって、この状況が実際にどの程度の問題になっているのかは、明確に把握できていない。

ある時点で、おそらくプーチンは再び動員の実施を迫られるだろう。この決定を遅らせることは、ロシア軍に深刻な結果を招きうるが、ウクライナ軍にとってはプラスの結果になる。

開戦当初の数週間が終わったのち、この戦争において、突破[breakthrough]は全般的にまれな出来事になっている。ウクライナ軍は昨秋、ハルキウにおいて何とか突破[breakthrough]を行うことができ、かなり大きな成果をもたらした。それよりも小規模のものだが、2022年夏季にロシア軍がリシチャンシクを占領した際、ロシア軍による突破[breakthrough]の達成があった。

Brack Bird Group”の私たちのチームは情勢モニターを続けています。私たち制作のインタラクティヴ・マップは、(ほぼ)毎日更新されています。地図のサイドパネルにある「ロシア軍防衛線(Russian Defence Lines)」レイヤーをクリックするのをお忘れなく。これによって、戦況理解がもっと捗ります。


附記:

IISSのフランツ=ステファン・ガディ氏が、上述のカステヘルミ氏の連続投稿に関するコメントを、X(旧Twitter)に投稿しています。重要な指摘ですので、こちらも日本語に翻訳していきます。

日本語訳:

この素晴らしい連続投稿に加えて。あらゆる突破[breakthrough]には、戦術的に重要な地形(例えば高地)を敵から奪取することが要求される。メディアの注目は、いくつかの村落の名前に集中してしまうが、これによって、この地域の戦場に存在するほかの地形特徴の重要性をよく分からなくしてしまう。

集落以外の戦術的にかなり重要な特徴をもつ地形の確保があれば、それを突破[breakthrough]が達成された指標の一つ、もしくは、突破[breakthrough]が進展している可能性がみられる指標の一つと、私はみなすだろう。だから、差し当たり、私が目撃している現象は、依然として戦線啓開[breach]であって、突破[breakthrough]ではない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?